どうすれば相手が喜んでくれるか、どうすれば面白いものになるか……。古今東西の経営者、著名人はじめ、結果を出す人はみな「思考」することを止めません。どうすれば自分も、あんなふうに「思考中毒」になれるのか? その方法を教えてくれるのが、テレビでもおなじみ、齋藤孝先生の『思考中毒になる!』です。読んで実践すれば、面白いように結果がついてくる、齋藤先生とっておきの「思考のコツ」をご紹介しましょう。
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ラスコーリニコフになるな
世界的な文学作品の一つであるドストエフスキーの『罪と罰』の中に、「考える」をめぐって示唆的なシーンが登場します。
主人公であるラスコーリニコフは、学費を滞納して大学を除籍されたインテリ貧乏青年。頭脳は明晰ですが、世間からは相手にされず、自分への評価の低さに不満を持ちながら粗末な下宿にこもっています。
下宿の使用人をしている娘のナスターシャには、彼の行動が不可解に映ります。2人はこんな会話を交わします。
「(前略)この頃はどうして何もしないのさ?」
「しているよ……」としぶしぶ、ぶっきらぼうに、ラスコーリニコフは言った。
「何をしてるの?」
「しごとだよ……」
「どんなしごと?」
「考えごとさ」彼はちょっと間をおいて、まじめな顔で答えた。
(『罪と罰』新潮文庫より)
ラスコーリニコフは「考えごと」が仕事であると主張するのですが、ナスターシャにしてみれば、いったい何をやっているかよくわかりません。
挙げ句の果てに、彼は金貸しの老婆を殺害する計画を思いつきます。「老婆を殺せば、借金に苦しむ人たちが解放される」「一つの小さな悪は、百の善行に償われる」という発想に、彼はしだいに呑み込まれていくのです。
「考えている」時間を増やせ
「考えごと」をしているとき、実はほとんど脳は働いていません。私は以前、医師である東北大学加齢医学研究所の川島隆太先生と対談したことがあります。
川島先生によると、人が考えごとをしているときに脳の前頭前野の血流を測ると、実はそれほど活発でないことが判明したといいます。むしろ、日本語や英語を音読しているときのほうが、血流量が増加したのだそうです。単純な作業と思われている音読のほうが、脳を活性化させる。これが脳科学の研究からも明らかになってきたわけです。
考えごとのほとんどは「心配ごと」です。何かを思い煩い、物思いにふけっている状況を「考えている」と誤解している人は、意外に多いのです。
考えごとの特徴は、同じような思考を繰り返し、一向に進展しないところにあります。いわゆる「堂々めぐり」の状態です。考えごとをしているとき、私たちの心はさまよっています。
実は私自身、大学院時代に考えごとにとりつかれて、論文の執筆がまるで進まなかった経験があります。
当時の私はフロイトのような壮大な思想を構築すると決意し、毎日のように物思いにふけっていました。そのくせ、途中でミュージカル鑑賞などにハマってしまい、気がつけば1年近くを、1本の論文も書かないまま漫然と過ごしてしまったのです。
学者は論文を完成させてはじめて、考えた結果を形に表すことができます。論文を書かなかった時期の私は、自分では考えているつもりでも、実際には考えていないも同然でした。
まずは、考えごとをしている時間を「考えている」行為と区別する必要があります。考えごとをしている時間を減らし、考えている時間を可能な限り増やしていく。それを目指すことが重要です。
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