元ネスレ日本代表で、現在ビジネスプロデューサーとして数多の企業を成長に導く日本屈指のマーケター・経営者の高岡浩三氏の新著『イノベーション道場 極限まで思考し、人を巻き込む極意』が2022年4月に発売いたしました。本書では、ネスレ日本のトップとして数々の革新的サービスを生み出した高岡氏の経験から練り上げられた、理論と実践を収録。現状打破を考える、ビジネスパーソン必読の一冊です。今回は本書の出版を記念し、M&A事業戦略などを手がけるコンサルティングファーム、Resolve&Capitalで行われた、高岡氏のセミナーの内容を一部ご紹介します。
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イノベーションとは何か?
巷でよく言われるイノベーションについてお話しします。しかしながら、「イノベーションって何ですか?」と言われると、言葉に詰まってしまう方も多いのではないかと思います。
私も、ネスレはグローバルでこのイノベーションを追求していながら、実は役員の誰も「イノベーション」を明確に説明できるものはいなかった、という笑い話があるぐらいなんです。
それが故に、「イノベーションとは何か?」というところを紐解きながら、それを実務的に社員達と共有しつつ様々なイノベーションに取り組んできた経緯を、皆さんにお話させていただきます。
本日お話させていただく内容につきましては、近代マーケティングの父と言われるフィリップ・コトラー先生と中身について議論を重ね、2人で数年前、これに関する本を英語で出版させていただいております。そういった意味ではアカデミックな権威からのお墨付きも頂いてる、ということでご理解いただければと思います。
マーケティングとイノベーションの深い関係
イノベーションとは、実はマーケティングとも関係するんですけれども、マーケティングそのものの、わかりやすく言えば顧客、これはB to C/B to B関わらず、必ず顧客のために、その商品あるいはサービスを販売、提供していると、誰しもに顧客があります。その顧客が諦めている問題を解決することによって作り出される、付加価値を作っていく活動をするのが、マーケティング活動と言っていいのではないでしょうか。
例えば、「生活空間が暑苦しい」という問題は、人類の歴史上、太古から存在しているわけです。だけども、その数千年の歴史、人類の歴史の中で長らく、世界のどこに行っても家に扇子のようなものしかなかった時代が続いたわけです。
家の暑苦しさをどう解決するか
これは太古の時代に、大きな植物の葉っぱをむしり取って、扇子をつくったところから始まったとされています。そして第3次産業革命が起こった100年程前に、電気と石油が発見されて発明され、そこで初めて家電製品のようなイノベーションが続々と生まれました。扇子に変わるものを人類はつくったわけです。
イノベーションは市場調査では出てこない
その時代に仮にマーケティングがあり市場調査をやったとしても、もちろん誰も扇風機を作ってくれ、とは言わない。だからこそ、これが諦めてる問題の解決。すなわちイノベーションです。ただ、この扇風機も当時は首も回らないし、ボタン一つしかなかった。
それを手にした瞬間に、家族が何人かいれば、場所の取り合いになるので首を振ってほしいとか、もっと柔らかい風や強い風が欲しいという要望も出てきます。つけたまま汗をかいて寝てしまったら、風邪をひいてしまうという問題は世界共通なので、タイマー機能が欲しいといった、問題解決が次々と生まれてくる。それは市場調査で出てくるものなんで、それはリノベーションといいます。
イノベーションとリノベーションの違いとは
ですから、扇風機という初代のイノベーションが起こった後に、連続してリノベーションが起こるわけです。そして、扇風機登場から数十年経った後に、今、我々が最も恩恵を享受してるのがエアコンが登場します。
当然、これは市場調査から生まれているわけではないわけですね。
ただ、このエアコンもですね、今は除湿機能から空気清浄機の役割に至るまで、さまざまな新しい機能が消費者の声からつくられてきました。新たに気づかれた問題を解決するようなリノベーションが何十年も経ってからいまだに続いているのです。
ハーバードの故・クリステンセン教授は、彼は「イノベーションのジレンマ」という大ベストセラーの中で、実はイノベーション自体の定義は行ってなくても、イノベーションを破壊的イノベーションとサステイナブル(持続的)イノベーションの二種類に分類しました。それは今、私がご説明したイノベーションとリノベーションの関係に他なりません。
顧客が認識している問題の解決=リノベーション
顧客の諦めている問題なのか、あるいは顧客が認識している問題の解決なのか。これがリノベーションとイノベーションの違いだ、とご理解いただければと思います。
その顧客の問題は二通りあります。ひとつは顧客が認識している問題。それと、認識していない、すなわち「そんな問題解決できそうにないから」と鼻から諦めているような問題。問題を見つけ出して、解決できるものはイノベーションと呼びません。
20世紀に我々がやってきたマーケティングは市場調査を使って、顧客の問題を発見していたぐらいです。そこから生まれるものは、ほぼリノベーションであってイノベーションではない、というのが基本的に私とフィリップコトラーが同意した考えですね。
産業革命の意義とは
先ほど申し上げたように、顧客が諦めているような問題を解決しようとするときには、人類が今まで持ってなかったような新しいエネルギーが必要になる。だからこそ、イノベーションは産業革命によってもたらされてきた。それによって人類が新たなエネルギーを持つわけです。
第一次産業革命の石炭によって、第二次産業革命は石油と電気です。そして20世紀終わり頃に、インターネットやデジタル、それからAIといった第三次産業革命と言われる新しい技術を持って、新しい、諦めている問題の解決をしてきました。
それがいわゆる「GAFAM」と言われる巨大なITのプラットフォーマーたちの成功です。実はこのインターネットとかAIを使って今まで解決できなかった、すなわち第2次産業革命の電気や石油では解決できなかった問題を解決してきた。
顧客の諦めている問題を発見するには
よく巷では問題解決能力というものを身につけるセミナーや研修が数あります。ですが、私の持論であり、コトラー先生も同意していたのですが、イノベーションを起こすためには、顧客の諦めている問題の発見能力の方が圧倒的に難しいし重要です。
顧客がそもそも口にも出さない、諦めているような問題ってどんなふうに見つけていったらいいのか? というのが最も大きなテーマです。私はネスレ日本の中で、あるいはネスレグローバルで広めていくために、自分の経験から考えNRPS法というものを導き出しました。
NRPS法というのはNewReality(新しい現実)、Problem(問題)、Solution(解決策)の頭文字から名付けた名称です。
私が大学卒業して入社した頃、ほとんどの大企業の経営者の方々は「変化に取り残されると、企業もダーウィンの法則のように滅びてしまう」と異口同音に仰っていました。
ところがその後、この30年の中で、日本企業のほとんどがこのデジタルの変化に乗り遅れ、いま惨憺たる結果になっていることを思うと、どうも30年40年前から日本の経営者は、変化というものの本質をわかっていなかったのではないかと感じます。
変化を正しく捉えるために
変化とは何なのか?それは、NRPS法で言う「新しい現実」にあたります。
一方で、このコロナの現状を「新しい現実」として捉えるにはまだちょっと早いと思っています。10年ぐらいのスパンの中でも、これ以上状況が変わらないところまできて初めて「新しい現実」と呼べるのではないでしょうか。
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高岡浩三氏は、本書と同タイトルのビジネスプログラム「高岡イノベーション道場」を主宰されています。高岡氏がイノベーションの手法を伝え、受講者の実務へのアドバイスを個別指導で提供します。7月開講のプログラムへのお申し込みはこちら
今回、セミナーを開催した、株式会社Resolve&Capitalの情報はこちら
イノベーション道場
元ネスレ日本代表をつとめ、現在はビジネスプロデューサー・マーケターとして多くの企業を成長に導いている高岡浩三さん。近著『イノベーション道場』は、「ネスカフェアンバサダー」「キットカット受験生応援キャンペーン」など、数々の革新的サービスを世に送り出してきた高岡さんの経験から練り上げられた、「イノベーションを生み出す手法」を惜しみなく公開しています。現状打破を考えるビジネスパーソンなら必読の本書より、内容を一部ご紹介します。