相づちは、コミュニケーションをスムーズにする潤滑油。黒柳徹子さんや笑福亭鶴瓶意さんなど、聞いていて楽しい話芸のプロを見ていると、相づちの仕方にもいろいろあるのがわかります。伝説の特ダネ記者・近藤勝重さんが「この人なら話してもいい」と思わせる秘訣を解説する書籍『聞き出す力 「まさか」「ウソでしょう」で秘密の話が聞ける』より抜粋してお届けします。
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黒柳徹子さんのウソのない相づちの魅力
テレビの世界で聞き出すのが達者な人となると、やはり「徹子の部屋」の黒柳徹子さんは外せないでしょうね。結構なお年でしょうが、今なお健在。いや、とにかくテレビ創成期から各界の著名人にインタビューしてきた方なので、その蓄積ははかりしれません。
しかも数々のエピソードが頭の引き出しに整理して収められているのでしょう、「〇〇さんは、あなたと全く反対のことおっしゃってましたよ」とか、「〇〇さんがいらっしゃったとき、その話はこんなふうにおっしゃってたわよ」などと話に厚みが出て会話が発展していきます。
また徹子さんは実に正直に相づちを打ち、反応にウソがありません。「まぁー」「へぇー」「そうなのー」と尾を引く感嘆調で、面白いと思えば大いに笑い、面白くなければ、「それ、面白いです? 私、ちっとも面白いと思わない」と言ってのけます。
俳優の中村メイコさんが「徹子の部屋」でこんな話をしていました。
メイコさんが胆石を取る手術をするかも、と徹子さんに話したところ、普通の人なら「あら、お大事にね」とか「大変ね」と応じるところですが、徹子さんはこう言ったそうです。
「石、取ったら私にちょうだい。そんな石、見たことないからちょうだいね」
徹子さんは人や物ごとへの興味の向け方が独特というのも、ゲストの思わぬ一面や話が聞き出せることにつながっているのでしょう、きっと。
テレビ人生はすでに68年目。蓄積された話術から「聞き出す力」の秘訣が学べそうですね。
信頼を呼ぶ関口宏さんの「静」の相づち
関口宏さんの「サンデーモーニング」での司会ぶりも手慣れたものです。「うーん、そうですね、うーん」と語らずタメて、決して吠えません。気負い立つ感もありません。
ゲストのコメンテーターにひと言求めたあとも、「ああ、なるほど。そうですねぇ」と穏やかに受けて実に静かです。全体として日曜朝にふさわしい「静」の人ですね。静は心理学的には「信頼」と同義だそうです。1987年(昭62)10月以来の長寿番組ですが、秘訣はそのあたりにあるのではないでしょうか。
相手の口まで軽くする高田純次さんの気軽さ
対照的なのはテレビ朝日の平日午前10時枠で放送される高田純次さんの「じゅん散歩」です。
「えー、私、テレビ朝日の『じゅん散歩』で参りました、マイケル・ジョーダンという者です」などと、店に入るやお得意の有名人の名前をかたるギャグを飛ばし、聞き出す相手を笑わせ、和ませるところから会話は始まります。
なんとも自由で気まま。店主に「こんなの遊びでやってんでしょ。持ち家?」などと冗談まじりにいろいろ聞き出して、返ってきた言葉にも思ったことをすっと口にする。あの軽さ、調子の良さがいいんでしょうね。
ある心理学者が、しんどいと思ったときは、高田純次さんか植木等さんを思い出せば気持ちが軽くなれます、と言っていましたが、確かに二人とも、ちょっと真面目なことを言ったあと、「なーんてね」と茶化す感じがあり、周りの空気がいつも軽い気がします。
気軽に聞き、相手も気軽に答える。高田さんならではのパーソナリティが作り出す話法なんですね。
笑福亭鶴瓶さんにみる大阪弁の親和力
そうそう、その人ならではのパーソナリティが作り出す話法で欠かせない人物がいました。笑福亭鶴瓶さんです。
NHKの人気番組「鶴瓶の家族に乾杯」では、鶴瓶話法の真骨頂が随所に発揮されています。
ある日の放送では、立ち寄った駄菓子店のおばあさんが、息子が鶴瓶さんのサインをもらったことがあると言い、部屋の仏壇がある方向を指さして、「(息子は)仏さんになっちゃった」と言いました。普通ならその場で、「えっ、亡くなったの?」とか、「病気で?」などの会話があるものですが、鶴瓶さんはすかさず「ほな、ちょっと拝まして」と店先から家の中に入って行きました。
「なんで仏さんになったん」
「脳溢血」
「倒れはったんや。いつ?」
「7回忌すんだ」
「あー、参らせて、それやったら」
と、深々と仏壇に手を合わせました。
まるで親戚のおっちゃんの振る舞いです。鶴瓶さんは、身内同士が持つ気安さの領域に難なく入って行き、がっちり心をつかんで話を聞き出します。
ちょっと気難しそうなおばあさんにも、「おかあちゃん」と呼びかけ、重い口も軽くしてしまいます。
何と言っても彼の親和力に富んだ大阪弁がいいんですね。前出の息子を亡くしたおばあさんに鶴瓶さんは、元気でいつまでも駄菓子店を続けてほしいと告げて、最後にこう言いました。
「がんばっててな」
そしてもう一度、
「がんばっててや」
この言葉に「優しくしたらあかん、泣くから」とおばあさんは涙ぐみました。いたわるような優しい言葉を投げかけたわけではありません。しかし鶴瓶さんのこの言葉の中にある優しさをおばあさんは感じ取ったのでしょう。
鶴瓶さんに聞かれれば何でも話してしまうというより、話したくなってしまうんでしょうね。
聞き出す力のある最高のパーソナリティと言えそうです。
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