相手の心をひらく聞き方と、閉じてしまう聞き方があるのはご存知ですか? 避けたほうがいいのは“問い質す”聞き方。話をあれこれ整理しないといけない時ほど、気をつけたいものです。伝説の特ダネ記者・近藤勝重さんが「この人なら話してもいい」と思わせる秘訣を解説する書籍『聞き出す力 「まさか」「ウソでしょう」で秘密の話が聞ける』より抜粋してお届けします。
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「現在─過去─未来」の流れは文章でも、聞き出すときも重要
大阪社会部時代の後半、デスクの横に座ってサブ・デスク的な役割で記者から送られてきた原稿の疑問点を聞き質して、出稿できるかどうかのチェックをしていました。「サンデー毎日」へ異動するまでの数年間でしたが、いや大変でした。
とりわけ、前年からのグリコ・森永事件に続き、豊田商事事件、山口組・一和会の抗争……さらには関西方面の乗客がほとんどだった羽田発大阪行きの日航ジャンボ機墜落事故と、大事件大事故が相次いだ1985年(昭60)は、おまけにといってはなんですが、10月に阪神タイガースまで優勝して、大阪が大きなニュースの発信地でした。僕は帰宅もままならず、社会部内のソファで仮眠して翌日の夕刊に備えるといった日もありました。
当然、頭もすっきりせず、原稿を送ってくる記者へも少々きつい口調での質問が多かったように思われます。
僕はどんな原稿でも3点にこだわってチェックしていました。
- 現在(今の状況、状態)
- 過去(その状況、状態をもたらした背景)
- 未来(その状況、状態がこれからどうなるのか)
事件であれ事故であれ、この3点がわからないと、読者には概略的なことも伝わらない。そう考えての3点チェックですから、おのずと「聞き質す」口調になっていたと思います。
文章は何事であれ、現在─過去─未来と話が流れていないと、聞いていても全体がぼんやりしていて要領を得ません。ですから僕は、これまで出版した文章関係の本でもその点に必ずふれてきました。
「どうしたの」「どうしてそうなったのだろうか」「先の見通しは」といった3点は人と話のやりとりをする場合も大切なポイントになります。
部下には「聞き質す」より「聞き出す」話し方を
例えば、会社で頭を抱えている部下がいたとします。何を悩んでいるのかよくわかりません。
そういう時に、先の現在─過去─未来の順で話を聞けば、頭がこんがらがっている様子の部下も、それなりに整理がついて上司にも伝わる話ができるのではないでしょうか。その際は「聞き質す」ではなく、「聞き出す」話し方がいいように思われます。
うまくいかなかったという報告だと、こちらが質す口調で聞くと、とがめている印象を与えかねず、相手も口ごもり黙ってしまう場合があるからです。
前にも書きましたが、そういう際に望ましいのは、うなずきつつ聞いて、自らの体験談をまじえてアドバイスすることです。僕自身、先輩記者から「よくある失敗だよ」と慰められ、「こういう手があるよ」と聞き出すヒントを与えられたことがありました。
「結論は先に書け。説明は2枚以内、解決のための選択肢は3つまで」
先述の3点を押さえた話の前に、「結論を先に言います」と一言あって、その話に入ればなお良いです。
「簡にして要を得る」と言いますが、伊藤忠商事の元会長、瀬島龍三氏が現役時代、部下に「結論は先に書け。説明は2枚以内、解決のための選択肢は3つまで」と厳命していたというのはよく知られた話ですよね。
事は重大なのか、たいしたことではないのか。聞く側がまず知りたいのはそのことですから、結論を言って本論に入る。特に職場での上司への報告などはそうあるべきでしょうね。
結論を先送りして事の経過をだらだら話しては、相手はいらだつかもしれません。うまく話そうとするより、どう話したら聞き手が理解しやすいかを考えることにしましょう。話はやはり相手への気遣いが大切です。
聞き出すにしろ、聞き質すにしろ、コミュニケーション能力はそういう心掛けがあってのものでしょう。
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