一年3セットの服で生きるスタイリスト、あきやあさみさんによる著書『一年3セットの服で生きる 「制服化」という最高の方法』が7月6日に発売されました。服選びの苦しみから抜け出して、自分が納得できる服を「制服」のように着ることをすすめる本書。「服が似合う」とはどういうことなのか? 抜粋してお届けします。
「外見」と「内面」の似合うは違うかもしれない
「似合う服が着たい!」 私のお客さまはみなさんそう言って相談にいらっしゃいます。「似合う」と聞くと、「外見の話」だと思いますか? 実は私は、服を選ぶときに「外見に似合う」と同じくらい「内面に似合う」ということも大切にしているのです。
内面にも「似合う」があるのでは? と感じたのは、「一卵性の外見がそっくりな双子のお客さま」をコーディネートしたのがきっかけでした。それまでは数多くの方の接客をする中で「似ている外見」のお客さまに同じ服をおすすめした経験がありました。
しかし、「ぱっと見の見た目がほとんど同じ」というお二人を目の前にして初めて、「いくら外見が似ていると言っても、違う心を持った違う人間なのだから、同じ服を着て同じところを目指せばいい訳ではないよね……!」という当たり前のことに気がついたのです。
じっくりお話を聞いていくと双子のお客さまはそれぞれ、「好きなもの」も「なりたい姿」も「性格」も違うことが分かりました。お二人には「心から気に入った服」を選んでいただきましたが、選んだアイテムは当然ながら全く違うものでした。
スポーツが大好きで活発な性格のお姉さんにはパンツスタイルが、本が大好きで穏やかな印象の妹さんにはスカートスタイルが、内面そのままを表したかのようにお似合いになりました。嬉しそうにしているお二人を見て、「心から好きな服や、なりたいと思う姿は外見にもぴったりと似合うのだな」と、大切なことに気がついたのです。
たとえどんなに似ている外見の人がいたとしても、考えていることや経験してきたことで「内面に似合う服」は変わってきます。この経験は、心にも外見にもしっくりくる服が「本当に似合う服」なのだと考えるきっかけになりました。
「自問自答」と「服」の関係
私は大学生のときにアルバイトで4年間、卒業後は都内の百貨店で10年間、ずっとファッション関係の仕事をしてきました。ブランドの販売員として店頭に立っていた経験も、会社員としてスタイリストをしていた経験もありますが、「スタイリストがお客さまの外見だけを見て服をおすすめすること」に少しずつ違和感を抱くようになりました。
そのとき、その方の外見や状況に合う服を選んでも「季節が変わって着る服が分からなくなってしまった」「職業が変わって合う服が分からなくなってしまった」「気分が変わって好きなテイストが変わってしまった」と何度も服を買い直し、クローゼットが着ない服でいっぱいになっていくところに立ち会ってきたからです。
「この服、高かったけど結局着なかったのよね」とあとからおっしゃることもあり、お客さまのお金と時間を無駄にしてしまったことへの反省で、心を痛めることもありました。
「心から満足するファッション」を見つけるために
「じっくりお話ししたら、よりいいものをおすすめできるかもしれない」そんなふうに思い、お客さまの内面を知るためにいろいろな角度からヒアリングをしようと考えました。「家ではどんな風に過ごすのが好きですか?」「どんな音楽が好きですか?」「これからどんなことがしたいですか?」みなさん楽しく答えてくれますが、そのことがまさか「ファッション」に結びつくなんて考えたこともない! という方がほとんどでした。
それよりも、多くの方が「トレンドが分からない」「自分の外見に似合うものが分からない」「TPOに合うものが分からない」という目の前の悩みに翻弄されていました。さまざまな要素が頭の中でごちゃごちゃになって「ファッションに悩む」「心から満足いくものを手に入れられない」「不安を埋めるためには、もっと服を買わなくては」というジレンマに陥っていました。
そして実際にどんなにたくさんの服や雑貨を所有していても、「私はおしゃれじゃない」と頭を抱えているのです。
私がおすすめするのは、自問自答して自己理解を進めて、「自分だけの制服=ゴール」をとりあえず決めること。もちろん一度では満足いかないこともあるので軌道修正を加えながら経験を重ねて、「しっくりくるアイテム」を自分の手で選び抜くこと。それが「心から満足するファッション」への一番の近道であると考えています。
一年3セットの服で生きる
2022年7月6日発売『一年3セットの服で生きる 「制服化」という最高の方法』について