ロシアのウクライナ侵攻、中国による台湾有事の危険性、北朝鮮のミサイル発射の脅威……。世界の緊張感が高まる中、その隣国である日本は本当に安全なのか?
さらにAIや衛星など技術が発達した現代の戦争において、「島国は安全」という理屈ももはや通用しません。これまで以上に私たち一人ひとりが「日本の防衛」について、知識を持ち真剣に向き合う必要があるのではないでしょうか。
元自衛官で「戦場のリアルを知る政治家」、佐藤正久氏が警鐘を鳴らす『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』を緊急出版いたします。
中国による台湾有事は本当に起きるのか?その場合日本への影響はどうなるのか? 本書より一部を抜粋してお届けします。
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台湾有事とは何か。
なぜ中国は台湾を獲りにいくのか?
もう一度「逆さ地図」を見てみましょう(下の図参照)。今度は日本列島の西側まで視野を転じてみます。奄美諸島、琉球諸島、尖閣諸島などの島々(南西諸島)が点在し、その西側の大きな島が台湾です。
改めて地図を見ると、日本列島がユーラシア大陸を覆う蓋であることは一目瞭然でしょう。日本列島の左翼は北方四島。右翼は南西諸島。
ロシアが北方四島を欲しかったように、中国は、南西諸島の島々が欲しくてたまりません。台湾も含めての「東シナ海の蓋」は、軍事的にも経済的にも、非常に大きな意味をもつからです。中国が、尖閣諸島や台湾を強引な論理で「自国のもの」と主張するのはこのためです。
何が、どう重要なのか? まずは、中国から見た台湾の重要性を話します。
台湾は、三つの海を結ぶ位置にあります。「太平洋」「東シナ海」「南シナ海」です。フィリピンとの間には「バシー海峡」があり、中国との間には「台湾海峡」がある。このように、海をもつことは“戦略上”とても有利なのです。
なぜなら海は「モノを運ぶ」には、最も効率のよいルートだからです。例えば、戦車を運ぶ場合、輸送機ではせいぜい数台です。でも大きい船なら数百台程度は運べます。石油などの燃料も運べるし、空母なら“滑走路付き”で戦闘機を運べる。
つまり海をもてば物流を支配できる。狭い海峡ならなおさらです。船を“生かすも殺すも”“通すも通さぬも”いかようにもできる訳です。
さらに、中国の海南島には中国海軍の主要基地(楡林基地)もあります。ここから潜水艦や艦船が太平洋に出るには、バシー海峡を通るのが最も安全なルートなのです。
台湾有事になれば、
日本には石油が入ってこない!
中国にとって“複数の海域の交差点”とも言える台湾は「海上の要衝」だと理解できたでしょう。
ここを自分のものにすれば、他の国に対して優位に立てます。例えば、日本も韓国も、簡単に痛めつけることができる。もっと言うと、なぶり殺しにできるのです。
どういうことか? 地図を見てみましょう。
日本は石油の9割以上を中東から輸入しています。中東で石油を積んだ船は、インド洋を通り、マレーシアやシンガポール、インドネシアの間のマラッカ海峡を抜けて、南シナ海に出ます。その先にあるのが台湾です。フィリピンとの間のバシー海峡を抜け、沖縄などの南西諸島の東側を通って日本に到着します。
台湾有事、つまり中国が台湾に侵略戦争をしかけたら、どうなりますか?
戦争でドンパチやっている場所など、誰も通りたくないでしょう。しかも石油を積んでいるタンカーには、日本人は乗っていません。船籍や運営会社は日本でも、乗組員は全員が外国人です。命の危険を冒してまで、日本人のために石油を運んでくれる外国人がいると思いますか? 私には、到底いるとは思えません。
他のルートはないのか? 少し遠回りのルートがあります(前ページ地図参照)。インド洋からバリ島の脇のロンボク海峡を抜け、インドネシアを縦に突っ切るようにマカッサル海峡を通り、フィリピンの南側から太平洋に出るルートです。
でも、中国の潜水艦が、太平洋の入り口辺りに突如プカッと浮上してきたら? もう誰も通れなくなります。海底から狙われると思ったら、怖くて仕方ないですから。
石油が入らなければ日本はアウト。“生命線”は中国に握られているのです。
台湾有事はいつ起こる?
2027年に緊張はマックスになる
「台湾有事」という言葉を耳にする機会が増えました。でも多くの日本人はピンとこなかったでしょう。しかし前項で話したように「台湾有事は日本有事」なのです。さらに直接、攻撃を受ける可能性もありますが、それについては後述します。
ズバリ“その時”はいつか?
早ければ2027年、というのが私の“読み”です。
米インド太平洋軍デービッドソン司令官(当時)も、次の認識を示しています。
「2027年までに、中国が台湾に軍事攻撃をしかけるリスクがある」と。
上は米上院軍事委員会の公聴会で語られたことです。彼はこうも言っています。「米海軍が、アメリカ西海岸を出発して沖縄─フィリピンを結ぶ『第一列島線』に到達するのに、約3週間かかる」と。
第一列島線とは、中国が設定した対米防衛線。「線内の内側への接近を拒否する」という目標ラインです。中国としては第二列島線との間で海軍や空軍を厚く展開し、アメリカを迎え撃つという目論見です。
中国が勝手につくり上げたシナリオ、あまりにも横暴だと思いませんか?
他国の領土や領海を自国の防衛線に設定している訳ですから。日本、台湾、フィリピン、インドネシアを、まるで自国のように考えています。これこそが中国の覇権主義であり、恐ろしさなのです。
いずれにしても、ウクライナの教訓から短期決戦を企図して、台湾の東西から中国が台湾に侵攻した後、アメリカ本土から部隊が到着するまでの間に台湾国民や在留外国人を人質にするでしょう。奪還するのは容易ではありません。
2027年の“その時”が来てから行動したのでは間に合いません。私の“読み”が外れるならこれほど嬉しいことはない。しかし「最悪のシナリオ」を想定して、リスク回避に備えておくことも、私の仕事だと思っているのです。
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続きは本書『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』をご覧ください。
日本が侵攻される日
2027年、日本がウクライナになる――。決して脅しではない。ロシア、中国、北朝鮮という三正面に接した我が国の危険性は、日増しに高まるばかりである。理由は世界地図を「逆さ」にすると一目瞭然だ。ロシアはなぜ北方領土を手放さないのか、中国が尖閣を執拗に欲しがる背景、北朝鮮のミサイル発射の脅威……。AIや衛星が主流の現代の戦争においては、島国は安全という理屈も通用しない。元自衛官で「戦場を知る政治家」である著者が指摘する日本防衛の落とし穴。もう無関心ではいられない。