ロシアのウクライナ侵攻、中国による台湾有事の危険性、北朝鮮のミサイル発射の脅威……。世界の緊張感が高まる中、その隣国である日本は本当に安全なのか?
さらにAIや衛星など技術が発達した現代の戦争において、「島国は安全」という理屈ももはや通用しません。これまで以上に私たち一人ひとりが「日本の防衛」について、知識を持ち真剣に向き合う必要があるのではないでしょうか。
元自衛官で「戦場のリアルを知る政治家」、佐藤正久氏が警鐘を鳴らす『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』を緊急出版いたします。
ロシアのウクライナ侵攻を利用としている、習近平の思惑とは? 本書より一部を抜粋してお届けします。
* * *
ロシアの混乱と苦戦。
中国はそれを教訓にする
情報戦を含めた「新しい戦争のカタチ」については後の章でもお話しします。
いずれにしても、ロシアは現段階では、その「新たな戦い方」の導入に失敗しました。
なぜ、電子戦部隊を同行させなかったのか。あるいは、同行させたのに機能しなかったのか? なぜ、対空火器を完全に叩かなかったのか? なぜ、戦車を多用したのか?
本当に「なぜ?」ばかりなのです。国の存亡をかけて戦争をしかけているはずですから、本来は周到な上にも周到な準備を行い、事に当たるのが軍事です。
電波を使えなくすれば、相手のドローンもSNSも封じられる。そんなことは戦争の素人でもわかります。
道路以外の場所でも走行できるのが戦車の強みですが、反対に、狭い市街や、ぬかるんだ泥ねい地には不向きです。それなのにわざわざ重くて高価な戦車を多用し、小さくて安価なドローンにひっくり返されてしまう。滑稽なほどおそまつです。
ニュースなどでは、ウクライナの地図を映し「ロシアが制圧した地域」を赤く塗ったりしています。しかし実際は、赤く塗られた地域の村は、単に「ロシア軍が通過した地域」にすぎなかったりもします。村をとりあえず攻撃しただけで通過していく。つまり、ロシア兵は「戦ったふり」をしているだけ。戦意を喪失している訳です。
こうした、戦い方の杜(ず)撰(さん)さや稚拙さを隠せない時代になってしまいました。
もはや、マスコミが戦争を報じる時代ではありません。現場のTwitter情報のほうが早いし、リアルだからです。ウクライナ国民全員が撮影者であり、発信者となったのです。
今回のロシアとウクライナの戦いを、今、最も真剣に見ているのは中国でしょう。
ロシアはなぜ失敗したのか。ウクライナはなぜ善戦できているのか。どのように情報を使えばいいのか? 世界を敵に回さないためにはどうするか?
台湾統一が視野にある中国にとって、今回の戦争はまさに生きた教訓。スムーズに台湾を獲る方法を思案しながら、虎視眈々と「その時」をうかがっています。
習近平の目論見。
戦いの火蓋はすでに切られた
実は、今回の戦争報道でとても驚いたことがあります。
それはロシアが侵攻する2週間ほど前に、ウクライナからロシアに避難する人々の様子が撮影されていたことです。撮影したのはCCTV(中国中央電視台)という中国の国営放送局。ということは、母体の中国共産党は、ウクライナの深くまで入り込んでいる訳です。もちろん、ロシアではもっと深くまで食い込んでいることでしょう。確実に「侵攻の情報」をつかんでいたと思われます。
国際関係は、情報が鍵を握ることは言うまでもありません。信頼度・真実味の高い情報を得て、評価・分析をし、意思決定をしたり、行動を起こしたりする。これをインテリジェンス(intelligence)と言いますが、中国共産党は、その能力に長(た)けているようです。映画『007』シリーズのジェームズ・ボンドのようにスマートかどうかはわかりませんが、現実の世界でも日々諜報戦がくり広げられていることに疑いはありません。
大事なのは情報をどう活用するか? そして情報をどのように流すかもインテリジェンスです。
ロシアが侵攻してからおよそ1か月後。中国の習近平国家主席とアメリカのバイデン大統領の両首脳がオンラインで会談を行いました。習主席が語った内容の中に、私はとても引っかかったことがありました。それは次の2点。
(1)国際社会が束になってロシアを制裁しても、解決にはつながらない。
(2)NATOとロシアが話し合うべきだ。
この発言は裏を返すとこうなります。「中国が台湾に侵攻した時に、国際社会が制裁をするのはよくない」。そして「中国が台湾に侵攻しても、アジアにNATOはないので、我々の行動に対してはどこもNOが言えない」と全世界に向かって、暗に宣言したのです。
つまり、戦いの火蓋はすでに切られている、ということです。第四章で詳しく話しますが、中国の世界に対する影響力は年々大きくなっています。今回の発言や先のCCTVの映像を見ても、先制パンチ的に、強烈なインテリジェンスを発したのです。
* * *
続きは本書『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』をご覧ください。
日本が侵攻される日
2027年、日本がウクライナになる――。決して脅しではない。ロシア、中国、北朝鮮という三正面に接した我が国の危険性は、日増しに高まるばかりである。理由は世界地図を「逆さ」にすると一目瞭然だ。ロシアはなぜ北方領土を手放さないのか、中国が尖閣を執拗に欲しがる背景、北朝鮮のミサイル発射の脅威……。AIや衛星が主流の現代の戦争においては、島国は安全という理屈も通用しない。元自衛官で「戦場を知る政治家」である著者が指摘する日本防衛の落とし穴。もう無関心ではいられない。