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アルテイシアの59番目の結婚生活

2022.09.18 公開 ポスト

私が墓に入るまで抱えていく後悔の話アルテイシア

JJ(熟女)になると、光陰光ファイバーの如しである。

「あれからもう2年もたつんですねえ……」と空を見上げているが、2年前に夫が他界したとかじゃなく、「#行動する傍観者 #ActiveBystander」の脚本を書いたのだ。

この動画は2020年の国際ガールズデー(10月11日)に公開されて、今でも多くの方に見られている。

当時はあまり知られていなかった「アクティブバイスタンダー」「第三者介入」という言葉も最近は耳にするようになった。

 

欧米ではアクティブバイスタンダーという言葉が知られていて、第三者介入のプログラムが広く行われている。

プログラムを導入した学校で性暴力の事件数が47%減ったという調査もある。

性暴力をなくすためには、その場に居合わせた第三者の行動が鍵になる。

たとえば、電車内痴漢は第三者が大勢いる公の場所で起こる犯罪だ。

周りの乗客が「痴漢はいねが~?!」と目を光らせることで、痴漢は加害しづらくなる。

電車内痴漢が一番減るのは7月と8月で、それは学校が夏休みになるから。それだけ多くの中高生が痴漢被害に遭っているのだ。

痴漢被害者の7割強は18歳以下、つまり子どもの頃に被害を経験している。

今の子どもたちが大人になった時「昔は電車の中でめっちゃ痴漢に遭ったってマジ?」と言える未来にしたい、そう思いませんか?

と聞いたら、ほとんどの人は「YES!」と膝パーカッションするだろう。そこで「NO!」と答える人はおそらく痴漢だろう。

性暴力の話になると「男VS女」と捉えられがちだが、これは「善良な市民VS性犯罪者」という話なのだ。

善良な市民が力を合わせて、性犯罪者を駆逐しよう。

そんなメッセージを伝えたくて動画を作った。

女友達が痴漢にあった時、駅の改札を突破して逃走した犯人を、その場に居合わせた男子高校生が1キロも追いかけて捕まえてくれたそうだ。

高校生の正義の心と脚力がすばらしい。鈍足の私に追跡は無理だし、走り出した瞬間、脚がもつれて転ぶだろう。

JJは何もないところで転ぶお年頃。そんなスペランカーよりひ弱な市民にもできることはある。

「5D」と呼ばれる第三者介入の方法があるので、名前だけでも覚えて帰ってくださいね。

(1)Distract:注意をそらす(知り合いのふりをして被害者に声をかける等)

(2)Delegate:助けを求める(周りの人々や駅員や店員に助けを求める等)

(3)Document:証拠を残す(画像や映像をとって証拠を残す等)

(4)Delay:後からフォローする(大丈夫ですか? 何かできることありますか? と被害者に声をかける等)

(5)Direct:直接介入する(やめましょう、それセクハラですよ、と加害者に言う等)

5Dについては、この記事がわかりやすいので参考にしてほしい。

人間讃歌は勇気の讃歌、だけども実際に行動するのは勇気がいる。

たとえば電車内で痴漢行為を見かけた時「勘違いだったらどうしよう」「相手は犯罪するようなヤベー奴だし、殴られたらどうしよう」とためらうのが普通だろう。

それでも、何かしらできることはある。

たとえばスマホで大音量で音楽を流して乗客の注意を集めれば、痴漢はそれ以上加害を続けられなくなる。

痴漢は行為をエスカレートさせる場合が多い(服の上から触って抵抗されなければ、下着の中に指を入れてくるなど)

被害を最小限に食い止めることも、被害者を助けるアクションになるのだ。

私もいざという時は『紅蓮の弓矢』を流そう、痴漢を駆逐してやる、一匹残らず……とシミュレーションしておけば、いざという時に動ける。

つい先日、中学生にジェンダーの授業をした時、第三者介入について話した。

授業後のアンケートでは「僕も見て見ぬふりをしたくない」「自分にもできることがあるとわかった」と感想が寄せられて「尊い……」と希望を感じた。

「女性専用車両は逆差別だ、女性優遇だ」という意見があるが、女性専用車両はシェルター(避難場所)であり、それが必要なのは多くの女性が痴漢に遭っているからだ。

性犯罪の加害者の95%以上が男性で、被害者の90%以上が女性である(被害者の1割は男性で未成年の子どもが多い)

電車内痴漢でいうと、加害者の99%が男性である。

つまり男性に痴漢するのも男性なので、男性専用車両を作っても男性の被害は防げない。

また「男性専用車両を作ったら乗るか?」というアンケートを見たら、多くの男性が「むさくるしいからイヤだ」と答えていた。作っても乗らんのかい。

そもそも痴漢がいなくなれば女性専用車両は必要なくなるし、冤罪の不安もなくなる。

だから「痴漢をやめろ」と声を上げる人が増えてほしい、こんなんなんぼあってもいいですからね。

私は「痴漢ゼロしゃべり場」というオンラインイベントも手伝っている。

第二回に出演された警察官僚の小笠原和美さんが「冤罪を出さないためにしっかり捜査するのは警察の仕事。だから痴漢に遭ったり見かけたりした人は、ためらわずに通報してほしい」と話していた。

なので「冤罪だったらどうするんだ!!」と心配な方は警察に意見しよう。

小笠原さんは「その場で通報できなくても、後からでも通報して情報提供してほしい。そうした目撃情報の積み重ねが犯人逮捕につながる」と話していた。

#共通テスト痴漢撲滅アクションをした時も「受験生を守ろう」と多くの方が協力してくれた。

その後、共にアクションをした女性議員さんたちの働きかけにより、神戸市交通局は「チカンに遭ったら、見たら迷わず110番!」という痴漢撲滅ポスターを作って掲示するようになった。

こうした一連の動きをみて「山が動いた……」と涙している。

性暴力撲滅に本気出さなヤバい、という時代にようやく変わってきたのだ。

一方で「統計を見ると、日本は海外に比べて性犯罪が少ないじゃないか」という意見もある。

日本では、性犯罪の暗数がものすごく多い。

痴漢被害を通報したのは1割以下で、10倍以上の暗数がある。レイプ被害を通報したのは5%以下で、20倍以上の暗数がある。

また、統計の取り方も国によって違う。

たとえば、スウェーデンではレイプが起こった回数で一件とカウントされる(近親者が長年にわたり複数回レイプした場合などは、一件ではなく回数で加算される)

私も子どもの頃から何度も痴漢に遭ってきたが、一度も通報しなかった。親や教師に相談したこともなかった。

「あなたに隙があったから」「そんな薄着で出かけるから」と責められるのがイヤだったから。

日本では性暴力の被害者が責められて、二次加害にさらされる。

本来は「なぜ同意を取らなかった」と加害者を責めるべきなのに、「なぜ部屋に行った」「なぜ酒を飲んだ」と被害者が責められる。

念のため言っておくが「部屋で酒を飲もう」と誘われて「いいですね!」と部屋に行ったとしても、同意したのは「部屋で酒を飲むこと」だけである。

同志社大アメフト部員が女性を集団レイプしてスマホで撮影した事件にも、被害者を責めるコメントが殺到していた。

こうした二次加害を恐れて、被害に遭っても通報できず、支援につながれない被害者は多い。

そして加害者は野放しになるのだ。

意識のない人間を集団で殴る蹴るしたら「なんて凶悪な事件だ」と加害者だけを責めるだろう。

一方、意識のない女性を集団でレイプしたら「酔っ払った女性にも落ち度があった」と被害者が責められる。

これが認知の歪みであり、女性を人間ではなく性欲処理の道具、モノ扱いしているのだ。

性暴力を軽視するこの国で、私も周りの女の子たちも「痴漢なんて大したじゃことない」「触られたぐらいで騒ぐなんておかしい」と刷り込まれてきた。

テレビでは痴漢コントが流れていて、男性タレントが「お前なんか痴漢に遭わんやろ笑」と女性タレントをイジっていた。

今でも痴漢ものやレイプものと呼ばれるアダルト作品が溢れていて、子どもでも簡単にアクセスできる。

性教育の専門家は「現実とフィクションの区別がつくのは、少なくとも十代後半から」と指摘している。

こちらの記事によると『警察庁科学警察研究所が強姦や強制わいせつの容疑で逮捕された553人に行った調査では、33・5%が「AVを見て自分も同じことをしてみたかった」と回答した。少年に限れば、その割合は5割近くに跳ね上がる』そうだ。

「AVを見た男がみんな性犯罪をするわけじゃない!!」なんてことは百も承知だ。でも現実にAVがトリガーになる性犯罪者が存在する。

善良なAV愛好家は「おまえたちのお陰で迷惑している、加害をするな!!」と性犯罪者に向かって怒ってほしい。

以前、20代の女の子から「電車で盗撮に遭った時、どうしていいかわからずネットで検索したら、盗撮もののAVが出てきて被害がフラッシュバックした」という話を聞いた。

盗撮被害のトラウマから、電車に乗れなくなったりネットを見られなくなったりする被害者も大勢いる。

「痴漢に遭ってからメイクもおしゃれもできなくなった。「女」として見られることが怖くなったから。なんでメイクしないの? と周りに聞かれるたび、被害を思い出して苦しい」

そんな話を女の子たちからいっぱい聞く。

そのたびに私は泣いてしまうのだけど、それは後悔の涙である。

2017年、伊藤詩織さんの告発の時もそうだった。

当時20代だった彼女が顔出しして会見する姿を見て「私たちの世代がもっと闘っていれば、被害を止められたんじゃないか……」と涙が止まらなかった。

その後は寝ても覚めても詩織さんのことを考えていて、それが「行動する傍観者」の動画制作につながった。

私が若い頃は今よりもっとエグい男社会で、セクハラされても我慢するしかなかった。

「こういうものだ」と感覚を麻痺させないと生きられなかった。生き延びることに必死で、声を上げる余裕なんてなかった。

それでも、後悔が消えない。どうしても消えない。

この後悔を墓に入るまで抱えていくのが自分の責任だと思う。

私は『ブラックボックス』を読むのがつらすぎたけど、おのれを両手ビンタする気合いで読んだ。

『やはり、会見を開こう、と決意した。同じ思いをする人を少しでも減らしたかった。こんな経験は誰にもして欲しくはない。これを「よくある話」で終わらせてはいけない』

詩織さんはそう決意するが、家族からは大反対される。

お母さんは『あなたの身に何が起こったか、人は知ることになるんだよ。絶対に会見はしないでほしい』と反対して、『事件の直前に、自分のことを評価してくれる人がいて今度会いに行く、と言ったでしょ。なぜそれを聞いた時に、そういう人には気をつけなさい、と一言、母親として注意しなかったか』と涙をこぼした。

お母さんはずっと自分を責めていたのだ。

年の離れた妹さんは「お姉ちゃんの言ってることはわかる。これが大切なことで私や私の友達のためだっていうこともわかる。でも、なんでお姉ちゃんがやらなきゃいけないの?」とひたすらそう言った。

『ブラックボックス』を読みながら、比喩じゃなく心臓が痛くなった。

なぜなら、詩織さんの痛みは私たちの痛みだから。その痛みを彼女一人に背負わせてはいけないのだ。

私は講演などで詩織さんの話をするたびに泣いている。それを聴いている参加者の女性たちも泣いている。

去年、オンライン番組で詩織さんと共演した時、いきなり号泣して放送事故を起こすかもと不安だったため、猫のお面をつけて出演した。

出演中に彼女の笑顔を見た瞬間、お面の下でひそかに泣いていた私。

詩織さんは加害者本人から「本当の性被害者は笑ったりしない」と言われて二次加害を受けた。

彼女が笑顔を取り戻すまでにどんな思いをしてきたか。

売名、枕営業、ハニトラ、在日、反日左翼……と膨大なデマや誹謗中傷を流されて、彼女は日本に住めなくなった。二次加害によって住む場所さえ奪われたのだ。

2022年1月、裁判で勝訴した詩織さんは会見でこう語った。

時間はかかるかもしれないが、声を上げれば必ずどこかに届くと信じている

詩織さんの声は届いている。

彼女の告発の後、metooやフラワーデモが広がり、第四派フェミニズム(SNSを使った新しいフェミニズム)の波が広がっている。

その動きに背中を押された人たちは多いだろう。

現在、芸能界や自衛隊など、様々な世界から性被害を訴える声が上がっている。

五ノ井里奈さんは自衛隊内の性暴力を実名で告発し、被害の再調査を求める10万人以上の署名を防衛省に提出した。

22歳の五ノ井さんはインタビューでこう語っている。

『小学生だった私は宮城県東松島市で東日本大震災に遭いました。つらい避難生活を送る中、女性自衛官がお風呂をつくってくれ、腕相撲で遊んでくれました。

「オリンピック選手を目指している」と伝えると応援してくれた彼女は私の憧れの存在になり、自衛官を目指すきっかけとなりました』

『自分が死ねば自衛隊に事の重大さを認識させられるのか。被害に繰り返し遭ううちに自分の体が汚くなっていく感覚がありました。大好きな柔道でオリンピックに出る、その夢もなくなりました』

少女の憧れを裏切り、夢を叩き潰した自衛隊は、その罪の深さに向き合うべきだ。

この告発を知った時も、やっぱり後悔せずにいられなかった。

私たちがもっと声を上げていれば、metooやフラワーデモが10年前に起きていれば、被害を止められたんじゃないか。

五ノ井さんも殺害予告を受けるなど、ひどいバッシングにさらされている。

「勇気を出して声を上げた彼女をひとりにしない」と連帯を示すことが、私たちにできることだろう。

被害者に連帯する人たちがいる一方、見て見ぬふりをする人たちもいる。

教室でいじめが起きている時に「自分はいじめなんかしてないし」「自分には関係ないし」と周りが見て見ぬふりをすれば、加害者はやりたい放題できる。

やれることがあるのに何もしないのは、消極的に加害に加担していることになる。

それでいいの? その姿を子どもたちに見せられる? と大人たちに問いたい。

動画を見た中学生から「昔クラスでいじめがあった時、止めたかったけど勇気が出なかった。今度いじめを見かけた時はアクティブバイスタンダーになります」という感想をもらった。

「正義」の輝きの中にある『黄金の精神』、それがある限り大丈夫じゃ、と老ジョセフも言っている。

老アルテイシアも子どもに恥ずかしくない大人でありたい。改めてそう思わせてくれた若い人たちよ、ありがとう。

*   *   *

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アルテイシアの59番目の結婚生活

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アルテイシア

神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、恋愛、家族問題などについて執筆、講演や授業も多数行う。2005年『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。
著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他多数。

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