元ネスレ日本代表をつとめ、現在はビジネスプロデューサー・マーケターとして多くの企業を成長に導いている高岡浩三さん。近著『イノベーション道場』では、「ネスカフェアンバサダー」「キットカット受験生応援キャンペーン」など、数々の革新的サービスを世に送り出してきた高岡さんの経験から練り上げられた、「イノベーションを生み出す手法」を惜しみなく公開しています。現状打破を考えるビジネスパーソンなら必読の本書より、内容を一部ご紹介します。
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メルカリが解決した問題とは?
同様に、日本のメルカリについてもNRPS法(New Reality、customers Problem、Solution)で考えてみましょう。
私には娘が二人いて、近くに住んでいるので孫を連れてよく遊びに来ます。そんな彼女たちを見ていると、毎週のように違った服を着ています。
「よくそんなに洋服を買うお金があるねえ」
すると、娘はこう言います。
「パパ、何を言っているの? これ全部、メルカリよ」
彼女たちは毎週のように新しい服を買っているのではなく、メルカリで古着を買っては自分の持っている洋服を売っていたのです。これはどのような問題を解決したのでしょうか。
おわかりいただけますね。それは「洋服の流行り廃りによる無駄」です。
かつて女性は、新品の洋服を頻繁に購入していました。そのため、百貨店には婦人服売り場が3フロアも4フロアもあり、バーゲンともなると朝から人が殺到していました。ところが、そのときどきのトレンドがあるため、今年買った服は来年には着られなくなります。女性たちは、洋服なんてそんなものと、その問題を諦めていました。
もちろん、一部には古着を購入する層は存在していました。しかし、それは決して一般的ではなく、ある種のマニア的な感覚が中心でした。
これが、かつての現実です。
しかし、そこに大きな問題がのしかかってきました。サステイナビリティの問題が取り沙汰されるようになったのです。食の無駄が大きく取り上げられ、その問題解決も検討されていますが、まだ十分に着られるのに流行遅れというだけで捨てられる服の無駄も浮き彫りになってきました。
人々の深層に眠っている要望を具現化する
世界的に洋服を買えない人々がいるのに、先進国ではまだ着られる服が捨てられる。それに対する風当たりは、非常に強くなっています。
同時に、かつては抵抗の強かった古着が、ここ十数年で市民権を手にします。フリーマーケット(フリマ)では古着ながら新品同様の洋服が並び、それを手にしていく人々が徐々に増えていきました。古着に対する抵抗は、以前ほどなくなっています。
古着に対する抵抗がなくなり、新品同様の洋服を捨てることに抵抗が生まれた。これが新しい現実です。それに加えて、毎年のように新しい洋服を買うには多くのお金が必要になるため、資金面での問題もありました。
この新しい現実とそこから生まれる顧客の問題を解決したのがメルカリです。
メルカリは、インターネット上で行われるフリマです。そこでは、中古でも新品同様の洋服が格安な料金で売られています。
フリマは一般の人が、週末に自分のいらないものをある特定の場所に持ち寄って売り買いするところです。それは、現在の言葉で言えばマッチングです。そのマッチングをごく小さなコミュニティーで行っていたのがフリマですが、メルカリは、それをインターネット上で展開し、拡大しました。
「高く売りたいというオークション的な発想ではなく、使いきれないものを『もったいない』からそれを望む人に買ってもらい、売った代金で中古でもいいからたまにしか使わないもの、すぐに飽きてしまいそうなものを買う」
これがメルカリの本質です。
このような要望は、人々の深層に眠っていたものです。ただ、フリマに足を向けるのは抵抗がある人々も少なくありませんでした。
その問題を解決するために、全国津々浦々まで広げられるインターネットを使ったことが、メルカリによる問題解決でした。あまりにもコミュニティーが小さすぎてマッチングできなかったものを、インターネットでマッチングを可能にしたのがメルカリのイノベーションです。
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元ネスレ日本代表をつとめ、現在はビジネスプロデューサー・マーケターとして多くの企業を成長に導いている高岡浩三さん。近著『イノベーション道場』は、「ネスカフェアンバサダー」「キットカット受験生応援キャンペーン」など、数々の革新的サービスを世に送り出してきた高岡さんの経験から練り上げられた、「イノベーションを生み出す手法」を惜しみなく公開しています。現状打破を考えるビジネスパーソンなら必読の本書より、内容を一部ご紹介します。