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イノベーション道場

2022.11.07 公開 ポスト

NRPS法で分析する、メルカリが成功した要因とイノベーション高岡浩三(元ネスレ日本社長)

元ネスレ日本代表をつとめ、現在はビジネスプロデューサー・マーケターとして多くの企業を成長に導いている高岡浩三さん。近著『イノベーション道場』では、「ネスカフェアンバサダー」「キットカット受験生応援キャンペーン」など、数々の革新的サービスを世に送り出してきた高岡さんの経験から練り上げられた、「イノベーションを生み出す手法」を惜しみなく公開しています。現状打破を考えるビジネスパーソンなら必読の本書より、内容を一部ご紹介します。

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メルカリが解決した問題とは?

同様に、日本のメルカリについてもNRPS法(New Reality、customers Problem、Solution)で考えてみましょう。

私には娘が二人いて、近くに住んでいるので孫を連れてよく遊びに来ます。そんな彼女たちを見ていると、毎週のように違った服を着ています。

「よくそんなに洋服を買うお金があるねえ」

すると、娘はこう言います。

「パパ、何を言っているの? これ全部、メルカリよ」

彼女たちは毎週のように新しい服を買っているのではなく、メルカリで古着を買っては自分の持っている洋服を売っていたのです。これはどのような問題を解決したのでしょうか。

(写真:iStock.com/loveshiba)

おわかりいただけますね。それは「洋服の流行り廃りによる無駄」です。

かつて女性は、新品の洋服を頻繁に購入していました。そのため、百貨店には婦人服売り場が3フロアも4フロアもあり、バーゲンともなると朝から人が殺到していました。ところが、そのときどきのトレンドがあるため、今年買った服は来年には着られなくなります。女性たちは、洋服なんてそんなものと、その問題を諦めていました

もちろん、一部には古着を購入する層は存在していました。しかし、それは決して一般的ではなく、ある種のマニア的な感覚が中心でした。

これが、かつての現実です。

 

しかし、そこに大きな問題がのしかかってきました。サステイナビリティの問題が取り沙汰されるようになったのです。食の無駄が大きく取り上げられ、その問題解決も検討されていますが、まだ十分に着られるのに流行遅れというだけで捨てられる服の無駄も浮き彫りになってきました。

人々の深層に眠っている要望を具現化する

世界的に洋服を買えない人々がいるのに、先進国ではまだ着られる服が捨てられる。それに対する風当たりは、非常に強くなっています。

同時に、かつては抵抗の強かった古着が、ここ十数年で市民権を手にします。フリーマーケット(フリマ)では古着ながら新品同様の洋服が並び、それを手にしていく人々が徐々に増えていきました。古着に対する抵抗は、以前ほどなくなっています。

古着に対する抵抗がなくなり、新品同様の洋服を捨てることに抵抗が生まれた。これが新しい現実です。それに加えて、毎年のように新しい洋服を買うには多くのお金が必要になるため、資金面での問題もありました。

この新しい現実とそこから生まれる顧客の問題を解決したのがメルカリです。

(写真:iStock.com/takasuu)

メルカリは、インターネット上で行われるフリマです。そこでは、中古でも新品同様の洋服が格安な料金で売られています。

フリマは一般の人が、週末に自分のいらないものをある特定の場所に持ち寄って売り買いするところです。それは、現在の言葉で言えばマッチングです。そのマッチングをごく小さなコミュニティーで行っていたのがフリマですが、メルカリは、それをインターネット上で展開し、拡大しました。

 

「高く売りたいというオークション的な発想ではなく、使いきれないものを『もったいない』からそれを望む人に買ってもらい、売った代金で中古でもいいからたまにしか使わないもの、すぐに飽きてしまいそうなものを買う」

これがメルカリの本質です。

このような要望は、人々の深層に眠っていたものです。ただ、フリマに足を向けるのは抵抗がある人々も少なくありませんでした。

その問題を解決するために、全国津々浦々まで広げられるインターネットを使ったことが、メルカリによる問題解決でした。あまりにもコミュニティーが小さすぎてマッチングできなかったものを、インターネットでマッチングを可能にしたのがメルカリのイノベーションです。

関連書籍

高岡浩三『イノベーション道場 極限まで思考し、人を巻き込む極意』

考えよ、行動せよ! 新しい価値を生むのはあなただ! 本田圭佑氏(サッカー選手、実業家) 挑戦を後押しする、最強のメソッド。 入山章栄氏(早大大学院教授) 最高に実践的な一冊! 世界標準の経験と理論が詰まっている。 世界を驚かせるようなイノベーションが生まれなくなって久しい昨今、高岡浩三氏はネスレ日本社長として、「ネスカフェアンバサダー」や「キットカット受験生応援キャンペーン」など革新的なサービスを世の中に展開した。その実績は、マーケティングの権威、フィリップ・コトラー氏らからジャパンミラクルと称賛された。本書では、著者が練り上げ、実践してきた、革新を生み出す手法を惜しみなく公開し、日本でイノベーションを生み出す術を伝授する。 イノベーションは何も技術革新のみを指すものではない。誰でもどんな職種でもイノベーションを起こすことができる、というコンセプトから、イノベーションを再定義し、実際の思考法(NRPS法)を紹介する。NRPS法とは、社会で起きている問題、周囲で起きている出来事に目を配り、「現実がどう変化しているか」を観察することで認識できる、いま私たちが置かれている現実を認識し、問題を炙り出し、その解決法を生み出す手法のこと。 この思考法を獲得し、徹底的に考え抜けば、誰でもイノベーションを起こすことができる、衝撃の1冊! はじめに イノベーションを諦めていないか 第1章 イノベーションを再定義する 第2章 イノベーションを生み出すNRPS法 第3章 なぜ日本でイノベーションが起こらないのか 第4章 イノベーションの目覚めは「外圧」だった 第5章 イノベーションの具体例をNRPS法で読み解く 第6章 イノベーションは「考え抜く」ことから生まれる おわりに 上司に期待するな。極限まで自分ひとりで考え抜け

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イノベーション道場

元ネスレ日本代表をつとめ、現在はビジネスプロデューサー・マーケターとして多くの企業を成長に導いている高岡浩三さん。近著『イノベーション道場』は、「ネスカフェアンバサダー」「キットカット受験生応援キャンペーン」など、数々の革新的サービスを世に送り出してきた高岡さんの経験から練り上げられた、「イノベーションを生み出す手法」を惜しみなく公開しています。現状打破を考えるビジネスパーソンなら必読の本書より、内容を一部ご紹介します。

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高岡浩三 元ネスレ日本社長

ケイアンドカンパニー代表取締役、元ネスレ日本代表取締役社長兼CEO。1983年、神戸大学経営学部卒。同年ネスレ日本入社。各種ブランドマネジャー等を経て、「キットカット」受験生応援キャンペーンや、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを提案・構築し、利益率の低い日本の食品業界において、新しいビジネスモデルを追求しながら超高収益企業の土台をつくる。2010~2020年までネスレ日本CEO。2020年4月より現職。
現在は、DXを通じたイノベーション創出のビジネスプロデューサーとして「高岡イノベーション道場」を主催し、自ら後進の育成に取り組む。
マーケティングの世界的権威のフィリップ・コトラー氏が日本人で最高のマーケターと絶賛する。
著書に『ゲームのルールを変えろ――ネスレ日本トップが明かす新・日本的経営』(ダイヤモンド社)、『逆算力』(日経BP社)、コトラー氏との共著で『Marketing in the 21st century』他多数。

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