刊行自体が驚愕!! 講談社内の“伝説の私家版”『漫画編集者のための教科書』をアップデートした完全版――『「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書 感情を揺さぶる表現は、こう描け!』(石井徹著、幻冬舎刊)。マンガだけでなく、あらゆる“創作物”に通じる「売れるノウハウ」満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。(毎週火曜更新/全5回)
まえがき
ご存じのように、世の中に溢れる、およそ創作物と呼ばれる主要なもの──実写映画、アニメ映画、テレビドラマ、テレビアニメ、ネット配信ドラマ、演劇、宝塚歌劇etc.──の原作として、漫画が使われる例は、枚挙にいとまがありません。漫画だらけといっても過言ではない状況です。
聞いたところによると、テレビドラマの編集会議では長机に各種コミックス(漫画の単行本)が堆く積まれている、とか。日本の伝統芸能である歌舞伎でさえ、漫画に材を採ることが、めずらしくなくなりました。
多くの小説家は口にはしませんが、日本では長く「創作の雄」として君臨してきた小説すらも、これは漫画に多大な影響を受けているな、と感じる作品が増えました。
また一方で、以前からよく行われている小説の漫画化(コミカライズ)だけでなく、昨今では哲学や思想、学術書や啓蒙書といったジャンルの本が頻繁に漫画に翻案され「まんがでわかる○○」「漫画版○○」「マンガ○○入門」として刊行されます。いわゆる古典作品だけでなく、ベストセラーにライクインするビジネス書もすぐにコミカライズされ刊行される状態です。
さらに、企業の広告に漫画のキャラクターや、作品のコマそのものが使われることが、もはや当たり前のことになっています。
こうしてみると漫画は、あらゆるジャンルの表現を席巻したように見えます。
では、この、漫画とは、そもそもどういう表現なのでしょう。
漫画といっても、「本」になってしまえば、ひとつの「モノ」に過ぎません。よって漫画を作って売るという仕事は、数多ある、いわゆる製造業の方々と同じです。
強いていえば、漫画づくりには、自動車やコンピュータなどの製造に必要な複雑で高度な知識や技術はいらない。そういう意味では、きわめて原始的で、決まりごとの少ない仕事です。
ほんの20年前だったら紙とペンがあればできました。現在だったら、他にパソコン1台あれば十分でしょう。半導体もいらないし特殊金属もいらない。複雑な金融商品でもありません。バイオの研究も必要ない。それに映画やドラマと違って多額の製作費も人件費もかからない。やろうと思えばどんな業界の、どんな企業でも参入可能です。
「売れる/売れない」は別として、コマにして「絵」を並べて、そこに多少のネーム(台詞やト書き)があれば「漫画」になります。ひじょうにシンプルです。ただし「売れる/売れない」はアイディアや閃きひとつで決まってしまう。極論すれば、それだけが勝負の商品です。
私は、講談社の「週刊少年マガジン」「月刊少年マガジン」を中心としたセクションで漫画編集の仕事に三十数年携わり、日夜、死に物狂いでアイディアと閃きを搾り出してきました。
アイディアや閃きが大事なのは他の商品でも同じでしょう。本書では「漫画」という原始的な商品を素材にして、その発想法、戦略を認めました。どうやれば「売れる」新しい作品になるのか。それはすなわち「いかにエンドユーザー(漫画の場合は読者)に喜んでもらうか」にほかならない。その意味で、他の製造業の方々が日々、四苦八苦してアイディアを出し、磨いているのと同じです。
漫画市場(紙+電子)の売り上げは2021年に、6759億円と過去最高となりました。2020年の6126億円はコロナ特需です。正直にいえば2021年は前年より減少するとみんな思っていた。しかし、結果は、前年度より633億円も増加。これはコロナ禍中に電子書店やネット書店で漫画を買うことが習慣化した結果のようです。
さらに付言すると、海外での漫画の売り上げを含めると、おそらく7000億円を超えていると思われます。これには、各社が明らかにしていない、アニメ化などの版権ビジネスや、その他関連商品によるマーチャンダイジング権利ビジネスから発生する売り上げは入っていません。これらも入れると、もはや1兆円に達している可能性も高い。
そんな「小さな巨大ビジネス」である漫画づくりの要諦を一言でいえば、“強い感動(ストロング・エモーションズ)”になります。
では、人間の感情を強く大きく揺さぶる表現をどう作り出すか。その描き方、具体的な作品からその読み取り方を本書で開陳 します。
さあ、漫画制作の世界へ、ようこそ!
「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書
売れる王道マンガのつくり方、すべて教えます。講談社内の“伝説の私家版”『漫画編集者のための教科書』をアップデートした完全版!