モノを創作する全ての人、必読!! 講談社内の“伝説の私家版”『漫画編集者のための教科書』をアップデートした完全版――『「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書 感情を揺さぶる表現は、こう描け!』(石井徹著、幻冬舎刊)。秘伝満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。(毎週火曜更新/全5回)
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ヒット作を創った人に訊け
面白い設定は、どうすれば浮かぶか。浮かぶ人はすぐ浮かぶ。浮かばない人は脳髄を酷使して搾り出すしかない。ただしヒット作を創った人に話を訊けば、その発想のプロセスの学習はできます。
ヒット作のある編集者に質問しない人が圧倒的に多い。理由がわからない。ヒットは運だと思っているのか、それともプライドが高いだけなのか。もともと私は、入社するまで漫画なんてほとんどまともに読んだことがない人間だったので、疑問だらけでした。またプライドも高くないので、社内だけでなく、他社の人にもさかんに訊いた。
するとヒット作は、ある特定の人に多いとわかる。それなら、その人に、なにがしかのノウハウがあると考えるのが普通です。ヒット作といっても漫画だけではない。小説のヒットが多数ある人にも訊きました。私が無知なんだから当然です。
例えば、あだち充『みゆき』(「少年ビッグコミック」1980~1984年連載)。私が生まれて初めて自分のお金で買った漫画です。第1話から面白い。設定が素晴らしい。なぜこんなことが思い浮かぶのか不思議で仕方がなかった。しかし、これは他社(小学館)の作品だから担当編集者Kさん(この方は伝説の人です)に訊いてもなかなか教えてくれません。何年かして、たまたま飲み屋でお酌していたら教えてくれました。
ある時Kさんが中島みゆきのコンサートに行った。そこでびっくりした。中島みゆきの曲はたいがい「暗い」けれど、コンサートでトーク中の中島みゆきは超「明るい」。コンサートが終わって会場の外に出た瞬間、設定が浮かんだのだそうです。「同じ名前で、まったく違う性格の女の子2人に、主人公が好かれたら面白いのではないか」と。あとの細かいことは、歩きながら記憶のフラッシュバックのように浮かんだそうです。だからタイトルは『みゆき』なのです。
私にはこれで十分でした。企画とは、やはりそういう感じで浮かぶものと理解しました。Kさんはラブコメが得意だったので、ずっと考えていたんだと思います。潜在意識の中で考えていたものが、中島みゆきを見た時、今までバラバラだったピースが1つになったわけです。Kさんの企画を考える態度を学習しました。Kさんの思考の順序を整理すると以下の通りです。
〈Kさんの思考経路〉
1 中島みゆきの二面性
↓
2 2種類のみゆき
↓
3 片方は同級生、他方は血が繋がっていない妹
↓
4 義理の妹はいっしょに住まわせるほうが、ハラハラドキドキのシーンが増えて面白い
↓
5 おおよその設定と第1話は完成
↓印はKさんの直感の流れです。最後は論理ではなく直感的に閃くものです。よって↓印は人によって違います。私だったら、なにか理由をつけて2人のみゆきと主人公をいっしょに住まわせるかもしれません。↓印は個性的想像力の所産です。↓印がない人はまずいのです。
ちなみに『みゆき』と反対の設定が『タッチ』です。Kさんは漫画編集者の中でもかなり知識量が多いほうですが、知識の量だけなら他にもKさんクラスの人がいるでしょう。しかし99%努力しても1%の閃きがなければ、ただの物知りで終わりです。現代の漫画編集者としては失格です。“閃き”があるかどうかは、その人次第。とりあえず、脳髄がズキズキいうまで一日中考えてみることです。
Kさんは同業他社なのでなかなか訊けませんが、自社の人にならすぐにでも訊けるでしょう。私は片っ端から訊きました。自分の後輩からも訊きました。それがだいぶ参考になりました。
「少年マガジン」編集部で伝説の マンガ最強の教科書
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