菊池良さんの新作『ニャタレー夫人の恋人 世界文学ネコ翻案全集』が発売となります。様々な世界文学の登場人物がネコになったら……? という、奇妙でかわいらしいこの作品。菊池さんがどんなことを考えながら執筆されたのか、エッセイを寄せてくださいました。
さぁ、チャタレイならぬ『ニャタレー夫人の恋人』の登場です
『ニャタレー夫人の恋人』という本ができました。「え、『チャタレイ夫人の恋人』じゃなくて?」と思う方もいるかもしれません。いえいえ、「ニャタレー」なんです。
この不思議なタイトルの本は、さまざまな世界文学の登場人物たちが"ネコ"化してひとつの物語を展開するという奇想天外な内容になっています。そう、『ニャタレー夫人の恋人』は『チャタレイ夫人の恋人』の"ネコ"化なのです。
【あらすじ】
資産家で新進気鋭の作家でもあるクリフォード・ニャタレーとコニー・リードが結婚し、「ニャタレー邸」で新婚生活をはじめます。しかし、しあわせな結婚に思えたふたりの生活は、"あること"によって破綻へと向かっていきます。
さらにそこへ古今東西のほかの世界文学も"ネコ"化して「ニャタレー」の世界に介入してきます。あらゆる世界文学を巻き込んだ一大物語へと発展していきます。
雑誌『小説幻冬』に約2年間にわたって連載した作品を書籍化しました。
つぎつぎと"ネコ"化していく世界文学、その内訳は……
本書では、つぎの作品を取り上げます。
D.H.ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』
アルベール・カミュ『ペスト』
ジョージ・オーウェル『動物農場』
作者未詳『千夜一夜物語』
スコット・フィッツジェラルド『華麗なるギャツビー』
中島敦『山月記』
ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』
マーク・トウェイン『トム・ソーヤーの冒険』
イワン・ツルゲーネフ『片恋』
ジュール・ヴェルヌ『月世界旅行』『月世界へ行く』
フランツ・カフカ『変身』
このうえ、夏目漱石……いや
古今東西、さまざまな作品が登場します。いったいどうニャタレーの世界に絡むのかが見どころになっています。
さらにイラストレーターの五島夕夏さんによる挿絵が毎回、章扉に入ります。どれもとても可愛いので、こちらもお楽しみください。
ベストセラーになった『もしそば』からはじまるすべてを総動員して書きました
ぼくはこの本を書く前に、4冊の本を出しています。
『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』シリーズ(宝島社)
『芥川賞ぜんぶ読む』(宝島社)
『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)
それぞれがこの本への布石となっています。
『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』シリーズで100人以上の作家の文体模写をしました。
『芥川賞ぜんぶ読む』では1935年~2018年の歴代の芥川賞の受賞作をすべて読み、すべて解説しました。
『タイム・スリップ芥川賞』では芥川賞の歴史を、当時の社会状況も含めて物語形式で紹介しました。
「文体模写」「芥川賞」ときて、こんどは「世界文学」です。
芥川賞をすべて読んだとき、そこにはひとすじの流れがあることに気がつきました。文学は時代そのものを作品として結晶化してしまいます。そして、それは海外の文学も例外ではありません。「ニャタレー」を書き進めていくうちに、その背後に大きな流れを感じざるを得ませんでした。「ニャタレー」を読むことでそれを感じていただけるとうれしいです。
この作品は、ぼくの知識やスキルをすべて詰め込んだ集大成となりました。
ボトルメールは、きっとあなたのもとへ
この本の連載がはじまったのは約2年前です。
ぼくにとって、文芸誌での連載も、このような長期にわたる月刊連載も初めてのことでした。そのうえ、物語の本を出すことも、実は初めてなのです。
本を書くことは、ボトルメールを流すことに似ているとぼくは思います。出版とは、時間や場所をこえて、メッセージを届ける試みなのです。ぼくが本を書いている瞬間、あなたはそのことをまったく知りません。しかし、そこで書かれたことばがなぜかあなたの手元に届いてしまう、そんなことがあるのです。
この初めてづくしの新しい試みが、あなたのもとへ届くことを祈っています。
ニャタレー夫人の恋人
『ニャタレー夫人の恋人』の試し読みや特別コンテンツをお届けします。