これまでの人生を振り返った時、あなたが「自分に自信を持てていた時間」はどれくらいありますか? 日々の充足感や幸福感に欠かせない“自己肯定感”、それも他人を介さず手に入れる方法をまとめた書籍『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本』(藤野智哉著)から一部を抜粋してお届けします。自分が変わるスタートは、やはり自分を整えることから…かもしれません。
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自分を大切にできる人は自分以外にいない
ご自身が「うつっぽい」と感じていることと、医師が「うつ病」と診断することとは大きく違います。
うつ病は明らかに病気ですので、症状によっては入院して、あるいは長期休暇をとって、会社を休んでもらう必要も出てきます。実際、緊急に処置が必要な人もいたりします。
そんな状況にあってなお、「会社や同僚に申し訳なくて、入院などできない」という人がいます。
加えて家族が精神科への入院に対して同意をためらうケースがあって、医師としてはどこまで踏み込むか悩むことがあります。
また、摂食障害で入院していた少女を、家族が無理やり退院させてしまったこともありました。医師側も強硬に止めることはできないという壁があるのです。
こうした家族たちは愛情がないから退院させるのではなく、本人を思うがゆえ、本人に振り回されてそうすることが多いです。しかし、状況によっては命に関わることもあるので、こういう現実は残念でなりません。
今でも思い出すのは、引きこもって学校に行かなくなった少年が、親と共に相談に来たときのことです。
雨の日でしたが、うつむきがちなその少年は、親たちの傘を当たり前のように持たされて診察室に入ってきました。
親たちは平然としていましたが、そこに少年の口にできない痛みが見えるようでした。
不登校やひきこもりの原因は生徒側や学校側にあることも多々ありますが、このように家族の在り方が大きく関わっていることもあります。
私がいいたいことは、ひとつです。あなたはあなた自身を、もっともっと大切にして、守っていいのです。
親や何者かに、支配されることはありません。
あなたは、自分のことを誰にも認めてもらえないと思っているかもしれませんが、あなたが、あなた自身を認めてあげなくてどうするのでしょう。それでは、あなた自身がかわいそうすぎます。
「自分を認めるって、どうすればいいのですか」と、よく聞かれます。
私は「自分をもっと、ほめてあげてください」と答えます。
自分は今つらいのだ、でもよくやっている、とありのままの自分を認めてあげるのです。
すると、中には「自分は、ほめられるような人間ではないです」と小さくなっていう方がいます。
ストレスを溜めてしまうタイプの人の中には、つらいことを我慢できない自分はだめだ、そういう自分を許せないと思っている人たちが多くいるのです。
そうではありません。あなたは、そのままで十分です。
ですから「よくやっているよ」と、何度でも自分でほめてあげてください。あなた自身を許してあげてください。
それがあなた自身を大切にし、守るということなのです。
また、あなたが自分のことを大切にできない場合、それは自分を批判する人(自分の分身)がずっと横にいるようなものです。
失敗したときも、自分の分身が「もっと○○したほうがよかったんじゃないの?」「あれが悪かったでしょう」などと、ずっと横でささやいているのです。
一方で、自分を大切にできる人の場合、同じような状況において、分身はきっと「失敗は誰にでもあるよ」「自分なりに、よく頑張ったよ」と勇気づけてくれます。すると失敗しても、自信をなくしたり、落ち込んだりすることは少なくなるのです。
だからこそ、私は声を大にして「自分のことは、自分で守ってください」といいたいのです。
「なんとかなる」とつぶやく
会社での人間関係が原因で、うつっぽくなっている場合、会社員なら特別な事情でもないかぎり、休職や環境を調整することを選択肢に入れるほうがいいでしょう。
私は何か問題があったとき、いつも「なんとかなる」とつぶやいて、乗り切っています。
不思議なもので、本当になんとかなっています。深刻に考えすぎず、ふわっと軽い羽根ぐらいの心持ちでいることが、よい方向に運んでくれているのだろうと楽観的に捉えています。
それでも、どうしても心配でならないならば、まずは第一段階として、着々と転職の準備をしましょう。辞めたいと思ったときに、堂々と辞められるよう、環境を整えるのです。
また、「いつでも辞められる」という余裕は、追い込まれた自分の気持ちを少しゆるめてくれるかもしれません。
仕事の内容も、どんどん変化している時代です。子どもたちがこぞって「ユーチューバーになりたい」というような昨今、仕事というものに対しての価値観、人生観が、すごい勢いで変わっています。
副業も当たり前になりつつあり、それはひとりひとりの人生にとってもいいことだと捉えていいと思います。
こういう話をすると、ひとつのことをやり遂げることこそが仕事だという人たちがいます。
私も、それは否定しません。
たとえば伝統工芸品などを創り出す人たちなどは、仕事に生涯を懸けていると思いますし、鮨はロボットではなくて、シブい板前さんに握って欲しいと、私も思います。
しかし、そのような職人的な気質を必要とするものでなければ、仕事の内容は幅広く拡大していく時代になりました。
やりたいことは自由に求めていい。自分のやりたいことを求めることは、あなたが生まれ持った最大の権利でもあるのです。
自分で選択しないかぎり、自分への信頼感は育たない
スコットランド生まれの科学者で発明家でもあるアレキサンダー・グラハム・ベルの名言に「ひとつのドアが閉まるとき、別のドアが開く」というものがあります。
転職の準備を始めた段階で、すでにあなたの中で大きな「心的変化」が起こっているのです。
岸辺を離れて水面に漕ぎ出した一艘の船と同じです。自らの決断で漕ぎ出してこそ、まばゆい光が射し込むのです。
臨床心理学者の、ナサニエル・ブランデンはいいました。
「自分が行った選択は、心の深い場所に蓄積され、その蓄積を自尊心と呼ぶ。自分で選択することができなければ、自己信頼感を蓄積するだけの経験を積めない」
まさに、そのとおりでしょう。
転職に限らず何かあるごとに、ひとつひとつ自分の意志で選んでいけばいい。自分で選んで自分で歩き出した、ということが重要なのです。
なぜなら、自分の人生の決定権は、自分にあるからです。
その決定権を自分で行使しないかぎりは、「自分に生まれてよかった」という心境には、なかなかなれないものです。
動き出す前には、立ち往生してしまうこともあるかもしれません。迷いに迷うこともあるでしょう。
でも、それでいいのです。やがて必ず流れ出すときがやってきます。
その後も、岐路は何度でもやってくるでしょう。けれどそのつど自分で受け止め、悩み、考えて進めばよいのです。
まさにブランデンがいったように、自分で決めたという事実は、“自分を信頼する力”を育てていくのです。
生きる主体は、いつもあなたであっていいのです。
いや、あなたでなければならないのです。
他の誰でもない、あなたの人生なのですから。
「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本 心が軽くなる26のルール
幸せのコツを習得するほど、お得なことはありません。
・人によく見られたい、をやめる
・「他人と比べる」思考を抹消する
・自分という最大の味方をうまく使う
一度きりの人生なのに、他人と自分を比べて落ち込むばかりの毎日でいいはずがない。考え方を切り変えるだけで、人は「自分に生まれてよかった」と心から思える生き物なのだ。その根拠と方法について現役精神科医がわかりやすく解説します。