限られたパイを奪い合うゼロサムゲームに疲れ始めている現実世界。メタバースの仮想空間が実現し、世界が「自ら創るもの」へと変わるとき、今の現実とあなたはどう変わるのか――。壮大なパラダイムシフトの具体例と、その思想と哲学が詰まった『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』(佐藤航陽著)。話題の本書から、変容しつつある世界の入口をご紹介します。
今、世の中ではメタバースという新しいテクノロジーに対して、インターネット以来の革命だという人もいれば、あんなものはいかがわしいとバカにする人もいます。
少し長めの序章になりますが、評価が真っ二つに分かれるメタバースを、私たちはどのような姿勢で受け止めるべきか、お読みいただけると幸いです。
本書を手に取った読者の中には、「メタバース」(metaverse)という言葉を初めて聞いた人も多いかもしれません。
メタバースとは、インターネット上に作られた3D(3次元)の仮想空間のことです。1992年、アメリカの作家ニール・スティーヴンスンが、『スノウ・クラッシュ』というSF小説を発刊します。メタバースという言葉は、この小説の中で初めて使われました。「メタ」(meta=概念を超える、上位概念を指し示す)+「ユニバース」(universe=宇宙)を組み合わせた造語です。
VR(Virtual Reality)ゴーグルをつけて、バーチャル・リアリティによって形づくられたアナザーワールド(もう一つの世界)に人間がログインしてしまう。
あたかもこの世とは別のアナザーワールドに紛れこんでしまったかのように、そこで冒険を始めてしまう。サイバーパンクSF小説『スノウ・クラッシュ』のビジョンは、キアヌ・リーブス主演の映画『マトリックス』(1999年公開)やスティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』(2018年公開)といった作品に決定的な影響を与えました。
GoogleマップやGoogle Earth(いずれも2005年からサービス開始)は、『スノウ・クラッシュ』に出てくる「地球」というマシーンから着想を得て実用化されたそうです。
メタバースの世界は、カセットゲーム時代の『ドラゴンクエスト』のように「すでにでき上がった完成品」ではありません。ネット上にオープンソースとしてアップロードされた世界は、ユーザーがいくらでも作り換えることが可能です。ユーザーがログインすると、メタバースの世界をアバター(avatar=分身)が自由自在に移動できます。『マトリックス』のキアヌ・リーブスのように空を飛ぶこともできれば、アバター同士がメタバース内で話をすることもできるのです。
やや時代を先取りしすぎたせいで失速してしまいましたが、2003年にはアメリカのリンデンラボというベンチャー企業が『セカンドライフ』というメタバースをリリースしました。
『セカンドライフ』が失速してしまった一つの原因は、通信速度の遅さです。メタバースでの冒険を楽しむためには、瞬間的に大量の情報を処理できなければなりません。今のように4Gや5Gという高速回線がなかった2000年代は、『セカンドライフ』の世界を現実と見紛うほど精巧に設計するわけにはいきませんでした。
ログインしてみると、既存のゲームより見劣りする安っぽい画面しか現れず、途中でフリーズしたりノロノロ運転になったりしてしまう。これではユーザーが離れてしまうのは当然です。
2010年代後半に入ると、メタバースをめぐる状況は一変しました。パソコンやスマートフォンのスペックが2000年代とは比較にならないほど爆上がりし、常時接続の高速回線が当たり前のインフラとなり、高精細の動画を何時間連続で動かしてもフリーズしなくなったのです。
2002年に初号機がリリースされた『ファイナルファンタジーXI』、2020年に発売されたNintendo Switchの『あつまれ どうぶつの森』など、メタバース的なオンラインゲームは人々を魅了します。
大勢のユーザーがオンライン上で同時に参加できることから、これらのゲームをMMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Game=大規模多人数同時参加型オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)と呼ぶ人も増えました。
2017年にアメリカのEpic Gamesがリリースしたオンラインゲーム『Fortnite』(フォートナイト)は、世界中で爆発的にヒットします。Epic GamesのCEOであるティム・スウィーニーは、『Fortnite』の仮想空間を「メタバース」と呼んでバズワード化しました。
『Fortnite』がリリースされたあたりから、メタバースという言葉がバズワードとして広く認知されるようになります。
「AI」「ブロックチェーン」「仮想通貨」といったバズワードは、2~3年に一度くらいの頻度で出てくるものです。
いずれも世界経済を揺るがすほどのインパクトをもたらし、AIやブロックチェーン・仮想通貨によって株式市場も世の中全体も激しく変化していきました。今はメタバースが、世界中の株式市場と世界経済をひっくり返すほどのディープ・インパクトをもたらしつつあるのです。
バズワードに対する人間の態度
バズワードに対する人間の態度は、だいたい3つに分かれるのではないでしょうか。
第1に、シニア層に多いのが「こんなチャラチャラした言葉はけしからん」「インターネット上にもう一つの世界が生まれ、その世界を中心に人間社会が回っていくなんてことは起こり得ない」という態度です。過去の常識が染みついてしまっている人は、全く新しいパラダイム(世界観)に対応することができません。
第2に、若者に多いのが「自分にとってプラスになるのであれば、新しい流れに乗っかって活かしてみよう」という態度です。
新しい流れに乗っかったせいで痛い思いをしたり、大損して貯金を失ったりすることもあるかもしれません。でも自らリスクを取って挑戦すれば、メタバースの世界で新しい事業を立ち上げたり、新しい会社を起業したりするチャンスがあるかもしれない。チャレンジ精神に溢れる若者は、バズワードに対して中高年ほど否定的にはなりません。
第3にミドル層に多いのが「メタバース? 一応知ってはいるけど、それってくだらないものでしょう」という斜に構えた態度です。シニア層ほど新しいものに否定的ではありませんが、若者ほど前のめりにチャンスをつかみにいくわけでもありません。冷めた目で遠くから様子をうかがっています。
経験則上、2番目の態度以外に得られるものは何もありません。
そして3番目の態度が最も後悔を残します。なぜなら、3番目の態度を取る人は表面上は否定的ですが、「もしかしたら自分にもチャンスがあるかもしれない」と心のどこかで考えているからです。
そのため、変化が誰の目にも明らかになった時点で態度を180度コロッと変えます。しかし、そのころには2番目の態度を取った人がチャンスを総取りしたあとなので、何も残っていません。競争の世界では、中途半端な日和見のスタンスを取る人にチャンスが与えられることはないのです。
そもそも世界最高の人材と世界最大の資金をもつGAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)のうちの2社(AppleとFacebook)が将来有望と読んで兆円単位を投資していくのが確定している分野に、普通の人間である自分たちが「その可能性はない」と考えるのはちょっと無理があります。iPhoneやInstagramを日常的に使いながら、私はそこまで自信過剰になれる気がしません。
本書を通して、固定観念をできるだけ取っ払い、メタバースという新しい流れを味方につけて、自分の人生にポジティブな変化を手に入れてほしいと願っています。
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