1. Home
  2. 読書
  3. めぐみの家には、小人がいる。
  4. 17話 自分がまだいじめられっ子であるこ...

めぐみの家には、小人がいる。

2022.12.04 公開 ポスト

17話 自分がまだいじめられっ子であることを思い知らされる。滝川さり

オカルトホラーの新星、滝川さりさんの新刊『めぐみの家には、小人がいる。』の試し読みをお届けします。

机の裏に、絨毯の下に、物陰に。小さな悪魔はあなたを狙っている――。

前の話を読む

1話から読む

*   *   *

 

冴子は何をするつもりだろう。

あの様子では、過激な方法を取るかもしれない。天妃愛たちの親に直談判? 教育委員会に連絡? あるいは、突然の転校もあり得る。

止めようとは思わなかった。それどころか、自分の代わりに何か行動してくれることを期待すらしていた。それでめぐみへのいじめが止むのなら、親同士のトラブルも学校や自分への非難も、たわいもないことに思えた。

しかし、予想に反して──何事もなく数日間が過ぎた。

めぐみは登校を続けていた。見ている限り、天妃愛たちから嫌がらせを受けている様子はない。美咲が見張っているおかげではなく、どういうわけか、天妃愛たちの方がめぐみを避けているようだった。

それでも、安心はできなかった。母親に似て蛇のように執念深い天妃愛が、尻餅をつかされたまま引き下がるとは思えないからだ。

そう予感する根拠は、昨日聞いた天妃愛たちの会話にあった。

朝、美咲はまた、登校する天妃愛たち三人の背中を見つけた。向こうは美咲の存在に気づいていなかった。盗み聞きするつもりはなかったが、自然に声が耳に入ったのだ。

 

「ソフィ……んは本……に見……の?」

「い……ね。絶対あれ……まだよ。あい……は本と……くまの館……よ」

「こ……い」

「こわく……ば。すご……ちっ……ったし。あんな……ぶせるって」

「みた……ったの?」

「ぶど……な目が……た。きも……った」

「そんな……と……だち……バイね」

「そうのー……書……ったもん。だから……でしよ……悪魔退治

 

最後の言葉だけははっきりと聞こえた。

悪魔退治──ここらで悪魔と聞けば、連想するのは〈悪魔の館〉。旧ゲオルグ邸だ。

何かするつもりなのだ。旧ゲオルグ邸に……めぐみの家に。

だが、もう少し詳しい話を聞こうと近づいたところで、天妃愛に気づかれてしまった。彼女たちはその場に止まり、美咲が離れるまで動こうとしなかった。仕方なく天妃愛たちを追い抜き、何も聞こえなかったふりをしてやり過ごした。

職員室では、すっかりいじめの問題は解決済みのように扱われ始めていた。「転校生が一時的に阻害されるのはよくあることですよ」──白井は今回の一件をそう片付けようとしているが、美咲は腑に落ちなかった。

確かに、めぐみは学校に来るようになり、いじめは止んだ。けれど、この静けさは嵐の予兆……何か、学校の知らないところで事態が悪化している気がしてならない。

──見えないところで、何かが

そして気になるのは、交換日記の行方だ。

天妃愛にノートを奪われかけた日から、交換日記は止まっていた。めぐみからノートが返ってこないのだ。今までは、翌日には返ってきていたのに。

そのことと関係しているのか、めぐみの美咲に対する態度も変だ。話しかけても目を合わせようとせず、すぐ逃げられてしまう。

その理由は、すぐにわかった。

 

ある日の放課後。掃除が終わったのを確認するため、美咲は教室に向かった。

重い雲が空に敷き詰められた、一日中陰鬱な日だった。教室に入ってすぐ、異変の「気配」に気がついた。掃除班の子供たちの様子がおかしかったからだ。

箒や塵取りを持って美咲を待っていた彼らは、ニヤニヤ笑いを隠そうとしたり、怯えた表情を浮かべたりしていた。無関心を装っているが美咲の反応をチラチラと気にしている子もいた。誰かが悪戯いたずらをして、そのことに大人が気づくのを内心みんな心待ちにしている白々しい雰囲気──美咲が大嫌いな空気だった。子供を相手にしていてうんざりする場面の一つだ。

「掃除は終わった?」

素知らぬふりをして明るく尋ねると、

「先生……あれ」

怯えた顔をしていた女子児童が、後ろのボードを指さした。

振り返って──美咲は瞠目した。

ノートだった。

広げられたノートが、木のボードに張り付けられていた。

いや、磔にされていた。

ノートは画鋲がびっしりと刺されて、ボードに留められていたのだ。

(写真:iStock.com/FabrikaCr)

広げられていたのは、美咲の似顔絵の描かれたページだった。

笑っている美咲の顔に、画鋲がこれでもかと刺さっていた。

画鋲が刺さった箇所の一つ一つからは──血の赤が垂れていた。

そして美咲は思い出した。

自分がまだいじめられっ子であることを。

息が荒くなる。汗が額から噴き出す。手が小刻みに震え出す。

何かが頭の中で千切れるような音が聞こえて──

 

美咲は嘔吐した。

関連書籍

滝川さり『めぐみの家には、小人がいる』

群集恐怖症を持つ小学校教師の美咲は、クラスのいじめに手を焼いていた。ターゲットは、「悪魔の館」に母親と二人で住む転校生のめぐみ。ケアのために始めた交換日記にめぐみが描いたのは、人間に近いけれど無数の小さな目を持つ、グロテスクな小人のイラストだった――。 机の裏に、絨毯の下に、物陰に。小さな悪魔は、あなたを狙っている。オカルトホラーの新星、期待の最新作!

{ この記事をシェアする }

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP