医師で、老年医学の第一人者である和田秀樹さんの著書『80歳の壁』が、2022年の日販(総合)、トーハン(総合)の年間ベストセラーランキングでいずれも1位となり、「2冠」を達成しました。発行部数は50万部を超え、発売から8か月たった今も売れ続けています。和田さんが本書でくり返し強調しているのは、「ガマンをしない」ということ。食べたいものは食べる、やりたいことはやるのが一番の健康法だと語ります。
和田秀樹さんからのコメント
『80歳の壁』の発売当初から、「友だちにも薦めました」「
超高齢化社会を迎えると言われながら、
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「体の声を素直に聞く」のが一番の健康法
食べたいものを我慢している人は多いでしょう。食べる量を減らす、塩辛いものや甘いものを避ける、脂っこいものを控えるなどは、よくあるケースです。
世間の常識では、太っていると健康が損なわれ、「塩分、糖分、脂質」は三大害悪のように言われているからです。
でも、本当にそうなのでしょうか?
「食べたい」と思うのは体が求めている、とも考えられます。高齢者は臓器の働きが落ちるため、これが欲求を生んでいる可能性があるのです。
たとえば、塩分がそうです。人間は、ナトリウム(塩)がないと生きていけませんが、高齢者の腎臓は塩分を排出し、血中の塩分不足を起こすことがあるのです。
腎臓にはナトリウムを貯留する働きがあり、足りなければキープしようとします。ところが老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまうというわけです。
すると、低ナトリウム血症(血液のナトリウム濃度が不足した状態)が起こりやすくなります。これを防ぐため、体が塩分を欲しがることがあるわけです。
食事の量もそうです。「少し太っている人のほうが長生き」というデータは世界中にあります。つまり、太り気味であるほうが好調だと体のほうが知っていて、脳を通して「食べたい」という信号を伝えているとも考えられるわけです。
たしかに60代くらいまでは、塩分の摂り過ぎも太り過ぎも、健康を損なう原因になるかもしれません。しかし80歳も目前の「幸齢者」になったのなら、その常識は一度忘れたほうがいいと思います。
「食べたいものを我慢してダイエット」など自ら寿命を縮める行為です。栄養不足は、確実に老化を進めるからです。
もちろん、無理に食べる必要はありませんが「食べたい」と思うなら、我慢せずに食べたらいいのです。
体の声を素直に聞く……。80歳を過ぎた「幸齢者」には、これが一番の健康法です。
人間の体は、じつによくできています。それを信じればいいのです。
ちなみに、先ほどの低ナトリウム血症は、意識障害やけいれんなどを引き起こします。
ふだんは逆走や暴走をしない高齢ドライバーによる逆走事故や暴走事故などは、もしかすると低ナトリウム血症が原因で意識が飛んだのではないか。あるいは、血糖値や血圧を下げ過ぎて頭がぼーっとしたのかも……などと、複数の原因が考えられるのです。
ポルノを見たいと思うのは健康の証
本当はしたいのに「いい年をして」という言葉が頭に浮かび、我慢してしまうことはありませんか?
でもやはり、したいことは我慢せず、やったらいいと思います。
たとえば、性的なこともその一つかもしれません。世間の常識では「年甲斐もなく」と非難されそうなことです。しかし健康面から言えば、積極的になっていいと思います。なぜなら、男性ホルモンが増えるからです。
数年前、歌舞伎町で違法なわいせつDVDを販売して、店員が逮捕される事件がありました。この事件で話題になったのが、常連客に高齢の男性が多かったこと。
店には老眼鏡やルーペが常備されており、警察官が踏み込んだ際にも80歳を過ぎた男性客がいたと報道されています。今年1月にも同様の逮捕劇がありました。
「違法なDVD」は推奨できませんが、児童ポルノとは違い、欧米では合法のものです。それ以上にそれを見たいと思うのは健康の証です。また、このような性的映像は男性ホルモンの分泌を高めるので、「元気の源」になっている側面もあると思うのです。
もちろん「したいこと」は、エロティックなものだけではありませんし、男性に限った話でもありません。
「楽しいな」とか「面白そうだな」と思うなら、自分にブレーキをかけず、どんどんやってみたらいいのです。
※本稿は、『80歳の壁』の一部を再編集したものです。
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