今夏に刊行された『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』。本書は「女子部JAPAN」で長年行われてきた人気連載を1冊にまとめたもの。今回は刊行記念として、精神科医の星野概念さんをお招きし「悩みを聞くってどういうこと?」をテーマにした対談が実現! ロングシリーズとしてお届けします。最終回のテーマは「最近の相談、傾向は変わってきましたか?」です。<構成・文:森田雄飛(桃山商事)>
※こちらの記事は、2022年10月16日に本屋B&Bにて行われた対談を元に構成しています。
→第1回「悩みって、相談って、なんだ」
→第2回「人の気持ちを分かろうとすることを諦めないために」
→第3回「友達に相談するのが難しい理由とは」
→第4回「本当の意味で『共感する』とはどういうことか」
どうしてみんな、こんなに辛いのか
宇多丸 おそらく#MeToo以降だと思うのですが、職場のハラスメントや性被害に関する相談が増えた感覚があります。星野さんが診察されているなかで、そういう変化のようなものを感じることはありますか?
星野 社会的な流れを受けての変化、ということですよね。基本的に普遍的な意味での孤立感が一番大きいなと感じていますが、その孤立感が何によって生じているのかというのは、ちょっと変わってきているかもしれません。
宇多丸 はい、はい。
星野 ハラスメントの話をされる人は、やっぱり増えているような印象がありますし……うーんでも、よく考えるとそれぐらいかなあ。診療ベースだと、明らかに変わったというのはむしろ少ない気がします。
宇多丸 そうなんですね。
星野 僕は診療とは別に、「相談業」的な感じで、時間を決めてお話を聞くことをやり始めているんです。診療よりもむしろそういう場所での方が、より時代を感じることは多いですね。なんていうか、社会生活を普通に送りながら辛さを抱えている人が、時代の流れを食らって孤立感を強めている感じというか。
宇多丸 本当はその、医療に行く前の段階の辛い人がいっぱいいて……いっぱいっていうか、おそらく社会のほとんどみんながそういう辛さを抱えていますよね。もしもその段階でもうちょっと心がほぐれていれば、こんなに自殺が多いような状況の、その手前で何とかしうる可能性もあるんじゃないかと感じるんですけど。
星野 そうなんですよね。語る場所とか、なんとなく集まれる場所というのが元々少ないうえに、コロナ禍でさらに場がなくなったっていうのもあると思うんですよ。お店が潰れちゃったりとか。
宇多丸 行きつけの飲み屋やバーなんてまさに、素性を知らない者同士だからこそ気軽に気持ちを吐き出せる、フラットなコミュニケーションの場でもありますもんね。
星野 あと、サークル活動みたいな場所も減ってたりとか……。
宇多丸 それこそ2年前に大学一年生になった人は、例えば東京に一人で来て、サークルもない、飲み屋も行けない……みたいな状況に陥っていたはずで。
星野 今は、そういうつながりがないまま大学生活を送ってる人ばかりですよね。
宇多丸 その人たちに対して、根本的な何かをしてあげられないまま2年経ってしまった、という感じがしています。
「スーパー銭湯の休憩室」がもっと必要だ
星野 だから、集まれる場所がまたできていくといいと思いますし、復活するといいなと思いますね。
宇多丸 あとやっぱり、根本の問題として、カウンセリングがまだ定着していないというのは大きいですよね。例えば欧米のドラマで、カウチにゆったり座ってカウンセリングをする、みたいな描写があるじゃないですか。どちらかというとそれを揶揄しているような表現が多いですけど、ともあれお金を稼いでいて社会的に責任のある立場の人間であれば、カウンセリングを受けるのがむしろステイタス、ぐらいの印象がある。ああいうのは、日本ではなかなか整っていかないですよね。まあこれは長年言われてますし、そう言うお前が行ってないだろって話でもあるんですけど。
星野 自分としては、なるべくカウンセリングオフィスや病院みたいな場所じゃないところで、そういう活動をしてみたいなと思っていて、ちょっとずつ始めています。最近だとカフェの3階で月に2~3日「一日中いるので相談したい人がいたら来てください」っていうのをやっていて。
宇多丸 いいですね。ちょっと話に来る、っていうぐらいの。
星野 コリをほぐしに時々来たらどうですか、みたいな感じはどうかなと。あと僕はサウナが好きなんですけど、スーパー銭湯の休憩室の感じがすごくいいなと思っているんです。ダラダラしてる人がいたり、だべっている人がいたり、みたいな。
宇多丸 なんか、あの世とこの世の中間みたいな感じがありますよね。
星野 そうなんですよ! あの場所がもっと必要なんじゃないかと思って。
宇多丸 サウナとか風呂から上がった後の、あの時間だけの自由って、なんかありますね。
星野 それで僕、メンタルヘルス・スーパー銭湯っていうのをずっと作りたいと思っていて。メンタルヘルスの視点を取り入れたスーパー銭湯で、お風呂というよりはあの休憩室がメインで、近くに住んでる人がなんとなくダラダラして、漫画読んだり音楽聴けたりできるような場所があるといいなと思っていて。
宇多丸 よく考えると、スーパー銭湯には体のマッサージがあるわけじゃないですか。同じように、心もマッサージするところがあってもいいわけですよね。
星野 そうなんです!
宇多丸 なんかパッケージとして流行りそうじゃない?
星野 ただ、実際にはめちゃくちゃお金がかかりそうなんですよね。
宇多丸 やろうと思うと?
星野 やっぱり、土地……機材……。
宇多丸 イチからだと、そりゃそうですよね(笑)。
星野 はい。
大人だって、話をただ聞いて欲しい
宇多丸 今回の対談で星野さんと話してきて思ったことは、調子が悪いとかそういうのとは別にして、普通に生きていて「自分の話をする場」というのがそもそもないんじゃないかなということです。少し前に、しまおまほさんが『しまおまほのおしえてコドモNOW!』っていう、子どもにただただ話を聞くという本を作っていて。しまおさんによると、話を聞いた子どもたちがすごく喜ぶらしいんですね。「こんなこと初めて!」「人生で一番いい日」みたいなことを言うんだそうです。
星野 そこまでですか!
宇多丸 知らない人が話をただ聞いているだけなのにそれだけ喜ぶっていうことは、きっとそうやって、大人に対してフラットに自分の話をする場がほとんどないってことなんだろうなと思いました。子どもにしてからそうなわけで、大人は尚更ですよね。わかんないですけど、学校教育の中とかで、もっと自分の話をできればいいのにねって思います。
星野 いや、ほんとそうだと思います。子どもが「あのさー、車がさー」とか「なんとかサウルスが」とかいきなり話し出して、満足したら「じゃあね」ってどっか行く、みたいなのってあるじゃないですか。きっと、大人もそれをやりたいんですよ。大人だからやるべきじゃないってなっているだけで、やりたい自分が絶対いるはずだと思うんですね。まあ、酔っ払ってめちゃくちゃしゃべる人とかは、それだと思うんですけど。
宇多丸 確かに。バーとかで、酔っ払ったお客がバーテンに熱心に話をしてるんだけど、明らかにバーテンは聞いてなくて相づちしか打ってない。でもお客は話すだけ話してスッキリして帰っていく……みたいな光景はよく見る気がしますね。
星野 ただ話をできる場所と時間はあったほうがいいし、絶対に無駄じゃないと思うんです。
宇多丸 それでいうと、ラジオもやっぱりいいんですよね。メールを送って読んでもらうみたいなこともそうなんですけど、そこに人がいて、いろんなことをくっちゃべってるのを聞いているだけで、ちょっとだけ気がラクになる感じってあるんじゃないかと思うんです。その「近くにいる」感覚って、テレビとは全然違うし。
星野 はい。
宇多丸 あとはそれこそ人生相談にお悩みを送るのもいいですし、もちろん、カウンセリングをもっと気軽に受けられる雰囲気を作ることも必要なことですよね。僕自身、星野さんとの今回の対話を通じて、ちゃんとカウンセリングを受けるべきだなと改めて思いました。星野さんも受けるべきですね。
星野 そうなんですよね。
宇多丸 前回、星野さんが「僕も受けてないんですよ」とおっしゃっていたのがすごく意外というか、逆に勇気が出る話だなとすら感じました。
星野 わっかんないですよね。どこに求めたらいいかがわからない。
宇多丸 プロが(笑)。
星野 なんかほんとに、気軽さみたいなものがないよなと思っていて。費用的な面でも、手が届きやすいわけじゃないじゃないですか。
宇多丸 そのあたり含めて、今後ちょっとずつでも変わっていくといいですよね。
(了)
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ライムスター宇多丸さんの人生相談本『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』も併せてお楽しみください。
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- 大人だって、話をただ聞いてほしい
- 本当の意味で「共感する」とはどういうこと...
- 友達に相談するのが難しい理由とは
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