収まる気配を見せない、円安と物価上昇。「伝説のトレーダー」の異名を持つ経済評論家で、参議院議員もつとめていた藤巻健史さんは「これからが本番」と警鐘を鳴らします。やがて来るかもしれない「日本経済が大混乱に陥る日」に、私たちはどう備えればよいのか? 近刊『Xデイ到来 資産はこう守れ!』より、一部を抜粋します。
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もらった給料が数日でなくなる?
ハイパーインフレではパンや牛乳の値段は1時間ごとに上がっていく一方、給料や年金は1カ月ごとにしか上がらないので、もらった給料や年金は2~3日でなくなり、4日目から食うに困るという状況にもなりかねません。
1923年のドイツのハイパーインフレ時には、コーヒーショップに入ってメニューを見たらコーヒー1杯4000マルクだったのに、飲み終わって勘定を払う段階になったら1杯6000マルクになっていたとか、皆タクシーには乗らずバスばかりに乗り、その理由はバスは料金前払いだが、タクシーは後払いで、乗っている間にマルクの下落で値段がどんどん上がってしまうから、といった笑えないジョークがはやっていたそうです。
1月に250マルクだったパン1個が12月末には3990億マルクになったそうですから、前述のジョークは、冗談ではなかったのかもしれません。
インフレとは、債権者(お金を貸している人)から債務者(お金を借りている人)への実質的な富の移行です。
たとえば1000万円を銀行から借りている個人タクシーの運転手さん(債務者)はインフレが来れば大助かりです。タクシー初乗りが100万円になれば、お客さん10人を乗せれば1000万円の収入になり、1日で銀行に借金を返せます。
一方、汗水たらして10年間で1000万円貯めた人(債権者)は10回タクシーに乗ると預金がパー。悲惨です。その意味でインフレとは債権者から債務者への富の実質的移行なのです。
この国において債権者とは国民、日本最大の債務者は国。その意味でハイパーインフレは国民から国への実質的な富の移行で、税金と同じなのです。
ハイパーインフレは究極の財政再建
税金ではないものの、民間から政府への所得移転のことをインフレ税と呼ぶ人もいます。
物価は暴騰するし、貯めた預金はパーですからハイパーインフレは国民にとって地獄です。その一方、究極の財政再建となります。
わかりやすくするために極端な例を使いますが、タクシー初乗り1兆円時代の1218兆円など取るに足らない金額です。なにせタクシー初乗り1兆円時代には初乗り1回で1000億円もの消費税が入るのですから。名目は変わらなくても実質的に借金が軽減されるわけです。
国は、最初からインフレで、この膨大な借金を減らそうと考えているのではないかと思います。なんにもわかっていない政治家はともかく、財務省や日銀のエリートたちは、それなりに穏やか(?)なインフレで、借金を実質軽減しようと考えているはずです。
ここまで借金が大きくなると、インフレでの借金返済しか手法はないというのがエラい人たちのコンセンサスだと思います。
7%のインフレを10年継続すれば、借金は実質半分になります。その程度を目指したのでしょうが、財政ファイナンスを行ってしまった以上、日銀はインフレをコントロールするブレーキを失ってしまいました。
サイドブレーキもフットブレーキもない車では、減速はできません。そのうえ、アクセルを踏みっぱなしにせざるを得ない状態なのですから、7%のインフレで終わるわけがなく、どんどんインフレは加速していくと思うのです。
なお、国民にとって地獄でも、ハイパーインフレは究極の財政再建ですから、十分にハイパーインフレが進んでからでないと、政府はハイパーインフレ退治を始めないと思います。
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続きは書籍『Xデイ到来 資産はこう守れ!』をご覧ください。
Xデイ到来 資産はこう守れ!
収まる気配を見せない、円安と物価上昇。「伝説のトレーダー」の異名を持つ経済評論家で、参議院議員もつとめていた藤巻健史さんは「これからが本番」と警鐘を鳴らします。やがて来るかもしれない「日本経済が大混乱に陥る日」に、私たちはどう備えればよいのか? 近刊『Xデイ到来 資産はこう守れ!』より、一部を抜粋します。