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盾と矛

2023.01.10 公開 ポスト

倒産した「ポニー特急」の従業員はどうなった? DXの本質をアメリカ技術革新の歴史に学ぶ加藤晃/ロバート・フェルドマン

テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。

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技術の進歩がもたらすもの

DXの問題については、1850年代のアメリカの事例から多くの教訓を得られるのではないかと思います。

カリフォルニアが正式にアメリカ合衆国の州になったのは、1850年のことでした。当時のアメリカには、東海岸と西海岸の間の情報伝達が極めて悪いという大きな問題がありました。

船で行く場合、東海岸のニューヨーク、ボストンなどから、西海岸のサンフランシスコまでは、南アメリカ大陸を回る必要があり、早くても110日間かかっていました。ただし、船の方が無事に到着する確率は高かったようです。

一方、大陸横断鉄道が完成するのは20年も先のことです。陸上で情報を送る場合、東海岸から中西部のミズーリ州まではそう長い時間はかからなかったのですが、中西部からサンフランシスコまでは不確実性が高い、24日間におよぶ極めて危険な旅でした。

(写真:iStock.com/metamorworks)

そこで、3人のアントレプレナーがチャンスをつかみました。

ラッセル、メージャーズ、ワデルら3氏が考え出したアイデアは、「ポニー特急(Pony Express)」でした。ミズーリ州のセント・ジョーゼフ市から手紙をポーチに入れて、十数キロごとに馬を乗り替えて3200キロのルートを辿ります。

1860年4月3日に出発し、4月14日にサンフランシスコに到着しました。ミズーリ州からサンフランシスコまで24日間かかっていたのを、たった11日間に短縮したのですから、画期的な速さです。

ところが、1861年10月26日、ポニー特急の会社は開業からたった1年半で倒産を発表しました。南北戦争が始まったからではありません。先住民との戦争でもありません。その要因は、技術革新でした。

倒産発表の2日前の10月24日、大陸横断の電信網が完成したのです。中西部のネブラスカ州のオマハ市から、ユタ州のソルトレークシティー経由でカリフォルニア州のサクラメントまで電報が届くようになったのです。ニーズがなくなったポニー特急は、消え去りました。

過渡期の雇用をどうするか?

さて、ポニー特急の従業員はどうなってしまったのでしょうか。路頭に迷うことはありませんでした。技術の進歩によって成長するアメリカ経済の下、新たな職業に就くことができたのです。

電報作業員ではないにせよ、電報という新しくできた産業において高収入を得る人が出現し、その人が消費する商品やサービスを提供する産業に転職できたことはまちがいありません。

(写真:iStock.com/Darren415)

技術の進歩が従来型産業を破壊する例は、経済史において数多く見ることができます。アメリカで「ポニー特急」が倒産したのと同様に、日本では、江戸時代の「早駕籠」が汽車によって消え去りました。「人力車」は、タクシーによって消え去りました。事例を挙げれば、きりがありません。

それでも、経済成長が止まったわけではありません。むしろ、新しい技術を取り入れた結果、生活水準は上昇したのです。問題は、技術革新によって産業が入れ替わる過渡期の雇用をどうするかです。

 

AIとDXで悩む日本にとって、この歴史的教訓は意味深いと思います。マッキンゼー社の調査によれば、2030年までに日本ではAIなどが1600万人の雇用を破壊するそうですが、同じ技術は1000万人から1100万人の転職ニーズをもたらすと予測しています。

これまでの技術、雇用、社会の相互関係にはどのような事例があったのか、どのような理論があるのか。そこには、次の日本をどのように作るべきか、多くのヒントがあります。

1861年のアメリカにおいて、ポニー特急で情報を伝えるコストが電報のコストを大きく上回った結果、電報を利用するプロセス・イノベーションだけでなく、プロダクト・イノベーションも起こりました

その後の150年間も情報コストは低下傾向でしたが、近年はさらに情報コストが低下しています。IT、ML、DLを利用したプロセス・イノベーションもプロダクト・イノベーションも合理的になっています。

関連書籍

ロバート・フェルドマン/加藤晃『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』

「繰り返し」の仕事は消滅する! 新たな時代のニーズを掴め! DX/AI/SDGs/MOTをあなたの武器にする本 はじめに 大失業時代、学び続けないものは生き残れない ・2030年までに1600万人が今の職を失う 1章 人生100年時代と「一所懸命」モデルの崩壊 ・DXによって学んだことの賞味期限はどんどん短くなる 2章 AIとDXを自分の言葉で語れるようになろう ・雇用を減らすイノベーション・生み出すイノベーション 3章 DXの本質は、ビジネスモデル変革 4章 最も弱いスキルを鍛えない限り、成長はない 5章 データを正しく解釈しよう。 新型コロナと日本人 ・日本のコロナ対応、欧米と日本で評価が180度異なるのはなぜ? 6章 エネルギー革命と成長する企業の決断 ・再生可能エネルギーは企業にとって「負担」ではなく「投資」 7章 投資家が重要視する「サステナブルファイナンス」とは おわりに 自己実現への道しるべ

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盾と矛

テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。

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加藤晃

東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)教授。防衛大学校(国際関係論)卒業、青山学院大学で博士(経営管理)を取得。貿易商社、AIU保険会社、愛知産業大学を経て、2020年より現職。経済産業省ISO/TC322国内委員・日本代表エキスパート、ISO/TC207環境ファイナンス関連規格検討委員会委員、日本証券アナリスト協会サステナビリティ報告研究会委員。単著に『CFO視点で考えるリスクファイナンス』(保険毎日新聞社)、共著に『サステナブル経営と資本市場』(日本経済新聞出版社)、『ガバナンス革命の新たなロードマップ』(東洋経済新報社)、監訳書に『サステナブルファイナンス原論』(金融財政事情研究会)、『社会を変えるインパクト投資』(同文舘出版)。

ロバート・フェルドマン

1970年、米国からAFS交換留学生として初来日、1年間名古屋で過ごした後、イエール大学で経済学/日本研究の学士号、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1983~89年、国際通貨基金(IMF)でエコノミスト、1990~97年、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社で首席エコノミストを務める。
1998年、モルガン・スタンレー証券株式会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)に入社、チーフエコノミストとして2017年まで勤め、その後シニアアドバイザー。
2000~20年、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系列)にコメンテーターとして出演。書籍出版、雑誌寄稿、講演などの対外活動にも積極的。2017年より東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)にて教授を兼業。

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