テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。
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パフォーマンスを左右するものは?
図表14を見てください。あるチームのコミュニケーションを表しています。5人のメンバーの能力はそれぞれですが、ポイントは参加者のコミュニケーション構造です。
このチームの図では、2人は非常によくコミュニケーションをとっています。太い紐帯(線)で表しています。しかし、他に太い紐帯はなく、互いに全く話していないメンバーもいます。
一方外部との関係を見ると、中で強くつながっている人は外部とのつながりがほとんどありません。一方、中であまりつながっていない人は外部とのつながりが多いことがわかります。理科大MOTの授業で、このチーム構造の図を学生に見せて質問しました。
「これは良いチームだと思うか」。全員が本能的に「ダメだ」と答えました。
このようなチーム構造を正式に科学的に調べたのは、マサチューセッツ工科大学メディアラボのアレックス・ペントランド教授です。ペントランド教授は、ビッグ・データ分析の結果と他の研究結果を基に次のような理論を導き出し、『ソーシャル物理学』(草思社、2015年)という本で紹介しました。
パフォーマンス(すなわち目標達成度)には3つの決定要因があります。
1つ目は「エナジー」、情報量です。つまり、チームメンバーがたくさん話しているかどうかということです。
2つ目は「参加の歪み」。すなわち情報の流れに歪みがあるかどうか、ということです。決まった人だけが話して、他の人が黙っているかどうかです。もちろん、歪みが少ない方がいいのです。
3つ目は「探索度」。すなわち外部情報を広く取り入れているかどうか、です。
優れたリーダーがやっていること
このペントランド教授の理論を背景に、リーダーは何をすべきかということを考えましょう。リーダーの正しい行動は、「お前、こうやれ!」ではありません。
むしろ、まずたくさん話すこと。次に、全員に均等に話すこと。そして、外部情報をたくさん取り入れることです。最後に、全員を同じように行動させることです。
すなわち、すべてのチームメンバーに他のメンバーとうまく絆を作って、外部情報を取り入れてもらう。これが良いリーダーです。
この理論は、果たして正しいでしょうか?
アイデアの流れを良くすればチームワークが良くなるという仮説の下、理科大MOTのゼミの教え子であるH君が実験しました。ゼミの中の情報の流れをデータにして記録したのです。
図表18を見てください。縦軸はアイデアの量、横軸は参加の歪みを表す「変動係数」です(変動係数は低いほど良い)。右側にあるのは、前期4~8月のFAS(フェルドマン・淺見・坂本)ゼミです。
全部で10人が参加し、学生が7人、教員は3人。ほとんど話していない人もいます。後期の9月~翌年1月は、前半と後半に分けています。ゼミの組み替えがあり、坂本先生が他の先生と組んで、FA(フェルドマン・淺見)ゼミになり、学生5人、教員2人になりました。
後期前半は、良くなりました。参加者の数が少なかったこともあって、歪みが生じにくくなったと言えます。ルールとして、「もうちょっと気をつけてみんなの意見を取り入れましょう」ということにしました。後期の後半はさらに良くなりました。
これはなぜでしょうか。H君が自分の研究結果を説明する時に、「偉い人が先に話すと他の人たちが黙ってしまう」ということを指摘しました。教員にとっては耳が痛い話でしたが、事実です。
その後学生が発表した後、私や淺見先生ではなく、学生から話し始めることにしました。つまり、学生のコメントを先にして、教員のコメントを後にするとコミュニケーションが良くなったのです。
図を見ると、後期後半の変動係数は下がったことがわかります。すなわち、「歪み」が少なくなったのです。加えて、少しですが、アイデア交流数が良くなりました。結果として、この研究は優秀ペーパー賞を受賞しました。ペントランド教授の理論が立証されたのです。
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盾と矛
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