「単なる未来予測の書ではなく、希みを与える未来創造の書だ」
伊藤裕 [慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 教授]
「最新の老化研究に基づいた、誇張や歪曲のない良書です」
原英二 [大阪大学微生物病研究所(遺伝子生物学分野) 教授]
堀江貴文さん久々の新刊『不老不死の研究』が明日発売となります。4年の歳月をかけ、抗老化研究の第一人者23人への取材、そして内容チェックをかけ完成した究極の「健康大全」。まさに「読む薬」と言ってよい一冊の冒頭「はじめに」を公開します。
はじめに
子どものころ、死ぬのが怖くて怖くて仕方なかった。
夜になってから電気を消して布団に潜っても、なかなか寝つけない。ひょっとすると自分は、このまま目覚めることなくあの世に逝ってしまうのではないか。電化製品のヒューズが飛ぶように心臓がいきなり止まったら、人間の魂はどこへ行ってしまうのだろう。そんなことを想像していたら、体がブルブル震えてきた。
大人になってから、ヴィクトル・ユーゴーの『死刑囚最後の日』(岩波文庫)という古典の存在を知った。この作品には、死刑執行を待つ男の様子が日記のように綴つづられている。〈人はみな不定期の猶予つきで死刑に処せられている〉という一節は衝撃的だ。
なるほど、いつか必ず死ぬことが約束されている人間は、私も含めて全員が死刑囚に等しい。死へのカウントダウンが今この瞬間も続いているかと思うと、ますます死ぬのが怖くなってきた。
死を恐れるのは私だけではない。秦の始皇帝は「不老不死の薬」がどこかにあると信じ、草の根を分けてでも探すよう命じた。日本の昔話『竹取物語』(かぐや姫)にも「不死の薬」が出てくる。
サイエンスとイノベーションによって、いつの日か夢の「不老不死の薬」が開発されないものか。寿命なき世界を永遠に生きられないものか。できることなら、100歳までも120歳までも生きたい。私は切実にそう願ってきたのだ。
従来、「人間の生物学的寿命は120歳が限界だ」と言われてきた。ところがほとんどの人が、80代後半か90代にさしかかるころには亡くなってしまう。生物学的寿命が120歳だとして、なぜ20年も30年も早く人間は死んでしまうのだろう。中には、生物学的寿命の半分も生きられずこの世を去っていく人もいる。
もちろん中には、DNAにエラーがあるせいで生まれつき早逝が約束されてしまっている人もいるだろう。「生老病死」を「四苦」と呼ぶとおり、生きている限りインフルエンザにかかって苦しむこともあれば、思わぬ病気に罹患してしまうこともある。
すべての病気をゼロにできなくとも、病気のリスクを未然に減らし、人為的に健康寿命を延伸させることはできるはずだ。病気の発生因子を知り、自分の体の状態を医学的・科学的に熟知する。早期発見・早期治療に加えて「予防医療」という観点を加味すれば、人間は寿命なき世界に一歩ずつ近づけるはずだ。
すべての人に、1日でも長く健康に長生きし、一度きりしかない人生を謳歌してほしい。健康管理をあと回しにし続けた結果、家族や友人、そしてあなた自身が人生を後悔しないでほしい。
そんな思いから、私は仲間と一緒に一般社団法人「予防医療普及協会」を立ち上げた(2016年9月)。これまで100名以上の医師や専門家にインタビューをお願いし、最新の予防医療の知見をうかがってきた。
本書は、2019年から2022年にかけて予防医療普及協会が企画したインタビューの内容をベースとして、全篇書き下ろした一冊だ。
医学者が読む専門書ではないため、一般向けにできるだけ易しく書きたい。かといって、サイエンスから逸脱した似え非せ科学的な所見が混じってはならない。
そこで本書に登場していただいた23名の医師・専門家に、論文発表で言うところの「査読」(専門家の視点からのクロスチェック)をお願いした。「査読」の過程で、それぞれの項目の最新知見を加筆して盛りこんでいただいたりもした。
予防医療の分野は、今こうして原稿を書いている間も凄まじい進歩を続けている。24時間365日、世界中の研究者がラボで実験や研究を重ね、論文を量産しているのだ。
19世紀に活躍したSF作家ジュール・ヴェルヌ(『海底二万里』『八十日間世界一周』『十五少年漂流記』で有名)は「人間が想像できることは、必ず人間が実現できる」と言った。この言葉どおり、「寿命なき世界」「人間が120歳まで生きられる世界」はすぐそこまで来ていると信じたい。
私がそう確信する理由の一端は、本書にも綴られている。
「人工冬眠」の可能性だ。筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構の櫻井武教授は、2020年に世界で初めて冬眠状態を誘導する新しい神経回路を突き止めた。
カエルやリスやクマなど、生物の中には生まれつき冬眠の機能が組みこまれている種類がいる。体の状態を冬眠モードに切り替え、代謝を100分の1まで抑え、呼吸までも制御して食糧が乏しい冬を生き延びるのだ。
過去に山で遭難した人の中に、20日以上も飲まず食わず、発見当時は心肺停止状態から蘇生した例がある。ひょっとすると哺乳類である人間には、生命の危機を乗り切る冬眠モードのスイッチが、どこかに組みこまれているのかもしれない。
そんなお話をうかがっていたらワクワクしてきた。人工冬眠が技術的に可能になれば、冬眠したまま宇宙船に乗りこみ、100年後とか1000年後に復活することだってできるかもしれないのだ。
サイエンスと医学の知見を勉強するだけでは、大学生や10代の中高生がついてこられなくなってしまう。そこで本書には、人工冬眠のようにSF映画っぽいエンタメの要素、ノンフィクションやミステリーの要素も盛りこんで読みやすくまとめた。
「知ることは力なり」だ。サイエンスと医療技術に関する最新の知見を手に入れることによって、読者の皆さんも予防医療に努めてほしい。
本書で紹介した研究者の知見には、あらゆるビジネスの種が潜んでいる。事実、私もインタビュー中に新しい仕事をいくつも思いついた。30~40代のがっついた若手ビジネスパーソンにも、ぜひ本書を手に取ってほしい。
2022年、精神科医の和田秀樹さんが書いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)という本が55万部超えの大ベストセラーになった。「80歳の壁」を悠々と乗り越え、願わくは90歳の壁、100歳の壁も突破したい。さらなる強いバイタリティで仕事もプライベートも楽しみ尽くすために、本書を実用書として活用してほしい。
なお、私は現在月刊誌「GOETHE」(ゲーテ)で「金を使うならカラダに使え!」を連載中だ。ウェブサイトでも読める。
本書の副読本として、こちらの連載にも注目してほしい。
すべての人に、いつまでも健康に人生を満喫してほしい。みんなのQOL(Quality of Life)を一歩ずつ向上させるために、これから私はますます奮闘していく。
2022年12月 堀江貴文
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