体のどこかに痛みがあって、仕事に集中できないことはありませんか? 麻酔科専門医である柏木邦友氏の著書『とれない「痛み」はない』は痛みの取り除き方を網羅。ここでは本書の一部を紹介し、まずは痛みを放置してはいけない理由を解説します。
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日本には「我慢は美徳」という価値観が根強くあるように思いますが、「痛いと騒ぐのは、みっともない」「痛みなんて我慢していれば、そのうちよくなる」などと考えるのは禁物です。
基本的に、痛みには放置すると増強される仕組みがあります。痛みを我慢し続けているうちにその状態に慣れることはありますが、痛みに順応するのと痛みが改善するのはまったく別の話であり、痛みを放置すべきではありません
「痛みが増強する仕組み」というのは、自分で身体のどこかをつねってみればわかります。つねり始めはさほど痛くなくても、ずっとつねり続けているとだんだん痛みが強くなり、どこかの時点で「我慢できない」と思うはずです。
これは、繰り返し同じ痛みの刺激が与えられると、痛みの信号がどんどん増幅されて脳に送られるようになるからです。これを「ウインドアップ現象」といいます。
もちろん、けがによる痛みであれば、安静にしていることで治癒が進んで、痛みがくなる場合もあります。しかし、関節リウマチやヘルニアといった病気により慢性的な痛みを抱えている場合などは、我慢せず、病院で診察を受けて積極的に痛みをとることが必要です。
放っておけば痛みが強くなるおそれがあるだけでなく、痛いところをかばうようにして生活しているうちに、身体の別のところが痛むようになるケースもあるからです。
我慢することがよくない理由の一つが、痛みにより睡眠不足になると、痛みがより増強することです。これについては仕組みが解明されているわけではないのですが、マウスの研究では、睡眠不足により痛みへの反応が過剰になること、睡眠を正常にとることによって回復することが明らかになっており、実際に「痛いから眠れず、眠れないことによって、より痛くなる」という悪循環が生じることはよくあります。
医師が鎮痛を行うときは、痛みの目安として「眠れないくらい痛いのか」「安静時も痛いのか」「動くと痛いのか」を確認します。
そして、もし患者さんが「眠れないくらい痛い」という場合は「そのレベルの痛みがあっては、睡眠不足により痛みが増強してしまう」と考えます。
このような場合は、少なくとも「安静にしていれば痛くない」という程度までもっていくことを目指す必要があります。
治療において「眠れるようにする」ことは非常に重要なポイントです。睡眠不足は免疫機能低下も起こします。数週間ラットを断眠させたところ、免疫機能が著しく低下して死亡してしまったという報告もあります。痛みを我慢せず、睡眠をしっかりとれるようにすることはとても大切なのです。病気やけがで強い痛みが生じている場合、痛み止めだけでなく睡眠薬が処方されることもあります。
逆にいえば、「痛みで眠れない」というのは、かなり深刻な病状であることを示すバロメーターであり、そのような病状にある場合は、必ず医師に伝えるようにしてください。
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とれない「痛み」はない
人の身体は50歳を過ぎると、あちこちに痛みが出てくるもの。日本人は「我慢は美徳」とばかりに耐えようとするが、痛みは生活の質を落とすだけでなく、我慢するほどに強まる仕組みになっているから無意味だ。痛みは深刻な病気のサインのこともあるため、放っておくのは禁物である。そこで本書では、痛みが生じるそもそもの仕組みから、部位別の痛みのとり方、薬や病院の選び方、終末期の苦しみのとり除き方まで、痛みに関するあらゆる疑問を解説。痛みや苦しみの恐怖から解放されること間違いなしの一冊。