「節約せずに誰も金持ちになれない。そして、節約する者で貧しい者はいない」。サミュエル・ジョンソンの言葉は、光熱費の高騰、物価高、増税の気配に覆われた私たちの生活のひとつの道しるべではないでしょうか。このフレーズが1pめに入った中川淳一郎さんによる『節約する人に貧しい人はいない。』(2016年刊)はまさに今読むべき本。一部を抜粋してお届けします。
趣味を楽しさではなく、収入に応じて選んでいないか?
趣味についてだが、果たして人は「本当に好きだから」ということでその趣味をやっているのだろうか。磯釣りが好きだった人間が金持ちになった時にクルーザーを買ってカジキ釣りをやるようになるのはなんとなく分かる。釣り師は、より大物を求める気持ちがあるだろう。登山が趣味だった人間が、日本百名山を制覇した後、アコンカグアやマッターホルン等、世界の高山を登りたくなる気持ちも分かる。
だが、草野球が趣味だった人間が、途端にゴルフをやったり、クルージングをしたりするようになるのは一体どういうことか? これは、単に「同じぐらいの収入を持つ人がその収入に応じてやるべきというイメージがある趣味」をやっているだけのことが多いのではないか。
ゴルフに限った話をすると、私の会社員時代の同期の多くはゴルフをしている。同期66人中、50人ほどはやった経験があるのではないか。97年入社のため、毎年9月7日には同期会をやるのだが、ある年はゴルフをやっていた。それだけ、共通の趣味となっているのだ。
その一方、今私がいるライター業界でゴルフをやる人間はいない。各人の趣味を見ると、アイドルの追っかけ、城めぐり、映画鑑賞、ランニング、登山、J3(サッカー3部リーグ)観戦などだ。
同期の年収は恐らく1000万円を超えているだろう。そして趣味は一律にゴルフである。もちろん他の趣味も各人持っているが、ゴルフ「も」キチンとこなしている。
一方、現在の同業者で1000万円を超えている人は滅多にいない。ゴルフ「は」まったくしない。これだけを見ると「給料の高いサラリーマンはゴルフをする」という見栄張り消費となっている。「高給取りサラリーマン」という属性が、なぜ「ゴルフ」に繋がるのか意味不明である。
もしかしたら、ゴルフが終わった後の集合写真をFacebookに公開することはステイタスであり、それに対して「いいね!」がつくのが快感なのかもしれないが、本当にゴルフが楽しいのかについては自分の頭で考えるべきだろう。
さすがに今の時代、会員権などはいらないが、東京都内に住んでいる人間がゴルフをする場合は、朝5時に誰かの車に乗り、千葉の方まで行くなんてザラである。それなのにいい年して集団行動を強いられ、しかも2万円~3万円程度は払わなくてはならない。ラウンドを終えたら、皆で風呂に入り、メシを食い、大渋滞の中3時間かけて疲労困憊でようやく12時間ぶりに家に戻れるのだ。ゴルフクラブも一式揃そろえるにはカネがかかるし、時には打ちっぱなしで練習をしなくてはならない。
そして、これまたそれなりに給料の高い若者中心のIT企業と付き合いがあるのだが、ギョーテンしたのが、20代の若者が案外ゴルフをしているのである。この半強制的文化は2010年代になっても着実に受け継がれている。
今の日本ではゴルフは趣味というには、あまりにも負担が大きい。本当にゴルフが好きで好きでたまらない人以外は、「オレ、ゴルフやらないんで」の一言で拒否してもいいのではないだろうか。
毎年AKB48の総選挙では、なけなしのカネをはたいて投票券のついたCDを大量に購入するファンが登場する。しかし、その人は幸せなのだろう。だったらいいのだ。ここで問題にしているのは、本来興味も何もないものを無理矢理強いられ、あたかも趣味であるかのようにさせられることである。AKBの総選挙については、以前、不思議な金持ちと会ったことがある。
初老の男性だったのだが、あまりにもカネがあり過ぎて、AKBの総選挙を左右する野望を抱いたのだという。元々アイドルに興味はなかったのだが、ある時AKBのビジネスのシステムを知り、大いに興味を抱いた。そしてAKBについて徹底的に調べれば調べるほど、総選挙の仕組みの巧みさに舌を巻き、順位を左右する存在になりたいと考えた。推しメン(推したいメンバー)も何人か生まれ、選抜メンバーの16人も含め、ランキング入りする80番目までの当落線上にいるメンバーを自分の力で選抜入りさせたいとの欲望を抱いた。
過去の結果から統計学も駆使してシミュレートし、3000万円(3万票分)ほどをつぎ込めば、選抜メンバーも含め5人のアイドルの人生を左右できることが分かった。彼からの依頼は「謎の金持ちが道楽でAKBの推しメンを本気で推した」という記事を書き、この珍騒動を話題化することだった。これはこれで面白いので、記事化の価値はあると私は判断した。
だからといって彼は売名行為をしたいワケではない。単に自分の道楽がニュースになり、さらにはアイドルの人生を1日にして変えてしまう、という大それたことを人生の晩年にやらかしたかったというのだ。
なんというダイナミックな趣味なのか! この人は本気でその日が来るのを楽しみにしていた。だが、計画は頓挫した。理由は、3000万円をつぎ込むことはやぶさかではなかったのだが、シリアル番号を3万件打ち込むことは不可能だったからだ。バイトを雇うことも検討したが、彼は極端に身元がバレるのを嫌がっていた。何人も雇えば、その中に彼のことを検索し、吹聴する者が出る恐れもある。そして、3万枚のCDを保管することは可能だったが、処分の仕方が分からなかった。それで結果的にこの計画は中止となったのだが、趣味というのはここまで本気で楽しめるものだけをやっておけばいいのである。
見栄を手放すための節約道
「見栄を捨て、自分だけの幸せを手に入れる。」のキャッチコピーとともに発売された、中川淳一郎さんの『節約する人に貧しい人はいない。』。「節約とは他人と比べないこと」と繰り返し説く、異色の節約本は、いかに生まれたのでしょうか? そして、中川さんの考える「節約道」とはどんなものなのでしょうか? 短期集中連載でお届けします。