誰もが不安な老後のお金。不安を解消するのに一番大切なのは、やみくもに貯金することではなく、まず自分が何歳までにいくら必要かを知ること――。リーマンショック後の2009年に刊行され、いつの時代も通用する「資産づくりの大原則」が詰まった定番の1冊として読まれ続ける『60歳までに1億円つくる術 25歳ゼロ、30歳100万円、40歳600万円から始める』(内藤忍著)。本書からポイントを抜粋してお届けします。世知辛さが増す本年ですが、みなさまどうぞよき一年を……。
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「六〇歳までに一億円」
このタイトルを見て、どう思いましたか?
「この不景気の時代に、何を言っているんだ。一億円なんて無理に決まっている」
と反発を覚えた後で、
「でもひょっとしたら、一攫千金のうまい儲け話が書いてある本かもしれない」
そう思ってこの本を手にとったのかもしれません。
いきなり出鼻を挫くようで恐縮ですが、誰もが絶対一億円必要なわけではありません。一億円は「これだけあれば、老後はまったく心配ない」という象徴的な金額として掲げたものです。
もちろん本書では実際に一億円をつくるためのプランもお見せします。しかし、金額そのものが重要なのではありません。自分だったら「いつまでにいくら」必要なのか。それがわかって、実現に向けて行動を始めてもらうことが、本書の大きな目的です。
今日より明日がよくなると思えない
二〇〇八年に起きた世界的金融危機のあおりを受け、日本中がお金に関して悲観的なムードに支配されています。しかし金融や投資の仕事を二〇年やってきた私には、みんな悲観しすぎているように見えます。自分の身を守るための危機感は持つべきですが、必要以上に深刻になることはありません。
また、日本では将来に対して過剰に不安を感じている人が多いような気がします。その傾向はとりわけ若者に顕著です。
私は今四〇代半ばですが、二〇代の人たちに話を聞くと、「お酒を飲まない」「車に乗らない」「ひたすら貯蓄する」という人が増えています。
しかも、「いつから老後の計画を立てますか」と聞くと、「二〇代から」と答える人が全体の五三%を占めるという調査結果もあります。
これはやはり彼らが物心ついたときから厳しい経済環境で、いい時代を全然知らないのが大きな理由でしょう。景気は常に悪く、就職は大変で、給料は安く、年金制度はあてにならない。就職できたとしても終身雇用が保証されているわけでもなく、会社にいても給料は下がる一方かもしれない。子どものころからずっとこんな社会状況では、明日は今日よりよくなるという発想を持てないのも当然かもしれません。
お金を使わなすぎても不幸になる
高度成長期までの日本では、会社にいれば年功序列で出世して、定年になればまとまった額の退職金をもらえるのが一般的でした。それに企業年金と国の年金を合わせれば、ものすごく豊かではないにせよ、それなりの生活はできる。これで家のローンの返済が終わっていれば家賃はいらないからさらに余裕ができる。ほんの数十年前までは、真面目に働けば、そんな豊かな老後が約束されていたのです。
ところがこの生活設計が成り立たないとなれば、話は違ってきます。今の若者が「将来どうなるかわからないから貯金しよう」と、極端な節約志向に走り始めたのは環境が変わってきたからです。
しかし、海外旅行にも行かないし、友達と飲みにも行かない。成績がよいほうが就職に有利だから大学の授業には真面目に出席するけれど、終わったらさっさと帰ってバイトに行く。私は若者のこんな傾向に、危険な兆候を感じています。
お金を使いすぎて一文無しになるとか、消費者金融で借金地獄に陥るとか、「使いすぎ」の恐ろしさはイメージしやすいのですが、実はこのような「使わなすぎ」も不幸な人生をもたらす生き方なのです。
ある程度年をとってからならともかく、まだ若いうちから「できるだけお金を使わず生きることこそすべてに優先する」という発想になってしまうと、自分で自分の可能性をせばめてしまう。とにかく一円でもムダなお金は使わず、人づきあいもせず、ひたすら将来のために貯めておくだけでは、結局は辛いことばかりの人生で終わってしまいます。
「死ぬときが一番お金持ち」ではつまらない
私はお金を「人生の目的達成のための手段」だと考えています。そのためには使うべきことには思い切って使わなければ、チャンスを逃すことになります。
たとえば若いうちに学校に通って資格をとっておいたほうが高収入の仕事につける。そのときは学費がかかっても、最終的には学費以上に収入が増えるかもしれません。あるいは、若いうちに多くの人とつきあい、その人間関係から学んだことが、将来の大きな財産になる。
もちろん浪費はよくありませんが、悔いのない人生を生きるためには、ある程度お金を使っていろいろな体験を積むことも必要です。
消費するか貯蓄するかという二者択一は、今お金を使うか、それともお金を使う機会を先に送るかの選択とも言えます。
使いすぎも、使わなすぎも、現在のために使うべき分と将来にとっておく分のバランスがとれていないために起こる悲劇です。
よく「あの世にお金は持っていけない」と言います。たくさんお金を残したまま死んでしまったら、何のために節約してきたのかわかりません。あまりにも切り詰めていたら、「世の中にはこんな楽しみがある」ということを知らないまま死んでいくことになる。年をとって体の自由がきかなくなればできることも限られてきますから、必要以上にお金を持っていたって意味がない。「子どもが相続するからいい」と思うかもしれませんが、相続税でかなりの額を国に没収されてしまいます。もし身寄りがなければ、全額、国のものになります。
ところが日本の年代別金融資産残高の統計を見ると、五〇代、六〇代、七〇代と、年齢が高くなるにつれお金持ちになっていきます。「死ぬときが一番お金持ち」というのが現実なのです。
若者に限らず、日本人には心配性なところがあって、「お金を適切に使って、今を楽しみながら生活する」というよりは、「できる限りムダ遣いをせず将来に備えて倹約しよう」という考え方が根強い。結局そのことで安心どころか不幸になってしまうのです。
不安にはきちんと向き合うのが一番合理的
将来が不安になるのは、自分自身に原因があります。自分の経済的な現状をきちんと把握していないからです。不安がる前に、紙とペンと電卓を持って収入と支出を計算してみれば、案外やっていけるということに気づくはずです。
きちんと現実を把握できていないのは、自分のお金についてだけではありません。日本経済全体についてもそうです。最近は特に悲観論ばかりが目につきますが、そんなに日本はダメなのでしょうか。
たとえば日本経済が低迷しているのに円高になることがあります。「なぜ円高なのだろう」と不思議に思ったことはありませんか。マスコミは、「日本は経済成長率が鈍化して景気が悪いし、政治も三流だ」と言います。しかしそれでも円高であるとは、投資家が円を相対的に信頼できる通貨だと思って買っているということです。それは単純化すればこんな理屈です。
「アメリカもひどいし、ヨーロッパもひどいけれど、日本のほうがまし」
消去法ではありますが、日本はほかの先進国より悪くない。だから円が買われて円高になるのです。グローバルな経済の動きを知らないと、為替や株の動きを理解することはできません。
また日本政府は財政赤字を増やし続けていますが、それを助けているのは日本の個人の金融資産です。個人が持っている富の蓄積が円の相対的な信用につながっているのですが、それを意識している人はあまりいないようです。
個人金融資産は、戦後の経済成長の中で日本人が働いて稼いできたものです。しかしその巨額の資金が金利の低い国内に滞留し、日本人の多くは毎日の生活を悲観的に考えている。私から見ればなんだか滑稽な状態です。
将来を悲観して一円二円を節約することではなく、この低金利で滞留している金融資産の有効活用を考えることこそ、今日本人がすべきことなのです。
具体的な方法はこれから本書で説明していきますが、大切なことは、漠然とした不安を抱え込んだり、問題から目をそらして先送りにしたりすることではなく、不安の原因を直視し、具体的な解決法を考えることです。
「若いうちから、老後のお金を心配してもしょうがない」「そんな後ろ向きの発想はよくない」と、不安に思うことそれ自体を否定する人もいるでしょう。
しかし、現に今、不安を抱いている人に対しては、賢明な考え方とは思えません。「将来のことはわからないから、そのときになったら考えよう」と先送りするよりは、不安にきちんと向き合って、それを解消するための方策を考えるほうがはるかに合理的です。
将来への不安を解消できれば、今をより楽しく充実して過ごせるようになります。将来のために今を犠牲にするのでなく、将来の安心を確保することで、今の自由を手にする。本書で私が提案するのは、そのような、アクティブな老後の資産設計なのです。
60歳までに1億円つくる術 25歳ゼロ、30歳100万、40歳600万から始める
今やりたいことを犠牲にしなくても、「60歳で金融資産1億円」が自ずと可能になる。20代、30代にこそ始めてほしい、教養としての資産づくり入門。