前回の「お金持ちになるたった一つの方程式」をさらに噛み砕いて説明すると、「お金持ちになれる10のルール」が出てきます。お金の本質やその動かし方、社会のあり様、生き方までもが見えてくる、お金本のバイブル『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(橘玲著、幻冬舎文庫)から、引き続き、一部を抜粋してお届けします。各ルールの詳細と真意は、ぜひ本書をお手にとってお楽しみください。
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【ルール1】純利益の確保こそが重要である
お金持ちの方程式の第一項は「収入-支出」で、これが純利益として第二項の「資産」に加えられていきます。こうしたキャッシュ(現金)の流れを見るならば、資産運用よりも純利益の方が重要なのは明らかです。
どんなに素晴らしい資産運用をしていても、会社をリストラされて収入がなくなれば、投資の元本を取り崩して生活せざるを得なくなります。これでは、人生設計のゴールは遠のくばかりです。
安定した純利益が確保できていてこそ、資産形成のスタート台に立つことができるのです。(後略)
【ルール2】複利の資産運用では、わずかな利回りの違いが大きな差を生む
お金持ちの方程式の第二項は「資産×運用利回り」ですが、その意味するところは深遠です。
ひとつは、運用利回りが高ければ資産はそれだけ大きくなるということです。これは、誰でもわかるでしょう。
1000万円の元金を年利1%で10年間複利で運用しても1100万円にしかなりません。超低金利時代の0・001%で運用すれば、10年間で利息はなんと1000円です。それに対して、年利5%なら1600万円、10%なら2600万円になります。
資産は複利で増えていきますから、最初はほんのわずかな利回りの違いでも、最終的には大きな差になります。(後略)
【ルール3】十分な元金がなければ運用しても意味がない
お金持ちの方程式第二項のもうひとつの意味は、十分な資産(運用の元金)がなければ、運用しても大した効果は期待できないということです。
100万円を運用するのも、1億円を運用するのも、手間は大して変わりません。むしろ、1億円を運用する方が投資コストが下がり、有利になります。
資産運用で年に10%の利回りを得たとして、元金100万円の場合は10万円の利益が手に入ります(100万円×10%)。まったく同じコストで元金1億円を運用すれば、利益は1000万円です(1億円×10%)。このように、資産運用ではスケールメリットが重要になります。
では、元金の少ないうちは投資をすべきではないのでしょうか?
そんなことはありません。投資をしてもしなくても資産形成に大した違いはないとしても、それでもやはり、投資をするに値する理由があります。
ひとはいったんリタイアすれば、資産の運用益からキャッシュを手に入れるしかありません。(後略)
【ルール4】収入を増やす確実な方法は働き手を増やすこと
サラリーマンなら誰でもいちどくらい、給与明細を眺めながら、「もうすこし給料が多ければ」と溜め息をついたことがあるでしょう。資産形成においても、収入の与える影響は計り知れないものがあります。
もしあなたが結婚しているのなら、家計の収入を増やすもっとも確実な方法は、共働きにすることです。親子やきょうだいでも構いませんが、家族のなかの労働人口を増やせば、人数に比例して家計の収入は増えていきます。
子どものいるサラリーマン家庭では、どんなに頑張っても毎年100万円を積立てるのが精一杯ではないかと思います。この資金を年3%で運用すれば、10年で1150万円になります。
ところが、妻が仕事を始めて年300万円積立てることができれば、資産は10年で3400万円に増えます。
どちらかが出世して年に500万円積立てることができるようになれば、10年で6000万円の資産ができますから、これでほぼ経済的独立を達成することができます。(後略)
【ルール5】他人への投資と自分への投資を天秤にかけよう
一般に投資というのは、自分の資産を株式や債券など、金融商品の購入に充てることです。なぜこんなことをするかというと、投資した先の会社の経営者や労働者が、あなたにかわって稼いでくれることを期待するからです。これを「お金に働いてもらう」といい、首尾よく利益が出ればこんなウマい話はありませんが、失敗しても文句はいえません。
それに対して、「最大の資産は自分自身の能力だ」という考え方があります。
あなたが仮に、1年間働いて500万円の収入を得るとします。市中金利を1%として、資産運用で500万円の利益を得るには5億円の元本が必要です。あなたの能力を一種の株式と考えれば、その価値は5億円ということになります(500万円1%)。
この巨額の“資産(人的資本)”からすれば、あなたが持っている数百万円の金融資産など、問題にもなりません。あなたがいますべきことは、5億円の人的資本を、10億円、20億円へと増やしていくことです。これを、経済学の用語で「人的資本への投資」といいます。(後略)
【ルール6】サラリーマンが金持ちになる方法は3つある
サラリーマンが金持ちになるのが難しい最大の理由は、税・社会保険料コストが大きいためです。年収1000万円のサラリーマンだと、実質税負担は250万円にもなります。こんな大金を毎年国に払っていたのでは、金持ちになれるわけがありません。こうした事情はアメリカでも同じで、だからこそ『金持ち父さん貧乏父さん』の著者ロバート・キヨサキは、「サラリーマンは金持ちになれない」といったのです。
それでも、サラリーマンが資産家になる方法がないわけではありません。
ひとつは年収を上げることで、これが王道です。
日本では一部上場企業の社長クラスでも年収3000万~4000万円程度ですから厳しい道のりですが、仮に夢の年収3000万円を達成したとしましょう。この場合の実質税負担率は40%程度なので、約1200万円を国に納めることになりますが、それでも1800万円の可処分所得が残ります。これを10年続けられれば、1億円の資産をつくることは十分に可能でしょう(そのかわり、国に納める税金の総額も1億円を超えてしまいます)。
もうひとつは、ベンチャー企業に就職して、自社株を購入したり、ストックオプションを取得することです。見事、その会社が上場に成功し、株価が大きく上がれば、億万長者になることも夢ではありません。
ただし、ベンチャー企業が億万長者になる機会を社員に与えるのは、それ以外に社員を惹きつける魅力がないからだということは知っておく必要があります。創業したばかりの会社は、社員に給料を払う前に、設備投資や研究開発費に多額の資金を投入しなくてはなりません。そのためには、数少ない社員に低賃金で長時間労働を強いることになります。そのうえ、事業が成功する保証はありませんから、会社が倒産してしまえばそれで終わりです。
大手企業と比べてはるかに見劣りするこうした条件でも優秀な人材を確保するために考えつかれた魔法の杖がストックオプションで、要は宝くじの一種です。ただし、いまは懐かしいインターネットバブルの頃に若き億万長者を輩出したこの宝くじも、ほとんどが紙屑になってしまいました。
サラリーマンが金持ちになる3つめの方法は、かつては日本でも広く行なわれていました。それは、仕事を発注した業者からキックバックを受け取ることです。
芸能界では、仕事をもらったプロダクションは、テレビ局などの発注担当者に現金で謝礼を払うことが慣習化していました。5000万円の仕事を発注すれば、5%のキックバックで250万円が懐に転がり込んできます。キックバックが慣例となっている業界は、建設業から広告・メディア業界まで多岐にわたります。
大手企業は、社員が取引業者からキックバックを受け取っていることがわかっても、体面を考えて表沙汰にはしませんでした。最悪、依願退職になっても、退職金は満額もらえます。たいていは、社長を含め経営陣にも身に覚えがあり、そのうえ大きな発注権限を持つ社員は仕事もできるので、見て見ぬ振りをするほかなかったのです。このような業界では、違法行為を承知で業者からキックバックをもらうのが経済合理的な行動でした。
しかしその後、日本でもコンプライアンス(法令遵守)が徹底されるようになり、一部のグレイな業界を除けばこうした悪しき慣習はほぼ消滅しました。とはいえ、中国や東南アジア、アフリカ、中南米など世界の多くの国では、汚職や賄賂はいまだにもっとも確実な「金持ちへの近道」です。
【ルール7】確実に金持ちになる方法は支出を減らすこと
誰もがキャリアを積んで、年収1000万円を超えるエリートサラリーマンになれるわけではありません。「自分に投資する」とよくいわれますが、その投資の大半は無駄になっているという現実もあります。サラリーマンとして出世したり、ビジネスを立ち上げて成功したり、そういう理想像だけを追い求めても成功の果実を手にできるひとは限られています。
では、人的資本に投資しても思うような成果を挙げられない私たち凡人は、どうすればいいのでしょうか?
実は、ここにもちゃんと解決策があります。それは、支出を減らすことです。
当たり前のことですが、誰もが確実に資産運用に成功する方法があるはずはありません。さらには、必死になって努力したとしても、100人が100人とも出世レースに勝ち残ったり、ビジネスで成功できるわけでもありません。しかし、支出を減らすことは誰にでもできますし、それによって確実に家計の純利益は増大し、資産は大きくなっていきます。(後略)
【ルール8】家計のリストラは住宅コストと生命保険から
お金持ちの方程式の第一項は家計の純利益を表わしています。これが赤字になっている場合は、なによりもまず、不要な経費を大胆にカットして、十分な利益を生み出すことができるまでリストラに励まなくてはなりません。企業でも家庭でも、やるべきことは同じです。
ただし、月1万円の小遣いを5000円に減額しても、晩酌のビールを小瓶に替えても、純利益への貢献はたかが知れています。リストラは効果的に行なわなくては、家のなかが暗くなるだけです。
日本企業の最大のコストは人件費です。日本は世界でもっとも人件費の高い国なので、社員数を減らせば人件費が圧縮され、利益は一気に拡大します。だからこそ、追い詰められた企業は人減らしに必死になります。
同様に、日本の家計の場合、最大のコストは住居費です。親と同居していたり、安い社宅を利用していたり、ローンを払い終わった家に住んでいる場合は別ですが、たいていの人は、年収の20~25%を住宅ローンの支払いや家賃に充てています。年収500万円のサラリーマンの平均的な住居費は年100万~120万円程度でしょうから、これを減額することができればキャッシュフローは劇的に改善します。(後略)
【ルール9】投資のコストに気づかないひとは金持ちになれない
株式売買にも不動産の購入にも、証券会社や不動産業者など、ブローカーに支払う手数料が必要になります。これは投資のコストですから、安ければ安いに越したことはありません。べつに証券会社に高い手数料を払ったからといって、買った株が上がるわけではありません。同じ銘柄の株なら、コストの安いところで買った方が有利に決まっています。
株式投資は、手数料率の低いネット証券を使うべきです。大手証券の営業マンに発注するのなら、IPO(新規公開)株を優先的に割り当ててくれるなど、何らかのメリットがなければ意味はありません。(後略)
【ルール10】最速の資産形成法は税金を払わないことである
最後に、もっとも早く確実に金持ちになる方法をお教えしましょう。誰もあからさまにいわないものの、たいていの人が知っていることですが、それは自営業者(あるいは中小企業の経営者)になって、所得に対して税金を払わないことです。
サラリーマンの場合、仮に1000万円の収入があっても、税・社会保険料を引かれた手取りは700万円程度です。それに対して自営業者の場合、同じ1000万円の収入があれば、国民年金と健康保険に若干の支払いをしたとしても、合法的にほぼ全額を可処分所得にすることが可能です。仮に生活費を400万円とすれば、サラリーマンの貯蓄額は300万円、自営業者は600万円です。(後略)
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