2022年カタールW杯でベスト16を果たしたサッカー日本代表。その支柱として活躍した長友佑都氏の著書『[メンタルモンスター]になる。』は、日本サッカー史上初めてとなる4大会連続でのW杯出場など数々の偉業達成してきた長友氏が激動のサッカー人生を振り返る、集大成の一冊です。一部を抜粋してお届けします。
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ワールドカップが「人生を変える」と思える理由
こうやって僕が感じる幸せを、人生を変えるような経験を多くの人にも感じてもらいたい。
それは偽らざる僕の本心だ。でも、あまりにそれを熱弁するものだから、(堂安)律や(久保)建英といった若い選手たちには「佑都くん、ピュアすぎます」とイジられる。
お前たちもピュアであれよ! と思うけど、彼らにもいずれわかるときが来るはずだ。本当に「人生が変わる」と感じる瞬間があることが。
ただ、FIFAワールドカップを経験できるのはサッカー選手だけだ。例えばこの本を手に取ってくれたみなさんに、ワールドカップを目指せば成長できるし、幸せですよ、と言ってもピンとこないかもしれない。
だから多くの人には、僕にとってのワールドカップのような存在を、それぞれの人生の中で見つけてもらいたい。
じゃあ、それってどんなものなのか。僕がワールドカップを「人生を変える」ほどのものだと思える理由は、主に3つある。
ひとつ目は、当たり前ではあるけれど、世界中から注目を浴びる大会であること。
ヨーロッパでプレーをしているとよくわかるけれど、ワールドカップは別格の存在だ。それくらい、ヨーロッパでプレーする選手やスタッフ、サポーター……誰もが楽しみにしていることを肌で感じた。
インテル時代、チームメイトだったコロンビア代表のグアリンが、日本と同組になったことを知って、僕にこう言ってきた。
「8点取るから」
彼とは「相撲」を模したゴールパフォーマンスを一緒にするなど、本当にいい仲だったけど、その冗談の中に本気が混じっていた。チームメイトでも負けないよ、という選手たちがかける思いがそこにある。
実際、その視聴者数はオリンピックをしのぐと言われている。ロシア大会の決勝は、世界で11億2000万人が視聴したそうだ。あまりにすごすぎて、ピンとこない数字だけど、多くの人に注目される偉大な大会であることは、僕を惹きつけてやまない理由のひとつだ。
もうひとつがそのプレッシャーが想像できること。
そんなものを感じて何が楽しいのか、と言われそうだけれど、実際、「楽」なものではない。苦しみやつらさが伴う経験になる。ただ、それを乗り越えた先にある自分は、まったく違う姿をしているだろう、というワクワクが勝る。
三つ目が、その大きな大会で僕が輝けば、多くの仲間に恩返しができること。
仲間とは、自分が苦しいときに支えてくれた存在だ。これまでの僕を支えてきてくれた人たち、家族はもちろん、トレーナーや所属チームのスタッフ、友人、仕事仲間。
僕がいいプレーをすることで、その仲間たちにスポットライトが当たる。いや、僕が輝くことができれば「当てる」ことができる。そして、仲間が喜んでくれる姿を見るときほど、幸せを感じる瞬間はない。
「仲間」の幸せは、自分の喜びや達成感に勝る最大の僕の幸せなのだ。
注目されること、プレッシャーがあること、そしてそこで自身が活躍することで人に光を当てられること。この三つが揃っていたのが、「ワールドカップ」で、僕の「人生を変える経験」となった。
それぞれをもう少し詳しく紹介してみたい。
1 注目される 、人の目にさらされること
ワールドカップのような世界中が注目するイベントはそうそうない。もちろん、そういった大舞台であったことが僕の「人生を変えた」ことに大きく寄与したことに間違いはないが、それよりも需要だったのは、多様な批評だった。
成長を期待するとき、もっとも危険な状態は「無関心」だと思っている。
誰の目にも触れず、誰も興味を示さない。
それがその行動の価値判断にはならないが、成長のスピードはどうしても遅くなってしまう。一番わかりやすいのが、「立場」だ。
サッカーに限らず、どんな仕事でもチームでもベテランになればなるほど、周囲はその人に対して「ものを言わなくなる」。
それまで、多くのことを吸収して得た「立場」であったはずなのに、周囲が何を考えているのか、どう思っているのかということを知れなくなることは、過信や疑心暗鬼を生む。
いま僕はFC東京でプレーをしているけど、僕に対してぎらぎらと熱い思いを持って、要求をしてくる――また、何かを聞いてくるという点でも ―― 選手がいる。森重真人や松木玖生……。ベテラン、若手を問わず「もっとこうしてほしい」と主張してくることもあれば、海外でプレーするときのメンタリティや提示されるものなどを尋ねてくることもある。僕はもっとそれが増えてほしい。FC東京にとっての悲願であるリーグ優勝を果たすためにも、そういう姿勢は絶対に欠かせない。
かつては、中村俊輔さん、遠藤保仁さんといった日本を代表する選手に多くのことを教えてもらい、同世代でも圭佑や真司、岡崎(慎司)らとは、「もっとこうしてくれ」「ああしてくれ」と言い合った。
海外でプレーしているときはなおさらだ。ハビエル・サネッティをはじめとした世界的な選手たちから薫陶を受けただけでなく、サポーターからの賞賛と容赦ない批判と隣り合わせでもあった。いいことも悪いことも、すべてが僕のガソリンとなっていた。
そこにあったのは僕への「目」だ。
ここがいいぞ、もっとこうしろ……そういう関心を示してもらえたことが、次へのステップになり、成長の土台となっていった。
ワールドカップはその中でももっとも大きな「関心」、つまり「目」に囲まれていて、その目の数だけ、僕へ批評があったわけだ。
独力で成長を遂げるのはとても難しい。
ひとり黙々と努力ができる人間もいるだろう。
だけど、そのときほかの人をシャットアウトしていては、正しい道を進めているか、自分で判断がつかない。またそのスピードもどうしても遅くなってしまう。
「批判はガソリン」とは、カタールワールドカップを目指す中で僕に向けられた多くの「批判」に対して話したことだけど、これは「無関心が一番怖い」とも言い換えられるのだ。
少なくてもいいから「人の目」にさらされること。
もし人生を変える成長を遂げたければ、ぜひそういう環境に自分を置いてほしい。
[メンタルモンスター]になる。
日本史上初めて、4大会連続W杯出場を果たした著者が激動のサッカー人生を振り返る、集大成! 『[メンタルモンスター]になる。』の情報をお届けします。