
「理系に女性が少ない」のを、当たり前のように思っていませんか? じつは大学・大学院における理系女性の割合は、OECD加盟国で日本が最下位。「理系に女性が少ない」のは、日本特有の現象だったのです。そこには一体、どのような要因が働いているのか……。著書『なぜ理系に女性が少ないのか』を上梓した、東京大学教授の横山広美さんにうかがいました。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】横山広美と語る「『なぜ理系に女性が少ないのか』から学ぶジェンダー意識」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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理系に女性が少ない4つの要因
── 「理系に女性が少ない」のを当たり前のように考える人は多いと思うのですが、世界的に見ると特殊な状況だそうですね。

はい、日本は世界の中できわめて理系女性が少ない国です。OECD(経済協力開発機構)加盟国の中では最低で、崖っぷちどころか、すでに崖から落ちているような状況です。
理系といっても医学部、農学部、工学部など、いろんな学部がありますが、たとえば理学部で女性が少ないのが数学と物理学です。物理学科の場合、学生の女性率は17パーセントくらい。数学科も20パーセントを切っています。
私が在籍している東京大学のカブリIPMU(数物連携宇宙研究機構)には、世界中から優秀な研究者が集まってきます。もちろん、女性の研究者もたくさんいます。そんな彼らが日本に来ると、「なぜ日本の研究所は、こんなに女性が少ないの?」とみんな驚きます。
ところが、そんな世界から驚かれるような状況であることに、私たち日本人は気づいていません。この状況をなんとかしなくてはいけません。
── そもそも日本は、女性の大学進学率も低いとうかがいました。
研究集会などでいろんな国の大学に行きましたが、どこのキャンパスを歩いても男性より女性のほうが多いんです。先進国の多くはそれが普通で、かえって男性が少ないことが問題になっています。
ところが、日本の大学進学率は、女性のほうが少ない。これは世界と比較して、きわめて珍しい状況なんです。つまり、日本の社会になんらかの問題があると考えざるを得ません。
── 日本には、「数学と物理学は男性的」というイメージが存在します。このイメージはどう形成されたのでしょうか?
研究を進めるうえで、一番参考にさせていただいたのは、米国の社会心理学者・チェリアン先生の論文です。そこでは3つの要因が挙げられています。
1つめは、「男性的カルチャーの存在」。この分野は男性が担うものというステレオタイプや、女性の能力に対してのネガティブなイメージ、あるいは女性のロールモデルが少ないことが関係しています。
2つめは、「幼少時の経験」。女の子は小さいころ、数学や物理学を学ぶ機会が少ない傾向があり、それが成長してからの進路にも影響します。
3つめは、「自己効力感の男女差」。女の子のほうが慎重で、自信を持ちにくい傾向があり、自分は理系の勉強ができないと思ってしまいがちです。
さらに私は、科学技術社会論の立場から、「社会風土の影響」という4つめの要因を加える必要があると考えました。日本の社会全体がつくり出している、「優秀さは男性のものであり、女性には不要である」という風土です。
「数学ステレオタイプ」がまん延している
── 4つの要因の中で、どれが一番影響を与えていたのでしょうか?

1つめの、「男性的カルチャーの存在」が大きいことがわかりました。大学で数学や物理学を勉強しても、その先にある就職が男性的な世界で入りにくい、入ってもなじめないというイメージが強い。それが、数学や物理学の男性イメージに結びついているようです。
また、非常に大事なのが「数学ステレオタイプ」というものです。「数学は男子のほうができる」という思い込みは多くの人が受け入れてしまっているようですが、それが私たちの行動に強く影響しています。
「数学ステレオタイプ」は、なんと5~6歳くらいで形成されてしまうそうです。しかし私は、男子だろうが、女子だろうが、算数はちゃんとやればできると思っています。「数学ステレオタイプ」は絶対に打ち消さなければいけない、とても重要な課題だと思っています。
── 大人が積極的に「そんなことはないんだよ」と言っていかないと、偏見が染みついてしまうということですね。
おっしゃる通りです。偏見がまん延している中で育ち、誰も是正してくれる人がいなかったら、そうなるのも当然でしょう。社会全体で改善しなくてはいけない問題だと思います。
比較調査のため、イングランドでもデータを取ったのですが、日本と比べて「数学ステレオタイプ」がかなり弱いんです。とくに女性が「そんなことはない」と強く否定するという結果が得られました。
ところが日本は、男性も女性も「(数学は男子のほうができるという事実は)あるかもしれない」「あるかないかわからない」という中途半端な答えが多く、全体として「数学ステレオタイプ」が強いという結果が出ています。
大人の意識を改善すると同時に、子どもたちに教育をしていく。この2つが、きわめて重要であると考えています。
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