年金の減額、医療費の自己負担増など、2022年、後期高齢者の方々にとっての大きな制度変更が静かに行われました。物価の上昇も止まらない中、もし病気になったら、どのように医療費をやりくりすればよいのか。50年以上、内科医として診療を続けてきた人気病院長・志賀貢さんの『病院にかかるお金がありません!』より、今知っておいたほうがよい病気に関するお金の知識をお届けします。
これから後期高齢者の仲間入りをする皆さんは、医療制度の現実や刻々と変わっていく経済情勢に関して、しっかりとアンテナを張っていかなければなりません。
75歳を迎えた人たちの前に大きく立ちはだかる災難の壁について、十分に理解しておくべきだと思います。
それが、これからの長い老後の人生を生き抜くための知恵になるに違いありません。
(1)令和4年4月から年金が0.4%減額
年金の支給率が、令和4年4月より年率0・4%引き下げられました。
もっとも、年金で苦慮しているのはわが国だけではないようです。イギリスでは受給開始年齢を、今の66歳から、2026~28年にかけて67歳に引き上げます。
先進国はどこも超高齢化社会で、年金の支払いに苦慮しているようです。
いずれにしても、年金の引き下げは生活や医療費の支払いに直接響くので、不安が広がりそうです。
(2)令和4年10月より医療費の自己負担2割に増額
外来、入院ともに増額されますが、外来はすべての患者さんに対してかなりの負担増が予想されるため、特例措置が設けられることになりました。
しかし、外来受診で、1割から2割になった人に負担が重くのしかかることを考慮して、10月1日から向こう3年間、医療費の支払いを減額することに決まりました。
今までの支払いより金額がオーバーする場合には、3000円を限度として、それ以上は窓口で徴収しないことになったのです。
ただし、この減額措置は外来に対してだけであって、入院は対象外と明記されていますから、気を付けなければなりません。
なお、入院の場合の自己負担については、記事のラストで詳しく述べることにします。
(3)長引くコロナ感染症治癒後の後遺症
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ感染症またはコロナと略)にかかると、その治癒後も後遺症で苦しむ人が多く、1年以上続く場合もあります。
特に高齢者の場合は、余病が出やすく治療が長引いているのが現実です。
(4)ジェネリックが品不足で患者の負担増
2年ほど前から安価な後発医薬品(ジェネリック)が品不足になり、今年に入ってから使用量の3分の1まで出荷調整などで医療機関に渡りません。
低所得者は安い薬の処方を受けられず、相当の医療費を払わなければならない状態に陥ってきました。
(5)物価上昇が年金生活者の医療費を容赦なく圧迫
経済のインフレ状態が続き、食料、ガソリン代、その他の生活必需品が軒並み値上げになり、年金生活者の懐を直撃。病気がちな高齢者にとって、医療費の支払いにも困難をきたす人が増え始めています。
自己負担2割になっても入院治療は受けられるだろうか
現在、75歳以上の、いわゆる後期高齢者の保険加入者は1815万人います。
このうち、年収が200万円以上、または夫婦で320万円以上のいずれかに該当する人が、自己負担2割の対象者になります。
その数は370万人います。これは後期高齢者の約20%にあたります。
このうち、入院治療を受けている人が25%います。その方々の、入院時の医療費の支払い状況は次の通りです。
(1)6%は、2割負担となっても負担増加がない人
(2)4%は、すべての受診月で負担額が2倍となる人
(3)15%は、(2)以外で、負担増となる月がある人
と、3つに分けた上で、10月1日から入院の場合の自己負担が2割に確実に増える人は、(2)の人で370万人の4%、つまり14万8000人です。
もう一度繰り返しますが、この4%の方々が確実に自己負担2割になります。
4%の人々の1ヵ月の医療費は2万8800円以下です
医療費に関しては、ほとんどの後期高齢者は1ヵ月2万8800円以上、5万7600円を上限とする自己負担金を払っています。
しかし、前項の4%の14万8000人の方々は、5万7600円の半分の2万8800円以下という低額の自己負担金で入院しています。
この患者の、自己負担を1割から2割にすることに決まりました。
以上の2項目は、厚労省が示している改定の骨子を元に解説しました。
これに関しては、医療機関の入退院相談員のケースワーカーたちから、いろいろな疑問が出ています。
医療の現場を預かる者としては、当然の不安材料だと思いますので、列挙しておきます。
1. 医療費自己負担2割に決まった人については、当局が200万円以上の年収がありながら低額の2万8800円以下しか払っていない点を是正しようとしていることは明らかです。
しかし、入院患者はオムツ代、アメニティ代、差額室料などと違って、自分の意思で病院側と交渉して医療費を決められるわけではありません。
したがって、その金額が低額であるか高額であるかは、医療行為によって決まることになります。
患者の意向は、ほとんど反映されません。
つまり、患者自身が意図的に安く医療費を払っているわけではないのです。
2. 医療の現場では、ひと月2万8800円の医療費でさえ、支払い困難な後期高齢者が増えているのが実情です。
年収200万円といいますが、ひと月にすると約16.6万円です。
まえがきで述べたとおり、現在の男性の厚生年金受給額は月額平均約16.4万円、女性は約10.3万円、また、国民年金は約5.6万円です。
したがって、年収200万円は厚生年金の年間受給額とほぼ同じです。
この、16.4万円を老後の資金にしている人が大半ですから、もし入院するような状況が発生した時には、入院費を払うことが非常に困難になります。
それが自己負担2割になると、入院費は一挙に1割の時の倍額になりますから、ますます、支払いが困難になってきます。
かといって、急病の時、入院もせず自宅療養することにも限界があります。
とくにコロナ感染の場合には、その自宅待機が、しばしば死の待合室になることも少なくありません。
3. 2万8800円以下の医療費で入院している人は、どうなるだろうか。
自己負担1割の時でも、低額の医療費で入院している人が決して少なくないのです。
この方々が、2割負担になり医療費が2倍近くになった場合、入院を継続することは、金銭的に無理になるのは明らかです。
そうした場合、入院中の患者は退院をせざるを得なくなるのではないか、という不安が起こってきます。
その対応に、事務方のケースワーカーや病棟のスタッフが患者と共に、四苦八苦することは目に見えています。そうした混乱を避けるために、10月1日以降、早急に行政側の対応が必要になると思います。
4. 将来、75歳以上が全員2割になった時の入院費の不安
将来、後期高齢者全員の医療費が2割負担になった場合、入院費はいくらかかるでしょうか。
入院には医療費のほかに、食費やオムツなどのアメニティ代金や差額室料がかかります。列挙すると、
*医療費 1ヵ月 5万7600円
*食費 1ヵ月 4万1400円
*オムツ代・アメニティ代 約3万円
*差額室料 6人部屋で0円と算定
合計 12万9000円
これが、入院費自己負担2割になった場合の最低ラインです。
もし差額室料が加算されると20万円近くになります。万が一病気になった時のことを考え、闘病資金の貯えがこれからますます必要になりそうです。
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