年末年始は、家族集まっての楽しい団らんの機会が多くなる一方で、高齢者の救急搬送の件数も多くなります。「いざ」という時、大切な家族に何ができるのか。医学博士・志賀貢さんの『病院にかかるお金がありません!』から心に留めておくべき知識をお届けします。
「迷わずに救急車を呼ぶ」べき高齢者の状態
高齢者の急病は、時間を争います。そんな時は、昔、育てた赤ん坊のことを思い出してください。真夜中に、突然火のついたように泣き出すと、若い母親は、ただオロオロするばかりだったはずです。しかし、手当てをしない限り、赤ん坊は泣きじゃくり続けます。
それと同じで、病は、大至急、適切な手当てをしない限り、命が脅かされます。
例えば、熱が40度もある場合。倒れたまま意識が朦朧としている場合。吐血して苦しんでいる時。あるいは、腹痛を訴えて七転八倒している時など。
高齢者が、そんな状態に陥っている時は、まず迷わずに救急車を呼ぶ。
駆けつけた救急車で、もし運よく急病に対応できる病院に運ばれた場合には、一刻を争うような病気でも助かる確率はグーンと高くなります。
最近、やたらに多くなってきた脳梗塞で倒れた場合には、超急性期の血栓溶解療法に威力を発揮する注射液のtPAは発症4時間30分以内に打つと劇的に効くことが多いのです。
また、ひと昔前までは、不可能に近かった心筋梗塞への対応も、早いうちであれば血管を拡張するステントの挿入や、あるいは緊急のバイパス手術などで一命を取り留めることもできます。
ここまで進んできた医療技術に頼らないという手はありません。
お金の心配などは後回しにして、とにかく病院をめざすことです。そして手当てを急ぐことです。
首都圏では、午後8時以降になると、手当てをする救急病院を見つけることが難しくなります。
例えば、医者自身が心臓発作を起こした時、駆けつけた救急隊が、搬送先を見つけられずに戸惑っていて、たまりかねた妻が人工呼吸や心臓マッサージで夫の命を救った、という例もあります。
そうした時には、病院探しのために、知人、友人に連絡を取り、総力を挙げて病院の情報を集めるべきです。
救命のイロハを家族全員が身につけておく
同居している高齢者は、いつ急病で倒れるかわかりません。
一家に一台いざという時のために、心臓にショックを与えて除細動を行うAED(自動体外式除細動器)や、誤嚥した場合に喉の吸引を行う吸引器などを用意しておけば、安心して高齢者と同居できるかもしれません。
しかし、高価で、素人では操作が難しい器具を、一家に一台用意することはとても無理です。
急場をしのぎ、救急車が駆けつけてくれるまでの間、倒れた家族の命を救うために愛の手がなにより必要です。
そして、器具に頼らず献身的に、命の消えようとしている状態から回復させる努力だけはしなければなりません。
普段から救急処置の知識を養え
ある三世代同居の家で、82歳になる祖父が突然意識を失い倒れました。その時、同居していた大学生の孫娘の処置は、医者も舌を巻くほど見事なものでした。
彼女はすでに自発呼吸が無いことを確かめると、いきなり祖父の上に馬乗りになり、心臓マッサージを始めました。取り囲んでいる家族は、ただオロオロするばかりで救急車の手配をするのが精いっぱいという混乱ぶりでした。
孫娘は胸部に手を当て、一心不乱に心臓の辺りを強く押し続けました。
その数分後でした。祖父は、大きく一つ息を吸うと意識を回復しました。
救急車が到着するまでの約7分間、彼女の咄嗟の救命処置が祖父の命を救ったのです。まさに、孫娘の祖父を思う愛の手が、高価なAEDに負けない素晴らしい効果を上げた一例です。
家庭での救急処置は、みんなで日頃から話し合っておきましょう。
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