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突き抜けろ

2023.01.23 公開 ポスト

日本が変わるための「危機感」とは 楽天・三木谷浩史が考えるアントレプレナーシップ上阪徹/三木谷浩史

2022年に創業25周年を迎えた、楽天。四半世紀前、たった6人で始まったベンチャーは、今や日本を代表する企業にまで成長しました。そんな楽天と、グループを率いる三木谷浩史氏の25年間に迫った、同氏監修の最新刊『突き抜けろ』は、発売直後にブックファースト新宿店のビジネス部門で1位を獲得するなど、話題となっています。前回、前々回に引きつづき、本書に収録されている三木谷氏のロングインタビューから、一部をご紹介します。(聞き手は上阪徹)

*   *   *

いまの日本に足りないものは「アニマルスピリッツ」

──楽天が誕生してからの25年の間、日本は「失われた30年」の真っ只中にいました。日本は何が足りないのでしょうか?

三木谷 やっぱりアニマルスピリッツのようなものを、もう一度、呼び起こすしかないと思っています。豊かになって、島国で、なんとなく「現状より悪くならないならいいや」という空気に、あまり疑問を抱かないような脈々とした仕組みが日本の中にあるんだと思うんです。

(写真:iStock.com/metamorworks)

明治維新、戦後と日本の近代史では大きな転換期があり、世界に追いつくという目標があった。でも、ジェネレーションも変わり、今や目標がない。

著しい成長を遂げてきた中国には、明確な目標がありますよね。だから強い。アメリカはそもそもアントレプレナーシップという、国を強くさせるような仕組みがある。でも、日本人は目標を失っています

しかも、未来予測をしっかりして危機感を得る、ということもない。実際、統計を見ても、本当に危機的状況なんです。子どもの数がこれだけ減ったら、経済が縮小するのは当然です。デジタルトランスフォーメーションといっても、エンジニアの数が圧倒的に足りない。

 

政治家のプロパガンダに流されて、なんとなく自分はいい状況にあると思っているけれど、国際的に見るとどんどん遅れている。しかも、今も国民はお上がなんとかしてくれると思っている。だから、盲目的に言うことに従ってしまう。

「金儲けは悪だ」という感覚もそう。士農工商という身分制度もそうでしたけど、封建主義時代に作られた醜い商業の空気が今も続いている。

それを打破したのが、渋沢栄一であったり、岩崎弥太郎であったり、財閥であったり。戦後であれば、松下幸之助や盛田昭夫や豊田喜一郎だったわけです。それがだんだん官僚化して、アントレプレナーシップが生まれなくなってしまった。

日本のモデルのライフサイクルは終わりつつあるということです。

世界の人が憧れる国になってほしい

だから、ニュージェネレーションが出てこないといけないんです。必要なのは、ビジョンやミッションがあって、それを達成するために事業や仕事がある、という発想です。給料をもらって、言われたことをただこなすのではなく、日本を豊かにするんだ、元気にするんだ、という夢を持って仕事をすることです。

(写真:iStock.com/Derek Brumby)

アントレプレナーという言葉を、僕は起業家ではなく、実業家と訳しています。スタートアップをやる人でなくても、本当の意味での実業を行っている人は実業家です。実業の定義は、ちゃんとしたビジネスであること。そして当事者意識を持ち、古い制度に対する挑戦者、破壊者になることです。

イノベーション理論を提唱した経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、ビジネスによってしか世の中は変わらない、という話をしていました。国はプラットフォームでしかない。ビジネスを作り、豊かさを作っていくのは、国民なんです。そこに気づかないといけない。

 

なんとなく「オレたちはこのままでいいんじゃないか」「この心地よいメンバーだけでやっていこうぜ」という空気が日本にはある。それは、マスメディアもソーシャルメディアも増幅しているところがあるかもしれません。

しかし、周囲が成長し、変化しているのに、自分たちが止まっているということは、後退しているということに他ならないわけです。

物事をより高い視座からとらえないといけない。そのために必要なことは、国際的な視点です。明治維新後に福澤諭吉たちが欧米視察に行ったように、あるいは遣隋使や遣唐使のように、世界を見に行ったほうがいいですね。日本が変わるために。

 

量子コンピューティングやブロックチェーン、ゼロキャッシュ……。とんでもないイノベーションが生まれ、今は世の中の再定義が行われようとしているんです。ここで、じっとしていてはいけない。

僕はやっぱり日本には、世界で輝いて、世界の人が憧れる国になってほしいんですよ。

関連書籍

三木谷浩史『突き抜けろ 三木谷浩史と楽天、25年の軌跡』

常識に挑む 実業家の素顔 関係者らが明かす、創業四半世紀 1997年にたった6人で創業した、ベンチャー企業、楽天。創業当時、ネットでモノは売れないと揶揄され、楽天市場の初月の売上げはたった数万円。しかし、25年経った現在、そのベンチャー企業はショッピングのみならず、ネット上で国内屈指の銀行、証券会社を有し、クレジットカード発行枚数はダントツ日本一、売上高1.7兆円の巨大経済圏を形成する、メガ企業に成長した。本書では、楽天の成長を紐解くために、創業者、三木谷をはじめ幹部ら15人超にインタビューを敢行。挑戦と挫折の歴史から、社運をかけて乗り込んだ、携帯電話事業の全貌に至るまで、唯一無二の壮大な物語が完成した。 【章立て】 はじめに 第1章:聖域を作るな ・「やる気がないなら、来るな」 ・市場の出店者がゼロになってもいい ・・・ 第2章:旗を立てよ ・「オレが営業本部長をやる」 ・グーグル並みのポテンシャル ・・・ 第3章:地べたを這いつくばれ ・社名はみんなで考えてほしい ・倒産寸前の状況 ・・・ 第4章:世界の鏡を見よ ・英語化の大きな効果 ・イニエスタを連れて帰る ・・・ 第5章:クレイジーであれ ・遅れに遅れた基地局設置 ・申込みが殺到、処理システムはパンク ・・・ 三木谷浩史ロングインタビュー

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2022年に創業25周年を迎えた、楽天。四半世紀前、たった6人で始まったベンチャーは、今や日本を代表する企業にまで成長しました。そんな楽天と、グループを率いる三木谷浩史氏の25年間に迫った、同氏監修の最新刊『突き抜けろ』は、発売直後にブックファースト新宿店のビジネス総合ランキングで1位を獲得するなど、話題となっています。

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上阪徹

1966年兵庫県豊岡市生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て94年よりフリーランスとして独立。雑誌や書籍、ウェブメディアなどの執筆やインタビューを手がける。著者に代わって本を書くブックライターとして、担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット』(三笠書房)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『マイクロソフト 再始動する最強企業』(ダイヤモンド社)など。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

三木谷浩史

1965年兵庫県神戸市生まれ。88年一橋大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。93年ハーバード大学にてMBAを取得。興銀を退職後、97年2月エム・ディー・エム(現楽天グループ株式会社)を設立。同年5月インターネットショッピングモール「楽天市場」を開設。その後、トラベルや証券、銀行、プロ野球、携帯キャリア事業等へと業容を拡大。現在、楽天グループ株式会社代表取締役会長兼社長。また、東京フィルハーモニー交響楽団理事長、一般社団法人新経済連盟理事、楽天メディカル社の副社長兼Co-CEOも務める。

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