2022年に創業25周年を迎えた、楽天。四半世紀前、たった6人で始まったベンチャーは、今や日本を代表する企業にまで成長しました。そんな楽天と、グループを率いる三木谷浩史氏の25年間に迫った、同氏監修の最新刊『突き抜けろ』は、発売直後にブックファースト新宿店のビジネス部門で1位を獲得するなど、話題となっています。前回、前々回に引きつづき、本書に収録されている三木谷氏のロングインタビューから、一部をご紹介します。(聞き手は上阪徹)
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いまの日本に足りないものは「アニマルスピリッツ」
──楽天が誕生してからの25年の間、日本は「失われた30年」の真っ只中にいました。日本は何が足りないのでしょうか?
三木谷 やっぱりアニマルスピリッツのようなものを、もう一度、呼び起こすしかないと思っています。豊かになって、島国で、なんとなく「現状より悪くならないならいいや」という空気に、あまり疑問を抱かないような脈々とした仕組みが日本の中にあるんだと思うんです。
明治維新、戦後と日本の近代史では大きな転換期があり、世界に追いつくという目標があった。でも、ジェネレーションも変わり、今や目標がない。
著しい成長を遂げてきた中国には、明確な目標がありますよね。だから強い。アメリカはそもそもアントレプレナーシップという、国を強くさせるような仕組みがある。でも、日本人は目標を失っています。
しかも、未来予測をしっかりして危機感を得る、ということもない。実際、統計を見ても、本当に危機的状況なんです。子どもの数がこれだけ減ったら、経済が縮小するのは当然です。デジタルトランスフォーメーションといっても、エンジニアの数が圧倒的に足りない。
政治家のプロパガンダに流されて、なんとなく自分はいい状況にあると思っているけれど、国際的に見るとどんどん遅れている。しかも、今も国民はお上がなんとかしてくれると思っている。だから、盲目的に言うことに従ってしまう。
「金儲けは悪だ」という感覚もそう。士農工商という身分制度もそうでしたけど、封建主義時代に作られた醜い商業の空気が今も続いている。
それを打破したのが、渋沢栄一であったり、岩崎弥太郎であったり、財閥であったり。戦後であれば、松下幸之助や盛田昭夫や豊田喜一郎だったわけです。それがだんだん官僚化して、アントレプレナーシップが生まれなくなってしまった。
日本のモデルのライフサイクルは終わりつつあるということです。
世界の人が憧れる国になってほしい
だから、ニュージェネレーションが出てこないといけないんです。必要なのは、ビジョンやミッションがあって、それを達成するために事業や仕事がある、という発想です。給料をもらって、言われたことをただこなすのではなく、日本を豊かにするんだ、元気にするんだ、という夢を持って仕事をすることです。
アントレプレナーという言葉を、僕は起業家ではなく、実業家と訳しています。スタートアップをやる人でなくても、本当の意味での実業を行っている人は実業家です。実業の定義は、ちゃんとしたビジネスであること。そして当事者意識を持ち、古い制度に対する挑戦者、破壊者になることです。
イノベーション理論を提唱した経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、ビジネスによってしか世の中は変わらない、という話をしていました。国はプラットフォームでしかない。ビジネスを作り、豊かさを作っていくのは、国民なんです。そこに気づかないといけない。
なんとなく「オレたちはこのままでいいんじゃないか」「この心地よいメンバーだけでやっていこうぜ」という空気が日本にはある。それは、マスメディアもソーシャルメディアも増幅しているところがあるかもしれません。
しかし、周囲が成長し、変化しているのに、自分たちが止まっているということは、後退しているということに他ならないわけです。
物事をより高い視座からとらえないといけない。そのために必要なことは、国際的な視点です。明治維新後に福澤諭吉たちが欧米視察に行ったように、あるいは遣隋使や遣唐使のように、世界を見に行ったほうがいいですね。日本が変わるために。
量子コンピューティングやブロックチェーン、ゼロキャッシュ……。とんでもないイノベーションが生まれ、今は世の中の再定義が行われようとしているんです。ここで、じっとしていてはいけない。
僕はやっぱり日本には、世界で輝いて、世界の人が憧れる国になってほしいんですよ。
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突き抜けろ
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