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もうレシピ本はいらない

2023.01.28 公開 ポスト

月2万円でも満足度200% お金に縛られない食生活稲垣えみ子

アフロヘアがトレードマークの稲垣えみ子さんが驚きの食生活を公開し、第5回料理レシピ本大賞料理部門エッセイ賞を受賞した『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』が文庫になりました。50歳で不安を抱えたまま会社を辞めた稲垣さんの人生を救ったものは何だったのか? 本書から一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

「メシ、しる」にヨダレが出たら最強です

かくして稲垣えみ子52歳、晴れて会社を辞め、かくして毎朝通勤することもなくなり、主に半径1キロの世界を自転車でウロウロしながら日々仕事をしたりしなかったりで暮らす日々である。

なので、基本、昼も夜も家に帰って「ウチメシ」を食べている。まるでテレビでしか見たことのないイタリアやスペインの人のようだ(←イメージ)。

しかし問題は、その内容である。

イタリアやスペインのようなカラフルな食卓とは対極と言っていい。あまりにも地味である。しかも毎日ほとんど代わり映えしない

 

すなわち、メシ、汁、漬物の世界。最近、高名な料理研究家である土井善晴先生が「一汁一菜」を推奨して評判になっているが、それ、まさにうちです! そうそれが私の食卓であります。

例えばある冬の日の昼はこんなメニューであった。

 

  • 玄米ご飯
  • 梅干し
  • 大根おろし
  • ニンジンのぬか漬け
  • サツマイモとネギと油揚げの味噌汁

 

値段にして150円ほどであろうか。

いやいや、まさかこんなものを連日食べ続ける日が我が人生に来ようとは、考えたこともありませんでした!

 

ハイわかってます。そんな日々の繰り返しで、果たして人生の楽しみはどこにあるわけ? と呆れる方も少なくないことでしょう。

確かに今や「食べること」は国民的娯楽です。コンビニにも多種多様な新製品が次々登場し、誰もが食べログで人気店をチェックし、さらにあらゆる料理のレシピがネットで本でそこいらじゅうに溢れています。

すなわち現代とは生きているだけで素敵な食べ物の情報が目に入らぬ瞬間はない時代であると言ってもいい。

それだけ誰もが「美味しいものを食べたい」と懸命になっているということですよね。もちろん私もずーっとそうでした。

 

ところがですね、驚いたことに私、今やそんな「美味しいもの」とはザ・対極にある、この単調で地味で日々なんの代わり映えもしないこの食卓が、もういつだって待ち遠しくて待ち遠しくて仕方がないのです。いやマジで。誰よりも自分が一番驚いているんですが、本当に本当なんです。

 

近くのカフェで午前中の仕事を終え、昼飯を食べに自転車で帰宅するときなんざ、もうダッシュの勢い。で、帰るや否やささっと飯をよそい、汁をよそい、漬物を切り、「カッカッカッカ」(メシ)「ズズズー」(汁)という勢いで脇目も振らず目の前の皿に取り付くのでありました。

(写真:iStock.com/photoschmidt)

で、午後はまた別のカフェで仕事をし、そしてまたダッシュで家へ帰って「ズズズー」っとやるわけです。そしてまた次の日も、また次の日も……。この間、メニューはほとんど代わり映えしない。それなのに「飽きる」ということが全くない。「飽」という文字が頭に浮かんだことすらない。

 

それだけじゃありません。

気がつけば私、あれこれと工夫を凝らした派手な「ご馳走」がどうも苦手になってきたのです。

いやもっとはっきり言えば、ご馳走がコワイ。きらびやかなお店で食べる、寿司だの懐石だのフレンチのコースだのが恐ろしい。いや美味しいんですよ素晴らしいんです間違いなく。だからこそ心の底から楽しんで食べなければバチが当たります。

 

……で、私にはどうもそれが困難になってきた。

 

気づけばふうふう言いながら必死に食べている。いやしつこいようですが美味しいんです確かに。しかしどうも今の私には美味しすぎるのです。過剰なのです。まるで、嫌いじゃないけどそれほど好きでもない男にしつこく言い寄られているかのよう……。

なので、もちろん自分でわざわざ「ご馳走」を作ろうなんていう気持ちは綺麗さっぱりなくなってしまった。もうぬか漬けで十分

というわけで、日々どれほどの粗食に甘んじて暮らしていようとも、「あーたまにはご馳走が食べたい……」などと考えることすら1ミリも無くなってしまったのでした。日々是好日。今日も粗食で嬉しいナと思っている自分に自分で驚く。

 

はて、どうしてこんなことになったのか?

 

まあそれはおいおい書いていくとして、確実に言えることは、結果、私が食生活にかけるお金は天文学的に低くなったのでした。

1食200円として、月に2万円もあれば十二分なのであります。なのに満足度200%とは、はてこれいかに。

厚揚げの味噌焼き、干しエノキと干しカブの味噌汁、サトイモのぬか漬け、玄米ご飯と梅干し

これをもう少し論理的に説明しますと、今の私にとっては、お金があるということと、美味しいものが食べられて幸せになるということの間にはナーンモ関係がないのであります。

 

そう気づいた瞬間、私の腹はズン、と落ち着いたのでありました。

 

あれまあ。もはや人生に恐れることなど、なーんにもないではないか。

*   *   *

続きは幻冬舎文庫『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』をご覧ください。

稲垣えみ子『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』

アフロえみ子が、冷蔵庫なし・カセットコンロ1台で作るのは「一汁一菜」のワンパターンご飯。調理時間は10分、一食200円。旬の野菜さえあればアレンジは無限で、全く飽きない。それに何より最高にうまい!「今日のご飯何にしよう」の悩みから解放され、「自分が本当に食べたいものを食べる自由」を取り戻して幸せになる、驚きの食生活を大公開。

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もうレシピ本はいらない

「一汁一菜」のワンパターンご飯。これが最高にうまいんだ!

冷蔵庫なし・ガスコンロ1口で作るアフロえみ子のご飯は、調理時間10分、一食200円。「今日何食べよう」の悩みから解放される驚きの食生活を公開。

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稲垣えみ子

1965年、愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒業。朝日新聞社入社。大阪本社社会部、「週刊朝日」編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめ、アフロヘアの写真入り連載コラムや「報道ステーション」出演で注目を集めたが、2016年1月退社。その後の清貧生活を追った「情熱大陸」などのテレビ出演で一躍時の人となる。著書に『アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと。』『魂の退社』などがある。

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