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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

2023.01.31 公開 ポスト

人の評価が気になりすぎる相談者~「大きな失敗に対処するのに必要なのが、ちいさな失敗の経験だとおもいます」幡野広志(写真家)

写真家・幡野広志さんの人生相談。webメディアcakesで”一番読まれた”人気連載だった「なんで僕に聞くんだろう」の書籍、完結版が発売になりました。タイトルは『だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。cakesのサービス終了で読めなくなった記事がたっぷり収録されています。
幡野さんの、愉快で、鋭くて、優しい言葉と一緒に、写真もたっぷり楽しめる一冊です。

さっそく、内容を一部公開。
2つ目の人生相談は、何においてもネームバリューを求めてしまうという大学院生からの相談。

*   *   *

“挑戦レスおじさん”になるか、最強にいい人になるか、の分岐点

Q

人の評価を気にしてしまい、自分がどうしたいのかわかりません。

はじめまして。内村と申します。現在大学院1年生です。私は自分の行動を決定するとき、他人からの評価や世間映えを重視してしまいます。そもそも大学受験の際もネームバリューで選びましたし、大学院進学もこれといってやりたい研究があったわけではなく修士や博士号が欲しかったからです。就職先も誰に言っても恥ずかしくないところにしたいと思っています。このように自分で何かを成し遂げたいという気持ちが殆どありません。

特に悩んでいることは、自分は恋愛相手にもそういったネームバリューを求めてしまうところです。彼女が資格試験に落ち、第一志望の企業にも落ちたときも、「また失敗したのか」と内心で思ってしまいました。もちろん、そこだって安定したよい会社だと思いますが、いつかこの気持ちを噴出させてしまいそうです。

(内村優25 歳男性)

A

はじめまして、幡野です。なにを大切にするかという価値観の問題だから、あなたが世間ばえやネームバリューに価値があるとおもうならいいんじゃないですか。価値を感じていて、それが手に入っていないよりもずっといいです。

写真業界だってネームバリューが存在しますよ。最高峰の日本大学藝術学部の写真学科を卒業するのと、カルチャースクールにシャッターが生えた程度の学校を中退するのでは雲泥の差です。ちなみにぼくは泥のほうです。ネームバリューみたいなものにはあまり魅力を感じないけど、それでも写真を勉強するなら雲のほうが断然いいとおもうもん。

どの学校を卒業したかで就職先も変わってくるし、就職先によってどんな規模でどれくらいの質の高さの仕事ができるか決まってくるので、成長の幅も変わってきます。ぼくは運よく雲のような大きな仕事をしている会社や、大きな仕事をしている写真家のところでアシスタントとして働くことができて、最先端の技術を勉強できたからほどよく成長できました。

若いうちってまだ自分になんの実績もないから、大学のネームバリューぐらいでしか勝負できないじゃないですか。年齢を重ねて仕事や私生活で実績や経験を積んで、大学のネームバリューという実績からどんどん更新されていくことで、学歴なんてどうでもよくなっていきます。

いま、大学のネームバリューや世間ばえ重視で就職先にこだわっているのは、あなたが他に何もない証です。あなたから大学名を外してしまったら何もない人なんだけど、若いうちなんてみんな何者でもない自分に悩んで、何者かになりたくて苦労をしたりするものだから、それが当たり前です。

だから、せっかく大学のネームバリューという武器があるなら、それを大切にしたほうがいいよ。安心感のためだけに永眠させる定期預金のように、使いもせず固守するのではなくて、有効期限のあるチケットのようにしてまたあたらしい武器を手に入れればいいよ。

そして、別に本当にやりたいことを仕事にしなきゃいけないわけじゃないからね。そりゃ七夕の短冊とか神社の絵馬とか、将来の夢を子どものころから書かされてきたとおもうけど、仕事なんてなんでもいいんですよ。

好きなことを仕事にして活躍できればそれは素敵なことなんだろうけど、なんとなく仕事して好きなことは趣味でする人生だってとても素敵だしね。

ただ、ネームバリューという価値観はあくまであなたの価値観であって、他の誰かの価値観ではないんだ。世の中には無数に価値観があって、無数にチケットが存在するしね。 実績や価値観をどんどん更新していくのが成長だとおもいます。若いうちって自分を天才だとおもったり、なんでもできてしまうって勘違いをしてしまうんだけど、その勘違いすらもチケットにしてどんどん挑戦をしたほうがいいとはおもうんです。

本当は天才はめったにいなくてほとんどが凡人で、なんでもできるわけじゃなくて失敗もたくさんするんです。でもそれは挑戦をしないと気づけないことだったりします。

ちいさな失敗も大きな失敗も、社会で生きていれば必ずやらかします。必ずやらかすのだから、早いうちにやらかしたほうがいいの。なぜなら若いうちの失敗のほうがちいさい失敗であることが多くて、浅い傷ですむことが多いからです。

もちろん本人にとっては大きな失敗なんだけど、若いころの失敗を振り返ってみるとどれもちいさなものであって、大したことじゃないものです。でも年齢を重ねるごとに、人生経験値が増えるごとにまた、あたらしい大きな失敗にも直面します。

でもそれもクリアして経験値になると、ちいさな失敗になるんだよね。ドラクエのレベルアップとおなじことだよ。大きな失敗に対処するのに必要なのが、ちいさな失敗の経験だとおもいます。失敗が人を成長させてくれるとおもっています。

若かろうがおじさんになろうが、人なんて知らないことのほうが多くて世間知らずなんだけど、人生は知らないことを知ることがたのしいものです。そうやって失敗をしたり知らないことを知ることが人生経験であって、すこしずつ成長して価値観の幅を広げていくんだとおもいます。

だから失敗との付き合い方がとても大切です、いちばん大切なことは、人の失敗を否定しないということです。彼女が資格試験に落ちたこと、第一志望の企業に落ちたことを否定なんてしないほうがいいでしょう。

あなたがそれを失敗として否定するのならば、あなたはこの先、資格試験に落ちることは許されなくなるし、第一志望の企業に落ちることも許されなくなります。人の失敗を否定すると、自分の失敗も許せなくなります。

そうなると失敗が不安ですよね、立ち向かって必死になってがんばれるタイプならいいんだけど、失敗をしない最大の方法は挑戦をしないことです。ネットなんかでいっぱいいるじゃないですか、挑戦をして失敗した人を馬鹿にしたり笑ったりする挑戦レスおじさん。

勝ち続けているうちはまだいいのだけど、勝ったら勝ったでまた次の勝負に勝たなくてはいけなくて、失敗や負けを許さないで否定する生き方ってすんごい疲れるのよ。だからまずは自分が楽になるために、人の失敗を肯定するのがいちばんいいよ。

そして、あなたはけっこう強い人なのよ。いわゆる勝ち組や負け組みたいな見方をすれば勝ち組なんですよ。そんな強いあなたに必要なのが、失敗の肯定と失敗の経験です。

強い人が、失敗した人の気持ちを理解してフォローをしたり、失敗をカバーもできたら最強なの。最強にいい人じゃん。たくさんの人に頼りにされるし好かれるし、なによりもあなたが失敗したときにみんなが助けてくれるよ。

挑戦レスおじさんと最強にいい人、どっちがいいか選べるなら最強にいい人になりたいよね。人として雲泥の差じゃん。挑戦レスおじさんがうっかり失敗したときなんてボッコボコにされちゃうし、誰も助けてくれないからね。

「このように自分で何かを成し遂げたいという気持ちが殆どありません」。これが大きな問題だよね、これだとそもそも挑戦をする機会もないし。これが結局あなたの悩みの本質なんだとおもうんだけど、自分が何が好きなのかわからない、何をしたいのかわからないという悩みは大学生ぐらいの人にとても多いです。

そういう大学生に話を聞いてみると、だいたい子どものころから家庭や学校で自分が決めるべきことや、やるべきことを大人が決めてきて、自分が好きなことをすると否定されていたりするんだよね。これを子どものころからやられちゃうと、けっこう厳しいんだわ。

何かを成し遂げたいとおもったときに、挑戦をすればいいともおもうんだけど、そのとき失敗を恐れないために、いまから人の失敗の否定はしないようにがんばろう。 彼女に「また失敗したのか」っておもわず噴出しそうなほどなのは、あなたが子どものころに「また失敗したのか」って大人からいわれた経験があるんじゃない? それがつらくて大人や社会の目や評価を気にして、文句をいわれない生き方をして、本当に自分がしたいことはわからないという状態なのでは。

自分の過去をよく見返してほしいの、たぶん挑戦レスおじさんかおばさんの牙毒(どくが)にやられてるよ。挑戦レスおじさんとおばさんの牙(きば)はとっくに抜け落ちてボロボロの歯だから若い人にしか襲い掛かれないけど、若い人にほど有効なんだ。子どもや若い人に噛みつく人って、ぼくもおじさんになって気づいたけど、あれって大人から相手にされていないヤバイ人だからね。

あなたはいま、最強にいい人になるか、毒牙で噛みつく挑戦レスおじさんになるかの分岐点にいるんだけど、あなたは能力が高くて仕事もできるだろうから、毒牙もったらそれはそれでハンパないんだわ。

あなたがこのまま失敗の肯定すらせず40歳ぐらいで役職についたら、部下を精神的に追い込んじゃう危険性すらあるよ。いまの彼女にもっている感情は、彼女のことを尊重しているからギリギリのところで噴出させずにすんでいるの。えらいよ、よくがんばってる。

でも、あなたよりも弱い人で、彼女よりも大切ではないどうでもいい存在に対してはどうだろう? 人は、自分よりも弱い存在にどう接するかにいちばん人柄があらわれるよ。自分よりも弱い存在の価値観を否定して、自分の価値観の押し付けをしちゃうのがいちばん問題なんだ。

だからまずは、失敗を肯定して許すこと。そのためにあなたが子どもだったころに脳内で会いに行って、ちいさな失敗をしたことを全部いまのあなたが肯定してフォローしてあげて。挑戦レスおじさんから怒られた子どものころのあなたを、フォローしてあげて。

25歳のいま、自分に疑問を持てて本当に良かったよ、だから大丈夫だよ。最強にいい人になってね。

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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

「自分がしあわせになることが、いちばんみんなをしあわせにするんですよ」
「他人から嫌われるよりずっとつらいのが、自分で自分を嫌うことです」
「敵意は敵意で返ってくるけど、好意は好意で返ってきます」…など、心に刺さる幡野さんの言葉が満載の一冊!

ガンになった写真家に、なぜかみんな、他ではできない相談をする。でも、幡野さんは、簡単に慰めない、安易に共感しない。でも真実を捉え、時に耳の痛い言葉を、時に誰よりも温かい言葉を、”心の的のど真ん中”に、放り込んでくる。
この鋭さは何?この痛みは何?この居心地の良さは何?この希望は何?……
甘いだけの人生相談なんて、もう要らない。
背中を”本当に”押してくれる、唯一無二の人生相談です。

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Q「信者の母のもとで育ち、宗教から離れたいが、怖い」
Q「自分の性について、パートナーにカミングアウトすべきか」
Q「風呂で亡くなった母は、事故死なのか自死なのか」
Q「57歳、無職、独身。お金が無くなったら死ぬしかない」
Q「おもしろい人になりたい」
Q「貧乏から抜け出せない」 
など、31の悩みに対して、あなたのためだけに、手加減ゼロで弾き出される言葉とは――?

webメディア「cakes」のサービス終了で読めなくなった人気連載を収録。cakesでアクセス1位を記録した人気連載の書籍化、完結版!

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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