情報が溢れ、何もかもが急速に変化している現代こそ、2500年も前から「人間の原点」について向き合い、「人生の悩み」も「この世の疑問」も、解決してきたのが仏教を学んで、自分の力にしたい。
新刊『悩むことは生きること ~大人のための仏教塾』より一部公開します。
* * *
Q どうすれば人は変わることができるのですか?
A 無理に変わらなくても、毎日少しずつ変わっています。
「人は変わらなければ成長できない」と、よく聞きます。たしかに、そのとおりかもしれません。しかし、ここで考えてほしいのは、「変わらなければ」という意識にとらわれすぎてすべてを変えてしまったら、おそらく変わったことがわからないということです。変わらないものがあるからこそ、どこが変わったかわかるのです。
人は変わることで成長します。しかしここで大事なことは、「変わるためには、変わらないものをバックボーンとして持っていなくてはならない」ということです。
変わらないものを持ったうえで変わっていく、まるで真逆のことをいっているように聞こえるかもしれませんが、こうした相反するものをどれだけ受け入れることができるかどうかが、人間の器を決める大事な要素です。
気をつけなければならないのは、変わらないものは、変わらないからこそ目に見えにくいということです。
「社是(しやぜ)」というのは会社創立の精神や、会社を創業した人の思いが反映されたものです。あるいは通っていた学校に「校訓(こうくん)」というものがあったでしょう。あれは学校の教育方針とか、どんな人間に育ってほしいかという願いを込めたものです。
こうしたものは、そう簡単に変えてはいけないものです。社是や校訓がコロコロ変わっていたら、めざすべき方向がわからなくなってしまいます。こうした変わらないものをひとつの求心力として、そのうえで変わっていくことが大切です。
「成長するためには変わらなくてはいけない」と、何でもかんでもやみくもに変えていったのでは、自分が何者かわからなくなるし、心を病むことにもつながりかねません。また、それが会社のような組織であれば、崩壊してしまうでしょう。
実は、変わらないものを持ちながら、日々変わっているのが、この私たちの身体です。私たちの身体を構成しているそれぞれの細胞は、同じ種類の細胞でありながらも、日々新しいものに入れ替わっていっています。そして身体のすべての細胞が、一年もたたないうちにほとんど入れ替わるそうです。ですから、無理に変わらなくてはと思わなくても、人は自ずと変わっていっています。
むしろ、変わらないものは何なのか、変えてはいけないものは何なのか、それについて考えてみることが大事なのです。
悩むことは生きること 大人のための仏教塾
生死のこと。心に浮かんでしまう良くない感情。抑えきれない不安。あなたの抱える悩みや苦しみに、2500年も前から向き合い、救いと解決の手立てを差し伸べてきたのが仏教だ。その教えは我々の生活や教養の一部となり、心を整える一助となっている。けれど、仏教のことちゃんと知ってる? 釈迦の教えを日々実践している禅僧が、今さら人に聞けない、基本的だが本質的な95の疑問に答える。情報が溢れ、変化の激しい現代だからこそ、仏教が説く人間の原点に立ち返り、生き抜く智慧を身につけよう。