情報が溢れ、何もかもが急速に変化している現代こそ、2500年も前から「人間の原点」について向き合い、「人生の悩み」も「この世の疑問」も、解決してきたのが仏教を学んで、自分の力にしたい。
新刊『悩むことは生きること ~大人のための仏教塾』より一部公開します。
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Q 他人がうらやましくて仕方ありません。
A 人間はそもそもネガティブな感情を抱えた存在です。
人のことがうらやましいと思うのは、人と比べるからです。それが苦しいというのであれば、人と比べなければいいだけのことです。
とはいえ、この世の中に自分一人ということはありえませんから、どうしても人は自分と他人を比べてしまいます。それは仕方がないことだともいえます。
人はそれぞれ生まれた環境も違えば、育った環境も違います。これは自分では選べないことであり、自分の思いどおりにならないことです。お釈迦さまは、こうした状態を「苦」と表現しました。
また、あなたがうらやましいと思っている相手も、別の誰かをうらやましいと思って苦しんでいるかもしれません。それどころか、逆にあなたのことをうらやましいと思っているかもしれません。
比べること自体は、決して悪いことではありません。お互いの違いを理解するうえでは大事なことです。しかし、あまりに度が過ぎてしまうと、妬(ねた)みや嫉(そね)みの原因となってしまいます。それを「嫉妬(しつと)」といいますが、嫉妬の炎は自分を燃やしてしまいます。自分を燃やせば、それによって自分は灰になってしまいます。
人のことをうらやましいと思ったり、嫉妬をおぼえたりするのは、基本的にネガティブな感情だと思いますが、人間というのは、いろいろな意味で根っこにネガティブな感情を抱えている存在だという気がします。
たとえば、テレビのお笑い番組などでは、人の失敗や不幸が笑いのネタになったりしています。歌でも失恋の歌のほうがヒットするし、映画やドラマでも悲劇のほうが人の心をとらえたりします。だからこそ、逆にポジティブ・シンキングなどという言葉が声高に叫ばれたりするのでしょう。
人のことがうらやましいという感情や、妬ましいという感情は、どんなに修行を重ねても完全になくすことができないものだと思います。ただ、そう思ったときに、その感情とどう向き合うかということが大切です。
うらやましいと思ったら、自分もそうなるように努力すればいいし、そうでなければ、うらやましいと思っても、「だから、何」と、その気持ちをさっさと振り切って、うらやましさを募らせないようにすればいいと思います。
悩むことは生きること 大人のための仏教塾
生死のこと。心に浮かんでしまう良くない感情。抑えきれない不安。あなたの抱える悩みや苦しみに、2500年も前から向き合い、救いと解決の手立てを差し伸べてきたのが仏教だ。その教えは我々の生活や教養の一部となり、心を整える一助となっている。けれど、仏教のことちゃんと知ってる? 釈迦の教えを日々実践している禅僧が、今さら人に聞けない、基本的だが本質的な95の疑問に答える。情報が溢れ、変化の激しい現代だからこそ、仏教が説く人間の原点に立ち返り、生き抜く智慧を身につけよう。