情報が溢れ、何もかもが急速に変化している現代こそ、2500年も前から「人間の原点」について向き合い、「人生の悩み」も「この世の疑問」も、解決してきたのが仏教を学んで、自分の力にしたい。
新刊『悩むことは生きること ~大人のための仏教塾』より一部公開します。
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Q 「欲」とは何ですか?欲深くてはダメですか?
A 自制心のある欲は大歓迎です。
生きていれば、あれをしたい、これをしたい、あるいはあれが欲しい、これが欲しいと思うことがあります。それが「欲」というものです。食べたい、寝たいというのも欲の一種ですから、そもそも欲がないと人間は生きていけないことになります。生きていること自体が欲だといえるかもしれません。
ですから、欲それ自体には、いいも悪いもありません。よって、欲を持つこと自体にも、いいも悪いもありません。
仏教ではよく「無欲」の大切さが説かれますが、無欲とは欲がないことではありません。そもそも、欲がなければ生きていけないからです。無欲とは、欲に惑わされることがない、欲にとらわれることがないということであり、必要以上に求めすぎない、少ないものでも満足するという意味です。
つまり、欲そのものがあるかないかが問題なのではなく、人間にとって、どのような欲の持ちかたをすれば幸せになれるのかということが問題なのです。
たとえば、テストで一番になりたいというのも、ひとつの欲です。その欲を満たそうと思ったら、普通は一所懸命に勉強しなくてはなりません。そうすれば勉強ができるようになり、その結果として一番になれるかもしれません。つまり、テストで一番になりたいという欲を持つことは、あくまでも勉強ができるようになるための手段であり、そのためには努力が必要です。
ところが、ただ一番になることだけが目的になってしまうと、どんな手段を使ってでも一番になればいいということになってしまい、テストでカンニングしてもかまわないという間違った考えにつながりかねません。
また、欲というものは、それが満たされれば快楽を得られる性質があるため、これが手に入ったら、次はこれ、次はこれと、どんどんエスカレートしていく傾向があります。そうなれば、それを満たすことだけが目標となり、ほかはどうでもよくなります。いわば欲の奴隷になってしまうわけで、自分を見失う原因にもなります。
ここで満足しよう、これ以上は求めないようにしようという自制心が、欲と上手に付き合っていくためには大切です。ほどほどのところで満足しようという態度を「少欲知足(しょうよくちそく)」といいます。そのほうが、人はおだやかに生きていけるのです。
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悩むことは生きること 大人のための仏教塾
生死のこと。心に浮かんでしまう良くない感情。抑えきれない不安。あなたの抱える悩みや苦しみに、2500年も前から向き合い、救いと解決の手立てを差し伸べてきたのが仏教だ。その教えは我々の生活や教養の一部となり、心を整える一助となっている。けれど、仏教のことちゃんと知ってる? 釈迦の教えを日々実践している禅僧が、今さら人に聞けない、基本的だが本質的な95の疑問に答える。情報が溢れ、変化の激しい現代だからこそ、仏教が説く人間の原点に立ち返り、生き抜く智慧を身につけよう。