情報が溢れ、何もかもが急速に変化している現代こそ、2500年も前から「人間の原点」について向き合い、「人生の悩み」も「この世の疑問」も、解決してきたのが仏教を学んで、自分の力にしたい。
新刊『悩むことは生きること ~大人のための仏教塾』より一部公開します。
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Q「縁」とは何ですか?
A ある原因がある結果になるための「条件」です。
「因果応報」のところでも述べましたが、すべてのものごとには必ず原因があります。しかし、原因が同じだからといって、必ず同じ結果になるとは限りません。ある原因が、ある結果になるためには、そうなるための条件が関係してきます。この条件を、仏教では「縁」や「ご縁」と呼んでいます。
キリスト教やイスラム教では、すべてのものを神が創造した、すべては神さまの思し召しと考えますが、仏教においては、そのような考えかたはしません。あらゆる存在、あらゆるできごとには、必ず何かしらの原因があり、それに関係する縁があり、そして結果(存在、できごと)があるというのが仏教の基本的な考えかたです。
たとえば、夏になると大輪の花を咲かせるヒマワリがあります。花が咲く原因は、タネをまいたということです。そこに天候や土壌の性質などが縁として働くことで、結果として花が咲いたり、残念ながら途中で枯れてしまったりするのです。
また、たとえば、あなたが失恋したとします。失恋というのは、ひとつの結果です。
その原因は何かといえば、そもそもその人と出会ったことです。しかし、出会ったからといって、必ず失恋するとは限りません。その間に、お互いが好きになる、付き合う、好きではなくなる、別に好きな人ができるなどの条件が作用しなければ、失恋というできごとは起こりません。そうした条件を、「縁」と呼んでいるのです。さらにいえば、今度はその失恋が原因となったり、そこに何らかの縁が作用したりすることで、結果として引きこもりになったり、再び誰かを好きになったりします。
このように見れば、原因と縁(条件)と結果は単純なものではなく、ひとつのものごとが「原因」になることもあれば、「縁」になることもあり、「結果」になることもあると、おわかりいただけるでしょう。私たちの生活や社会は、そうしたものが非常に複雑にからみ合って成り立っています。
あらゆるものごとは、縁によってつながっているということもできます。ですから、どこかの国で起きている戦争や災害も、自分とは無関係というわけではないのです。人間同士の関係も同じことで、すべて縁が働いています。あなたは自分一人の力で生きているわけではなく、両親や友人や同僚をはじめ、さまざまな縁に支えられて生きているのです。そのことを忘れてはいけません。
悩むことは生きること 大人のための仏教塾
生死のこと。心に浮かんでしまう良くない感情。抑えきれない不安。あなたの抱える悩みや苦しみに、2500年も前から向き合い、救いと解決の手立てを差し伸べてきたのが仏教だ。その教えは我々の生活や教養の一部となり、心を整える一助となっている。けれど、仏教のことちゃんと知ってる? 釈迦の教えを日々実践している禅僧が、今さら人に聞けない、基本的だが本質的な95の疑問に答える。情報が溢れ、変化の激しい現代だからこそ、仏教が説く人間の原点に立ち返り、生き抜く智慧を身につけよう。