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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

2023.02.11 公開 ポスト

結婚は“当たり前”?…婚活に悩む相談者~「『普通』って変化しないようで、時代や地域でコロコロ変わる流動的なもの」幡野広志(写真家)

写真家・幡野広志さんの人生相談。webメディアcakesで”一番読まれた”人気連載だった「なんで僕に聞くんだろう」の書籍、完結版が発売になりました。タイトルは『だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。cakesのサービス終了で読めなくなった記事がたっぷり収録されています。
幡野さんの、愉快で、鋭くて、優しい言葉と一緒に、写真もたっぷり楽しめる一冊です。

さっそく、内容を一部公開。今回は、婚活がうまくいかずに悩む30代女性から。

*   *   *

30年前の普通、コロナ前の普通、いまの普通は全部違う

Q

32歳のOLです。婚活が上手くいきません。婚活アプリや合コンに参加したり、友人から男性を紹介してもらったりと自分なりに手を尽くしています。

約2年で20人ほどの男性と会い、食事をしたりデートを重ねたりしましたが、お付き合いする形にはなりませんでした。良いなと思った方からは連絡が途絶え、凹(へこ)む日々が続き、ストレスで胃腸炎にもなりました。体調を崩してまで婚活している自分が馬鹿らしくも思いますが、年齢的にも早く良いお相手に出会いたく、なんとか頑張っています。年齢を重ねれば重ねるほど、需要が無くなる気がして怖いです。

1人でただただ年齢を重ねていくことが恐怖です。24時間すべて、自分の時間であることに虚無感を抱きます。結婚せずに楽しく有意義に生活していらっしゃる方も大勢いますが、私はどうしても結婚もしたいし子育ても経験したいと思っています。

大人になれば、当たり前に結婚して出産して子育てをするものだと思っていました。結婚という当たり前の事が私はできないんだと思うと苦しく涙が出てきます。

(あいぶん32 歳女性)

A

ぼくの周りでも婚活をしている友達がいるんですけど、けっこうみんな苦戦をしているな……という印象があります。ぼくの友達もあなたとおなじで、出会えてデートや食事はしているけど、お付き合いにはいたってないようですね。それに婚活の構造として、「次にもっといい人が来るかも」という期待もあるから、決断だって難しいですよね。

いつかいい出会いがあるよ、って励ましの言葉があるけど、安易ながらも真実だとおもうんですよね。タイミングと相性に大きく左右されるわけで、運というよりはご縁なんでしょうし、いつなのかわからないけど、いつかはいい出会いがあるんでしょう。

婚活って費用もけっこうかかるじゃないですか。結婚相談所でも独身証明書とか収入証明書の提出が求められるような安心感が高いところほど費用も高くなります。マッチングアプリや合コンには既婚者がいるリスクもあるし。それに出産を希望している女性の場合、年齢的な焦りもあるのだろうし、自分の加齢についての捉え方が男性と女性でずいぶん違うし。

経済産業省の調査によると結婚相談所の成婚率は10%程度らしいんですけど(少し古いデータだったんですけど)、結婚を望む男女が登録をして、仲介をしてくれる人がいて成婚率10%ってなかなか厳しいですよね。だから婚活って、不利な戦いに挑んで苦戦をするってことを、まずは覚悟したほうがいいとおもうんです。

ぼくの周りの婚活をしている女性は「普通の男性でいい」ってことをいいます。たぶんあなたも高望みをしているわけじゃないですよね。でもこの「普通」が厄介なもので、なにと比較した普通かってことなんです。

自分がいままでに付き合った男性を平均値化した場合の普通なのか、自分の職場や生活圏内にいる普通の男性なのか、はたまた社会的に普通といわれる男性なのか、ドラマに出てくるような男性なのか。

普通の年収、普通の仕事、普通のルックス、普通の性格、普通の身長、普通の趣味、普通の学歴。確かに一つ一つは普通なのかもしれないけど、普通の男性だって普通という役がたくさん揃えば、役満(やくマン)男性になるでしょう。

そんな普通な男性がいたら、普通需要の高い婚活市場ではすぐに成婚しちゃうんでしょうし、普通の男性には普通の彼女がいちゃうものだったりします。

ちょっと低い年収、すこし変わった仕事、細身のルックス、いい性格、おもしろい趣味。みたいなデコボコとしている人のほうが現実的には多いし、それが人の魅力だともおもうので、男性の普通を減らしていくってことは有効なんじゃないですかね。 似たような話で、「妥協してまで結婚したくない」って意見を女性からも男性からもよく聞くんですけど、それがやはり苦戦をしてしまう原因だとおもうんです。

正直なところ、年収なんていちばん妥協できる点だとおもうんですよね。年収は変化するからです。現在の年収よりも、金銭感覚やお金のリテラシーの高さを重要視したほうがぼくはいいとおもいます。

ルックスだって加齢とともに変化するから、変化しにくい性格や価値観の相性を重要視したほうがいいとおもうんです。年収やルックスが原因で離婚する夫婦よりも、金銭感覚や性格の不一致で離婚する夫婦のほうが圧倒的に多いとおもうんですよ。

そう考えたら、一般的に離婚理由になるものは妥協せずに、離婚理由にならないものはどんどん妥協していったほうが、婚活は楽になるとおもいます。

あなたが年収やルックスをどこまで気にしているかわからないけど、いまは共働きが多いので世帯年収で考えたほうがいいだろうし、子育てを希望しているなら当たり前のように家事育児をする男性がいい。家事については家の中を見ればある程度判断できるけど、育児をする男性かどうかは正直なところまったくわからないですよね。

ただ人にお金を使えない人って、配偶者や子どもにもお金を使おうとしないので、個人的には一つの判断基準になるかなっておもいます。

あなたは自分で年齢を重ねるごとに需要が下がっていると感じているそうなので、需要と供給の話を例に出すと、需要側の男性を消費者、供給側のあなたを生産者にたとえた場合、需要が下がるっていうのは、市場での価値が下がっているということだとおもうんです。

美容や健康にコストをかけたり、共働きの時代なので自分の収入を増やしたり、というのは品質の向上です。それでどんなに品質がよくなったとしても、消費者と生産者で希望金額がうまく合わなければ取引は成立しません。

だとすれば、価格を下げるというのは真っ当で有効な手段だとぼくはおもうんですよ。もちろんあなたに値札が付いているわけじゃないんだから、男性の普通基準をグッと下げるってことです。それは妥協ではなく戦略です。

あと大事なのは、婚活は女性だけが生産者側にいるわけではなく、男性も生産者であるということです。お互いが値踏みして、お互いが「次にもっといい人が来るかも」という心理になるから難しいんだけど、そもそも結婚って二人の合意でするものなので、需要っていう考え方がずれているかもしれませんよ。

婚活って、出会った時点で結婚が前提なのがかなりハードルを高くしているようにもおもうんですよね。ぼくは結婚してますけど、うちの妻だってぼくと結婚することを前提に出会っていたら、たぶん付き合わなかったんじゃないかな。どう考えたって慎重にならざるをえないでしょう。

32歳で独身の女性って、東京で生活するぼくの価値観からすると、普通だよなっておもうし、まだいくらでも結婚できるでしょっておもうけど、結婚を前提とした婚活が結婚のハードルをあげているような気がするんですよね。

結婚を意識しないで付き合っていくうちに結婚を意識する自由恋愛や、一昔前みたいに仲人や親族が「この人どうかしら」って決めるようなお見合いのほうが、成婚率だけでいえばきっと高いとおもうんですよ。

婚活って自由恋愛とお見合いのハイブリッドみたいになってますよね。うまくいく人はいるのだろうけど、ちょっと難しいですよね。個人的には子どものことは別問題として、社会的にもっと離婚と再婚のハードルが下がればいいのになっておもいますよ。そうすればもうちょっと結婚のハードルも下がるでしょ。

あなたは結婚相談所にはまだ登録をしていないんですよね。成婚率が高いわけじゃないけど、なんだかんだでぼくは結婚相談所をおすすめします。費用はちょっと高いけど、アドバイザーやコンサルや仲人みたいな人がいますよね。たくさんのケースを見てきて知識も情報量も違うわけです、つまりプロですよ。そんな人を味方にできるってかなり大きいでしょう。

20人の男性と出会って食事やデートをしても、お付き合いに発展しなかったわけですから、一度見直しは必要だとおもうし、自己判断だけじゃなくてプロの意見を聞いてみるのも有効でしょう。

就活とか婚活とか、なんか活動ばっかりで疲れますよね。活動というよりも競争に近いよなっておもうけど、みんな他の誰かの人生と比べてがんばってますよね。

「大人になれば、当たり前に結婚して出産して子育てをするものだと思っていました」ってあるけど、結婚や出産や子育ては当たり前のことでも普通のことでもないですよ。これ男性もおなじこというんですよね。

生涯未婚率って30年前から増加していて、いま男性はだいたい28%、女性がだいたい18 %だそうです。30年前は男性はだいたい5%、女性はだいたい4%です。出生数だってバブル絶頂期の30年前よりずっと前から下がり続けているし、非正規雇用の割合だって30年前に比べると激増です。

30年前の普通でいえば終身雇用で就職して、結婚して子育てして、男性は仕事、女性は家庭という描写がアニメとかドラマとかにはよくあったけど、いまとはずいぶんギャップがありますよね。

普通って変化しないように感じるかもしれないですけど、時代や地域でコロコロ変わる流動的なものだとおもうんです。10年前の普通だっていまの普通と違うし、コロナ前の普通といまの普通も違いますよね。普通と普遍って違うんです。

ぼくは普通なんてまったく気にしません。せいぜいその人やその時代にとっての普通なのであって、流動するものなので、競争もがんばることもできないんですよね。なんか心が風邪をひきそうじゃないですか。人生で苦しむほうを選ぶってもったいないよ。

だからまずは、結婚と出産を当たり前っておもわないほうがいいですよ。だからといって諦める必要はなくて、婚活市場のことは頭に入れつつも、市場外で生きることだって視野に入れることも必要だとおもうんです。

人生なんてどうなるかわからないんだから、どうなってもいいようにいくつかプランがあったほうがいいよね。なるべく早く、いい出会いがあることを願ってます。

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だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。

「自分がしあわせになることが、いちばんみんなをしあわせにするんですよ」
「他人から嫌われるよりずっとつらいのが、自分で自分を嫌うことです」
「敵意は敵意で返ってくるけど、好意は好意で返ってきます」…など、心に刺さる幡野さんの言葉が満載の一冊!

ガンになった写真家に、なぜかみんな、他ではできない相談をする。でも、幡野さんは、簡単に慰めない、安易に共感しない。でも真実を捉え、時に耳の痛い言葉を、時に誰よりも温かい言葉を、”心の的のど真ん中”に、放り込んでくる。
この鋭さは何?この痛みは何?この居心地の良さは何?この希望は何?……
甘いだけの人生相談なんて、もう要らない。
背中を”本当に”押してくれる、唯一無二の人生相談です。

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Q「信者の母のもとで育ち、宗教から離れたいが、怖い」
Q「自分の性について、パートナーにカミングアウトすべきか」
Q「風呂で亡くなった母は、事故死なのか自死なのか」
Q「57歳、無職、独身。お金が無くなったら死ぬしかない」
Q「おもしろい人になりたい」
Q「貧乏から抜け出せない」 
など、31の悩みに対して、あなたのためだけに、手加減ゼロで弾き出される言葉とは――?

webメディア「cakes」のサービス終了で読めなくなった人気連載を収録。cakesでアクセス1位を記録した人気連載の書籍化、完結版!

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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