お釈迦さまの教えを日々実践している禅僧で、新刊『悩むことは生きること 大人のための仏教塾』を上梓した平井正修さん。そんな平井さんが住職をつとめる臨済宗国泰寺派全生庵(東京都台東区)には、中曽根康弘氏、安倍晋三氏といった歴代の総理大臣が、坐禅をしに訪れていたそうです。過密なスケジュールにもかかわらず、なぜ彼らは坐禅を習慣にしていたのか? その理由をうかがいました。
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坐禅は肉体的・精神的なトレーニング
── 平井さんが住職をつとめている全生庵には、中曽根康弘さんや安倍晋三さんといった歴代の総理大臣も、坐禅をしに訪れていたそうですね。
中曽根先生が初めていらっしゃったのは、総理大臣になる1週間前くらいでした。当時、私は中学3年生で、塾から帰ってきたらお寺の前に黒い車が何台も停まっていたのを覚えています。
母親に「誰か来ているの?」と尋ねたら、「中曽根さんが坐禅してるわよ」と言われて驚きました。なんでも私の父が、中曽根先生と昔からの知り合いだったそうです。
それ以来、週に1回は必ずお見えになっていました。総理大臣をつとめられていた5年間、欠かしたことはないと思います。私も「座りなさい」と言われて、中曽根先生の後ろでよく坐禅をしていましたね。
安倍先生が初めてお見えになったのは、第一次安倍政権を体調不良でお辞めになって、病院から退院されてすぐのころでした。精神的にも、体力的にも、どん底の時期だったと思います。それ以来、総理大臣に返り咲くまでの5年間、月1回は必ずお見えになっていました。
── お二人とも、坐禅に意義を感じられていたということですね。
坐禅というのは、ある意味、肉体的・精神的なトレーニングなんです。ですから、続けるというのは大切なことだと思います。
とくに総理大臣というのは、日本で一番、孤独な仕事だと思うんです。その孤独に耐えられる人でないと、総理大臣はつとまらないんだろうなと思います。
基本的に、批判される対象じゃないですか。それでも腹を据えて、自分の信念を貫かなくてはならない。そんななかで肉体的・精神的な健康を保つには、坐禅しかないんだろうなと思います。
── 坐禅をしている間は、何も考えてはいけないんですよね。
そうですね。でも、何も考えないという状態はありえるのかとも思います。もっと修行を重ねて、その境地までたどり着いたら、またお話をしに来たいですが、残念ながらいまの私のレベルでは、何も考えないというのは不可能ですね。やはり何かを考えてしまうものです。
── 坐禅は健康法としても知られていますが、平井さんは効果を感じていますか?
そうですね、一番大きいのはやはり呼吸ではないでしょうか。私は静岡県三島市の龍沢寺という修行道場に10年ほどいたのですが、冷房も暖房もないんです。大寒と呼ばれる一番寒い時期に、1週間、ほとんど寝ずに坐禅の修行をするのですが、そのときはマイナス5度くらいまで下がりました。
それでも呼吸が調っていると、若かったというのもあるかもしれませんが、不思議なことに大丈夫なんですよ。龍沢寺で修行をしていた10年間、一度も風邪をひいたことはありませんでした。
お経に込められた真意を読み取る
── 本書にはお経の話も出てきますが、「お経ってこんなに面白いものなんだ」と知りました。
お経には数え切れないほどの種類があるのですが、基本的には「みんなが心穏やかに生きていくにはどうしたらいいか」ということが書いてあります。
有名なのは、お釈迦さまが生まれてすぐに7歩歩き、右手で天を、左手で地を指して、「天上天下唯我独尊」とおっしゃった、という話です。でも、それをそのまま信じている人はいませんよね。
生まれたばかりの赤ん坊が歩くわけないし、しゃべるわけもない。後世の人がつくったつくり話です。でも、そこにどんな意味がこめられているのか、読み取っていくことがお経を読むうえでは大切なんです。
仏教には神がいないので、奇跡というものはありません。なのに、なぜこのような奇跡の話をつくったのか。いったい、われわれに何を伝えているのか。話を鵜呑みにするのではなく、その背景にあるものを考える必要があります。
当然ながら、人によっていろんな解釈ができます。ですから仏教には、いろんな宗派があるんです。
── 最後に読者のみなさんへメッセージをお願いします。
『悩むことは生きること』は、以前、別の出版社から出していただいた『13歳からの仏教塾』という本がベースになっています。
題名どおり、子ども向けに書いた本だったのですが、その本で取り上げた疑問や悩みは子どもだけではなく、大人もきっと同じだろうなと思っていました。そこで、今回は大人のみなさんにも手にとってほしいと思いまして、この本を書きました。
われわれは、「どうして自分は生きているのか」とか、「どうやって死んでいくのか」といった根本的な悩みを、ふだんはあまり考えずに生活しています。でも、不安を感じたり、挫折を味わったりして、このような疑問がふと頭をよぎることがあります。
そのとき、仏教の知恵というものを知っていると、心が少し軽くなるのではないかと思います。ぜひ、手にとっていただけたら幸いです。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】平井正修と語る「『悩むことは生きること 大人のための仏教塾』から学ぶ悩みを軽くする考え方」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書
AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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