NHKラジオ『ラジオ英会話』講師で、最近ではNHKテレビ『大西泰斗の英会話☆定番レシピ』でも注目の英会話マスター、大西泰斗さん。著書『それわ英語ぢゃないだらふ』は、「なぜ日本人は英語が話せないのか?」という、誰もが思っているであろう疑問をていねいに解説してくれる一冊。英語がどんどん飛び出す体になるための奥義が満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。
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英語は配置のことば
英語は日本語と大きく性質を異にする「配置のことば」。文内での位置が意味に直結することばです。
John gave Mary a present.
ジョンは メアリーに プレゼントを あげた
私たちの母語日本語は語順に大変寛容なことばです。標準的な語順から逸脱しても意味は容易に通じます。上の文を「メアリーにプレゼントをあげたんだ、ジョンは」とすることもできます。それは日本語では「て・に・を・は」(助詞)などにより、表現が文中で与えられた役割が示されるからです。「ジョンは」となっていれば、文の頭に来ようがお尻に来ようが主語だということがわかる、それが語順の寛容さにつながっているのです。
一方、英語には助詞のような手がかりは一切ありません。上の文で John が主語だとわかるのは動詞 gave の前という位置にあるから。置かれた位置、それが表現に役割を与えているのです。
日本語ではまた、語形変化も品詞を示し文中での役割を示しますが、英語にはそうした目的で行われる語形変化はありません。
a. red【名詞】…赤
b. red book【形容詞】…赤い本
c. burn red【副詞】…赤く燃える
英語では red に語形変化はなく、どの品詞で使われても red です。常に同じ形の red ですが、ネイティブスピーカーはその役割を決して誤解しません。それはやはり位置によって意味を知るから。主語や目的語で使われれば「名詞」。名詞に隣接すれば「形容詞」。動詞句に隣接すれば「副詞」といった具合にです。英語文で表現の役割は位置によって与えられる、それが英語で語順が厳密に守られる理由なのです。
主語の位置にあればそれは主語
位置で役割が決まるのは、動詞だけではありません。動詞の前、主語も同じです。
(1)
Ken loves natto. ケンは納豆が大好きです。
Ken(主語)← loves(動詞)
この文でKenが主語だとわかるのは、動詞の前にあるから。典型的な人・モノ(名詞)以外の要素も、この位置に来れば主語となります。
(2)
a. To make friends is not easy. 友人を作ることは簡単ではない。
b. Making friends is not easy. 同上
c. That he survived the crash is a miracle.
彼があの事故で生き残ったのは奇跡です。d. Under the doormat is not the safest place to hide keys.
ドアマットの下はカギを隠すのにもっとも安全な場所ではない。
to 不定詞(a)、動詞-ing形(b)、(that)節 (c)も主語の位置に来れば主語。dの前置詞句も、それほど頻繁に使われるわけではありませんが、主語の位置で使われればやはり主語の役割を与えられます。
文内の位置が意味を決める、その強さは次のような例にも見ることができます。次の例では形容詞が主語となっています。
(3)
Difficult is an adjective.
difficult は形容詞です。
書きことばでは引用符 (“ ”) や斜字体などを用いて通常の使い方ではないことを明示しますが、口頭で言われても、私たちは「主語なのだから名詞のはず。形容詞ではあり得ない。そうか difficult という単語のことなんだ」と了解します。主語という位置を見れば、どういった語句でも名詞として解釈しようと全力を尽くす――それが位置の強制力なのです。
英語は配置のことばであり、表現の最終的役割は文内の位置が決める――これさえ見極めれば後の作業は比較的単純です。配置パターンを同定し、対応する意味を紐付けていけばいいだけです。
実は、配置パターンはごく少数しかなく、英語語順の学習は思いの外容易です。そしてその事実は、日本人が話すに至る道を煌々と照らしています。
それわ英語ぢゃないだらふ
NHKラジオ『ラジオ英会話』講師で、最近ではNHKテレビ『大西泰斗の英会話☆定番レシピ』でも注目の英会話マスター、大西泰斗さん。著書『それわ英語ぢゃないだらふ』は、「なぜ日本人は英語が話せないのか?」という、誰もが思っているであろう疑問をていねいに解説してくれる一冊。英語がどんどん飛び出す体になるための奥義が満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。