NHKラジオ『ラジオ英会話』講師で、最近ではNHKテレビ『大西泰斗の英会話☆定番レシピ』でも注目の英会話マスター、大西泰斗さん。著書『それわ英語ぢゃないだらふ』は、「なぜ日本人は英語が話せないのか?」という、誰もが思っているであろう疑問をていねいに解説してくれる一冊。英語がどんどん飛び出す体になるための奥義が満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。
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文型は動詞の「イメージ」と合致している
第2章でlook-see、tell-say-speak-talk といった、似通った日本語訳となる動詞を例に取り、文型と動詞の相性の話をしました。文型固有の意味と動詞のイメージが合致する必要があるという内容でしたが、それは同時に、日本語訳だけの知識では不自然な文を作ってしまう可能性があることを意味します。こうした例は数多くあります。
(1)
a. I reached Shibuya Station. 渋谷駅に着きました。
b. I arrived at Shibuya Station. 渋谷駅に着きました。
reachは目的語を取る他動型、arrive は自動型で使われます。もちろんそれぞれの動詞イメージと使い方は完全にマッチしており、ネイティブスピーカーならまちがうことなく使い分けますが、「到着する」という日本語訳だけを覚えていてもそれがわからないはずです。
reach は「手を伸ばして掴む」という対象に直接及ぶ動作、ボクサーの「リーチ」を考えれば手に入るイメージです。目的地に手を伸ばして掴みます。
arrive は一方、「足を踏み入れる」という単なる行為。従って自動型で使われ、場所には「どこでその行為が行われたのか」を示す at Shibuya Station などが使われるということになります。
頻繁に見られる discuss (議論する)、 explain (説明する)の後ろに about を使ってしまう誤用も、訳だけで単語を理解しているところから生じています。
(2)
a. We discussed (✕ about) the plan. 私たちはその計画について話し合いました。
b. He explained (✕ about) the plan. 彼はその計画について説明した。
discuss は attack (襲う) に近いイメージをもっています。対象に力を加え・揺り動かして検討する。だから他動型が自然な動詞なのです。
explain は「plain (平ら) にする」。複雑に入り組んだ地形を「平ら」にして見やすくする、そうしたイメージの動詞。力の直接の行使を意味する他動型を取ることに何の不思議もありません。
同様のまちがいやすい動詞に marry (結婚する) もあります。with を付けることはできません。
(3)
My daughter married (✕ with) a British guy.
私の娘はイギリス人と結婚した。
日本語の「結婚する」は、「~と結婚する」と使いますが、marry は他動型で使います。marry は法的な手続きを必要とするにせよ、基本的に誰かを「手に入れる」ということ。get が他動型なのと同じようにこの単語も他動型になるのです。
イメージで理解する:「行為」に感謝するappreciate / 頑固なinsist
イメージとは「これなら使える」と思えるクリアな単語「像」のこと。日本語訳ではここまで到達できない単語は数多くあります。 appreciate (感謝する) と insist (強く主張する) をご紹介しましょう。
(4) レストランの会計で……
A: Let's share the bill this time, OK?
B: I appreciate that, but I insist.
A: Well, the next dinner is definitely on me.A: 今回は割り勘にしましょうよ、いいでしょう?
B: ありがとう。でも今回は私が。
A: それなら次は絶対私が払うわね。
appreciate は「感謝する」。お馴染みの thank よりも一段と深い感謝を表しますが、この2つは使い方が異なります。「感謝する」ではこのちがいにまで届きません。
thank は Thank you. など、「人」が目的語ですが、appreciate は(4)の会話のように相手の申し出・ 行動などが目的語となります。それは thank が「感謝の気持ちで (相手を) 心に浮かべる」のに対し、appreciate の「感謝します」は「評価する (良さ・価値を認識する) 」から生まれているからです。「高く評価する → 感謝する」となるため、目的語は相手の発言・行動となるというわけなのです*25。
次に insist を考えてみましょう。「強く主張する」から、この相手の申し出を固辞するこうした状況で使えるかどうか――私なら使えません。
insist は「in(上に) + sist (立つ)」。自分の考えの上に立って「そこから絶対出て行きません」という頑固さを表す単語です。「(私が払うことについては) 妥協しませんよ、ええしませんとも」と絶対折れない、そうしたニュアンスをもつからこそ、こうした状況で使われるのです。この説明でみなさんの頭には、明瞭な insist の像 (イメージ) が浮かんだはず。このイメージなら自信をもってこの単語を会話で使うことができるはずです*26。
*25 appreciate は「人」を目的語に取らないわけではありません。「評価する」なら当然、使えます。My husband doesn't appreciate me. (私の夫は私の価値をわかってくれない)。
*26 insist の定訳のひとつ「言い張る」はそれほど悪くはありませんが、この訳でも insist のクリアな理解には届かないでしょう。日本語訳、特に辞書の説明は書き手の立場から眺めると非常に不自由です。insist は動詞ですから訳語を日本語の動詞から探さなくてはなりません。ピッタリの日本語動詞がなくても甘んじなければならないのです。こうした長々とした解説が必要な所以 (ゆえん) です。
それわ英語ぢゃないだらふ
NHKラジオ『ラジオ英会話』講師で、最近ではNHKテレビ『大西泰斗の英会話☆定番レシピ』でも注目の英会話マスター、大西泰斗さん。著書『それわ英語ぢゃないだらふ』は、「なぜ日本人は英語が話せないのか?」という、誰もが思っているであろう疑問をていねいに解説してくれる一冊。英語がどんどん飛び出す体になるための奥義が満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。