NHKラジオ『ラジオ英会話』講師で、最近ではNHKテレビ『大西泰斗の英会話☆定番レシピ』でも注目の英会話マスター、大西泰斗さん。著書『それわ英語ぢゃないだらふ』は、「なぜ日本人は英語が話せないのか?」という、誰もが思っているであろう疑問をていねいに解説してくれる一冊。英語がどんどん飛び出す体になるための奥義が満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。
* * *
日本語訳では適切な単語が選べない ~ big と large、little と small
日本語訳による単語学習の、次の弱点は同じ日本語訳となる英単語が複数あるケースが数多くあるということです。日本語訳しか知らなければ適切な単語を選ぶことはできません。big と large、little と small はその好例でしょう。「ここは big なのかな、それとも large がいいのかな」――英語を話そうとしたときに初めて、自分が何も知らないことに気がつく――誰しも経験があるはずです。
「大きい」「小さい」と訳される big-large、 little-small。ですが、イメージは異なります。完全に同じ意味なら2つも単語がいりません、微妙に異なる意味があるからこそ共存しているのです。
たとえば洋服のサイズ。L-M-Sはもちろん L(arge)、M(edium)、S(mall) のことです。big も little も出てはきません。なぜなのでしょうか。順を追って説明しましょう。
まずは big と large。この2つは「奥行き」がまるで異なります。large が単なる寸法上の「大」を表す極めて即物的な単語であるのに対し、big は「大きいなぁ」「でかい!」など、感情的な奥行きを感じさせます。
(1)
a. Wow, that's big (✕ large)! へぇ、でかいねぇ!
b. Los Angeles is a large city. ロサンゼルスは大都市です。
大きさに驚いたとき、「でっかいなぁ」と口を突いて出てくるのは big。一方 large は「大都市」――ただそれだけ。そこには大きさに対する感嘆はありません。
単に寸法を表す large は、「大きな心」「大物」のような比喩的な大きさを表すのも苦手です。
(2)
a. He's got a big (✕ large) heart. 彼は大きな心をもっている。
b. John is a big (✕ large) shot in this industry. 彼はこの業界の大物だよ。
奥行き豊かな big と寸法の large。
感情が宿るlittle、客観的なサイズを表すsmall
まるで同じ対比が little と small にもあります。
(3)
I have a little / small suggestion here.
ここで小さな提案があります。
会社の製品企画会議で意見を述べるとき little と small、どちらが適当でしょうか? 私なら small を選びます。
little には感情が宿ります――「ちっちゃい・ちょこっと提案があるんだけど」。真剣な会議で自分の提案を矮小(わいしょう)化する必要はありません。small を使って「小さな提案がありますが」、これならピッタリです。
逆に、お馴染みの物語「人魚姫」。こちらはどう考えても The Little Mermaid でなくてはなりません。The Small Mermaid では「小人魚」。寸法が小さな人魚を指す名称のようになってしまいます。「ちっちゃくて可愛い」――感情の乗る little が唯一の選択肢なのです。いや、日常繰り返し使われる単純な単語だからこそ、日本語訳には表れない繊細なニュアンスがあるのです。
さて最後に服のサイズがなぜL、M、Sなのかを考えましょう。洋服の選択で問題となるのは「大・中・小」の客観的なサイズ。「ちっちゃいね」とか「でかいなぁ!」と感情を込める必要はまるでありません。だからL、M、S。イメージさえ掴めば何の不思議もありません。
サイズ・距離表現の後ろにある感性
感情的奥行きのある単語と単なる寸法。こうしたコントラストがあるのは「大・小」だけではありません。たとえば broad / wide。broad shoulders にはガッシリと頼りがいがあるといった感触があります。単に「肩幅が広い」 wide shoulders とは受ける感じがずいぶんちがいます。
(1)
a. I like guys with broad shoulders.
ガッシリした人が好き。b. He has wide shoulders.
彼は肩幅が広い。
near / close はどちらも「近く」。多くの場合どちらも使えますが near が2点間の単なる距離であるのに対して close には「肌で感じる」心理的な近さが感じられます。親友は a close friend (✕ a near friend) ですし、事故を起こしそうだったときには That was so close (✕ so near)! (ギリギリだったよ!)となります。
far / distant / remote のうち、単なる「距離が遠い」は far。distant は very far というだけでなく、a distant memory (彼方の記憶)、the echo of distant drums (遠いドラムの響き) など、心理的な距離感を強く伴い叙情的な香りを漂わせます。
remote は今ここと切り離された隔絶感。リモコンは a remote ですが、「手が届かなくても・切り離されていても、使えます」ということなのです。
それわ英語ぢゃないだらふ
NHKラジオ『ラジオ英会話』講師で、最近ではNHKテレビ『大西泰斗の英会話☆定番レシピ』でも注目の英会話マスター、大西泰斗さん。著書『それわ英語ぢゃないだらふ』は、「なぜ日本人は英語が話せないのか?」という、誰もが思っているであろう疑問をていねいに解説してくれる一冊。英語がどんどん飛び出す体になるための奥義が満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。