フランス語の教師をはじめておよそ30年になる中条省平さん。フランス語に挫折してしまったあなたのために、「フランス語の大体が頭に入り、フランス語を恐れる気持ちが消える」ことを目指して書かれた『世界一簡単なフランス語の本』から、フランス語のはじめの一歩をご紹介します。
* * *
「ボンジュール」は「良い一日を」の意味
さて、この章で最後に学ぶ基本動詞は allerです。「行く」という意味ですが、いろいろな使われ方をします。
例えば、フランス語をまったく知らない人でも、フランス語の挨拶といえば、「ボンジュール」と「コマンタレブー」という言葉くらいは聞いたことがあるでしょう。
まずは「ボンジュール」。Bonjour. と書きます。bon という形容詞はもう77~78ページでやりましたね。「良い」という意味です。後半の jour のほうは「一日」という意味なので、あわせて「良い一日を」ということになり、「こんにちは」という挨拶として使われています。
ちなみに、jour からできた言葉に journal があります。「1日ごとに出るもの」「1日ごとに書くもの」という意味から、「新聞」と「日記」の両方の意味になります。journal を仕事にする journalist を英語読みにすれば「ジャーナリスト」となって、「新聞記者」「報道関係者」ということになるわけです。
さて、bonjour は日本では「ボンジュール」といいますが、より正確なフランス語の発音では「ボンジュル」と音は伸びません。
この bon が付く挨拶の言葉はほかにもいくつかあります。
Bonsoir.
日本語では普通「ボンソワール」というカタカナ言葉で知られています。soir は「夕方、晩」の意味ですが、bonsoir はかならずしも「こんばんは」という意味だけではなく、午後4時くらいから「良い夕方をお過ごしください」というニュアンスでも使われます。
Bonne nuit.
これは、形容詞の bon が nuit(夜)という女性名詞に付いて bonne という女性形になった表現です。bonjour、bonsoir はよく使われるので1語になりましたが、bonne nuit は2語のままです。意味は就寝前の「おやすみなさい」ということになります。
「コマンタレブー」「サバ」のフランス語
さて、「コマンタレブー」はどうか? これはフランス語ではこう書きます。
Comment allez-vous ?
発音はこれまでやった規則でできるはずですが、comment の読まない語尾の t が allez とリエゾンして、「コマン・タレ」となっているところは注意してください。それと、vous の正しい発音は「ヴ」であって、「ブー」ではありません。
vousの意味はすでにやりましたね。95ページで、vous は2人称複数の主語であり、「君たちは~」の意味のほかに、「あなたは~」「あなたがたは~」という敬語的な意味も持つと申しあげました。そして、Comment allez-vous ? のvous は、「あなたは~」という敬語的な意味で使われているのです。
また、comment は、英語でいえば how に当たる単語です。つまり、「どのように」という意味の疑問詞です。
そして、allez という単語は、重要な基本動詞 aller(行く)の活用形で 、vous という主語にたいする現在形なのです。つまり、vous allez は「あなたは行く」という意味です。
ただし、vous の語尾の s が、avoir(持つ)の活用である vous avez のときに「ヴ・ザヴェ」とリエゾンしたように、この aller(行く)の場合も、vous allez とリエゾンします。
それから、103ページで、疑問文を作るときには、イントネーションで語尾を上げるやり方のほか、主語と動詞を倒置する方法があるといいました。そして、それについては、機会があったら説明すると約束したのですが、ここでついにその機会が出てきたわけです。
「あなたは行く」という意味の vous allez を、「あなたは行きますか?」という疑問文にするとき、主語と動詞を倒置して(その順番をひっくり返して)、allez-vous とします。ただし、本来の主語+動詞という語順を倒置したという印に、allez と vous のあいだに – というハイフンを置く必要があります。これが、主語と動詞の倒置による疑問文の作り方です。
ですから、疑問詞の comment を最初に置いたあと、主語と動詞をひっくり返して、Comment allez-vous ?となるわけです。
意味は、直訳すれば、「どのようにあなたは行っていますか?」となりますが、人と会ったときの挨拶の表現として、「ご機嫌いかがですか?」「調子はどうですか?」という意味になるのです。
Comment allez-vous ? と聞かれたら、とりあえず、
Je vais très bien.
と答えておきましょう。je vais は aller の1人称単数の活用の形で、「私は行く」の意味です。
très bien もカタカナ言葉で「トレビヤン」といえば聞いたことがありますよね。
très は英語でいえば very に当たる「非常に」という副詞です。bien は「よく、うまく」という副詞であると同時に、「具合がいい」という意味の形容詞でもあります。
カタカナ語の「トレビヤン」の場合は、「非常にいい」という形容詞的な意味で使われているのです。
いっぽう、Je vais très bien. の bien は、「よく」という意味の副詞で、これに très(非常に)というもうひとつの副詞がかかって、「非常によく」という意味に強まっているわけです。直訳すれば、「私は非常によく行っている」ということになり、Comment allez-vous ?(調子はどうですか?)という質問にたいして、「私の調子はとてもいいです」と答えていることになります。
もちろん、調子のよくない日だってあるわけですが、多くの場合はComment allez-vous ? にたいして、Je vais très bien. と答えるのが普通です。
私たち初心者は、もちろん Je vais très bien. と答えるべきです。「このところちょっと胃の具合がよくなくて」などと答えるフランス語を知らないからです。
それでも、「とてもいい調子」と答えるのに躊躇してしまう人は、強めの très(とても)をとって、Je vais bien.(まあいい調子です)くらいに答えておけばいいでしょう。
「サバ?」の返答は「サバ」でOK
フランス語の挨拶の表現といえば、もうひとつ、Bonjour. や Comment allez-vous ? と並んで頻繁に使用される表現に、
Ça va ?
というのがあります。
相手から Ça va ? と語尾を上げるイントネーションで尋ねられたら、こちらは、語尾を下げるイントネーション(普通の調子)でÇa va. と返せばいいので、じつに簡単です。また、Ça va ? は、Bonjour. や Comment allez-vous ? より親しみのこもった感じを出せるのもいいところです。機会があったら、ぜひやってみてください。
さて、ここで初めて出てきた ça という言葉は、「それ」という意味の代名詞で、ここでは「それは」という意味の主語に使われています。
va のほうは、さきほどから出てきた aller(行く)という動詞の3人称単数の活用形です。つまり、ça va というのは、直訳では「それは行く」ということですが、「調子がいい」という意味で使われるのです。
したがって、Ça va ? ─ Ça va.という会話は、「調子はいい?」「いいよ」という意味のやり取りで、親しみをこめた(くだけた)挨拶の決まり文句として使われるのです。
世界一簡単なフランス語の本
フランス語の教師をはじめて約30年の中条省平さん。フランス語に挫折してしまったあなたのために、「フランス語の大体が頭に入り、フランス語を恐れる気持ちが消える」ことを目指して書かれた『世界一簡単なフランス語の本』から、フランス語のはじめの一歩をご紹介します。