フランス語の教師をはじめておよそ30年になる中条省平さん。フランス語に挫折してしまったあなたのために、「フランス語の大体が頭に入り、フランス語を恐れる気持ちが消える」ことを目指して書かれた『世界一簡単なフランス語の本』から、フランス語のはじめの一歩をご紹介します。
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「動詞の90%をマスターする」の真実と嘘
タイトルからいきなり「動詞の90%をマスターする」とのこと。大きく出ましたね。この断言には真実と噓が含まれています。
この章で主に扱う動詞は、「第1群規則動詞」と呼ばれるものです。この名前だけでやりたくなくなりますね。
別名「er動詞」といいます。読み方は「ウエル動詞」です。この種の動詞の不定詞(原形)の語尾は必ず ~er になるので、e と r を合わせ、「ウエル動詞」というのです。「ウ」と「エル」というのは、アルファベットの読み方です。
フランス語の動詞は、さまざまな活用のパターンによって60から90種類くらい(かなり大ざっぱですね)に分類されるのですが、そのなかには普通の人がほとんど使わない動詞もありますし、面倒なのでこの話はとりあえずやめましょう。
しかし、まことに幸いなことに、それらの動詞の90%ほどがer動詞で、その活用のパターンはすべて同一なのです。ですから、er動詞の活用をマスターすれば、フランス語の動詞の活用の90%はマスターできたことになります。
ただし、頻繁に使う動詞の活用は er 動詞の活用のパターンには当てはまらないことが多いのです。すでに学んだ être も、avoir も、そのパターンには当てはまらない不規則な活用でした。aller という動詞の活用もやりましたね。aller は、語尾が ~er になっているのに、er動詞の活用とはまったく異なる活用をします。
さきほど、「動詞の90%をマスターする」という断言には真実と噓が含まれています、と申しあげました。
たしかに、er 動詞がフランス語の動詞の90%を占めているので、er動詞の活用をマスターすればフランス語の動詞の活用の90%をマスターすることになる、というのは一面の真実です。しかし、ふだん頻繁に使う動詞は er 動詞でないことが多いのです。そういう動詞は er 動詞の活用をしないので、違う活用を憶えなくてはなりません。したがって、er 動詞の活用のパターンを憶えたからといって、フランス語でよく使われる動詞の活用の90%をマスターできたことにはなりません。つまり、本章の表題である、フランス語の「動詞の90%をマスターする」というのはその意味で噓だということになります。
parler(話す)で学ぶ er 動詞の活用パターン
でも、気を落とさないでください。まずは、フランス語でいちばんよく使われる er 動詞の活用のパターンを憶えてしまいましょう。そうすれば、ちょっと大げさ、いや、かなり誇大広告ではありますが、フランス語の動詞90%の活用パターンを一応マスターしたことになるのですから。
(中略)
さて、er動詞の何を使って活用を学ぶかという問題でした。
chanter(歌う)や danser(踊る)より普通によく使う動詞があります。parler です。意味は「話す、しゃべる」ということで、語学の勉強にはまことにふさわしいし、日常会話での使用頻度もきわめて高いものです。parler でやってみましょう。
おっと、その前に、まだ er 動詞の不定詞(原形)の読み方を説明していませんでしたね。
フランス語の綴りと発音の関係をやったとき、careful の原則に触れました。つまり、単語の語尾に出てくる単独の子音は原則として発音しないが、c、r、f、l は発音することが多い、というものです。ところが、動詞 aller(行く)を初めて学んだとき(90ページ)、この動詞の不定詞(原形)である aller の場合、careful の規則に反して、語尾にある r は発音しない、と申しあげました。つまり、aller は「アレ」と発音します。er動詞の不定詞(原形)の場合も、aller と同じく、chanter、danser、parlerのように、語尾の r は発音しません。
それでは、parler の活用をやってみましょう。
je parle 「私は話す」
tu parles 「君は話す」
il parle 「彼は話す」
elle parle 「彼女は話す」
主語が単数の場合は以上のようになります。動詞の活用形の発音はすべてまったく同じです。ただし、tu のときだけ、動詞の語尾に s が付くのですが、発音はしません。まあ、簡単といっていいでしょう。それもそのはず、フランス人はみんな自然にこの活用をしているわけですから、難しいはずはないのです。
次は、主語が複数の場合です。
nous parlons 「私たちは話す」
vous parlez 「君たち(あなた/あなたがた)は話す」
ils parlent 「彼らは話す」
elles parlent 「彼女らは話す」
ほかの活用パターンをとる動詞でも、nous が主語のとき動詞の語尾が ~ons になり、vous のときに ~ez になるケースがほんどを占めています。ですから、この nous+~ons と vous+~ez という活用の形を基本形として憶えておいてください。
問題は、ils parlent、elles parlent の場合です。このケースでは、動詞の語尾に ent が付いているのに、けっして読みません。したがって、この活用形の発音は、単数である je、tu、il、elle が主語の場合とまったく変わらないのです。
そして、動詞の3人称複数の活用形の語尾は、ほとんどの場合、~ent になります。ですから、ils+~ent、elles+~ent の活用で、動詞の語尾の ent は絶対に発音しない、ということを重要な原則として憶えておいてください。
例文をやってみましょう。
Ils parlent le français en France.
初めて出てきた単語が2つ。1つ目の français は「フランスの」という意味の形容詞でもあり、「フランス語」という男性名詞でもあります。ここでは、定冠詞の le が付いているので「フランス語」のほうです。
また、en は、そのあとに場所を表す名詞が来ることの多い前置詞で、「~において、~で」という意味です。英語でいえば、in に近い働きをします。
それから、parler という動詞は、単に「話をする、おしゃべりをする」という意味で単独で使うこともできますし、この例文のように、後ろに目的語(この場合は le français)を付けて、「~を話す、~をしゃべる」というように使うこともできます。前者のように単独で使うとき、動詞は「自動詞」と呼ばれ、後者のように目的語を従える場合、動詞は「他動詞」と呼ばれます。
というわけで、例文の意味は、「彼らはフランスでフランス語を話す」。
例文をもうひとつやってみます。
Nous dansons souvent dans une boîte.
初めて出てきた単語 boîte は「クラブ、ディスコ」の意味で、oî という綴りはアクサンとは関係なく oi と同じ発音になります。
もうひとつ、初出の souvent は「しばしば」という意味の副詞です。
dans はすでにやった「~のなかに、~のなかで」という意味の前置詞ですね。ですから、全体の意味は、「私たちはあるクラブでよく踊る」となります。
世界一簡単なフランス語の本
フランス語の教師をはじめて約30年の中条省平さん。フランス語に挫折してしまったあなたのために、「フランス語の大体が頭に入り、フランス語を恐れる気持ちが消える」ことを目指して書かれた『世界一簡単なフランス語の本』から、フランス語のはじめの一歩をご紹介します。