世界共通語だといわれるサッカー。でも、サッカーを語る言葉にはそれぞれの国の文化や歴史が反映されているのです。語学は仕事や資格のためのものだけではありません。サッカーを通じて、言語の多様さや深さに触れてみるのはいかがでしょうか? 『DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典』より、昨年ワールドカップカタール大会での日本対戦国の言葉を一部抜粋してご紹介。決勝トーナメントはクロアチアに敗退しましたが、この「表現事典」があればこれからもっとサッカーが楽しめそうです。
Croatia クロアチア
特徴的な紅白チェッカーのユニフォームが世界的に有名なクロアチアは、1992年にFIFA、93年にUEFAに承認されると、たちまち国際的にインパクトを残しはじめた。イングランド開催のユーロ 1996でメジャー大会にデビューして準々決勝に進出すると、ミロスラヴ・“チーロ”・ブラジェヴィッチ監督の代表チームは、1998 年フランス・ワールドカップで3位という輝かしい成績を収めて世界を震撼させる。この時、ダヴォル・シュケルも6ゴールでゴールデン・ブーツ(得点王)に輝いた。1990年代にズヴォニミール・ボバンやロベルト・プロシネツキが確立したスタイリッシュな組み立ての伝統は、現代のルカ・モドリッチに受け継がれている。
đelitelj pravde ヂェリテリ・プラヴデ 正義の行使者
審判の大げさな言い方。クロアチアでは、審判を務めるとは病的な執着を持つことであり、マテオ・ベウサンもその1人である。この口ヒゲの元審判はクロアチアのTVではお馴染みの顔で、議論を呼ぶジャッジについて彼が判断を下すOko sokolovo(オコ・ソコロヴォ、「鷹の目」)というコーナーでお茶の間の有名人になった。
kupite mu pregaču クピテ・ム・プレガチュ エプロンを買ってやる
クロアチアでは股抜きをtunel(トゥネル、「トンネル」)と言う。相手の股間を次々と抜いたら、被害者のチームメイトに「あいつにエプロンを買ってやれよ」と冷たく言ってやれるだろう。
močvara モチュヴァラ 泥沼
クロアチアでモチュヴァラという言葉は、長年にわたって買収と依怙贔屓(えこひいき)が横行し、熱いファンを大いに苛立たせ落胆させる、トップレベルのフットボールの恥ずべき状態を指す。その象徴的人物が、クロアチア・サッカー界でもっとも力があるとされたズドラヴコ・マミッチである。
クロアチア・サッカー連盟(HNS)元副会長で、クロアチア最大のクラブ、ディナモ・ザグレブ会長でもあったマミッチは、マネー・ロンダリング、租税回避、およびジャーナリストや政治上のライバルたちへの身体的脅迫の罪で起訴されている。もう1人のHNS元副会長で元審判のジェリコ・シリッチは、試合での「公正な」ジャッジングの保証として複数のクラブから献金させた罪で、2014年に禁固4年の有罪判決を受けた。選手や監督の側も、2010年に20人がスポーツ賭博詐欺で逮捕された。
nogomet ノゴメト フットボール
イギリスが世界にフットボールを伝える役割を果たしたという史実から、大多数の国がフットボールを呼ぶのにfootballかsoccerという英語名のバリエーションを使っている。しかし、クロアチアとボスニアとスロヴェニアでは違う。フットボールはノゴメトと言うのだ。スラヴトコ・ルツネル・ラドミロヴィッチという言語学者がこの言葉を発案したと言われている。1893年、ザグレブのマジュラナツ公園で、学生たちがボールを蹴って遊んでいるのを見た時のことである。これは、noga「足」とmet「的」の複合語で、この場合の的はゴールだ。クロアチアもボスニアもスロヴェニアも当時のオーストリア・ハンガリー二重帝国の一部で、この3か国すべてでノゴメトが採用されたが、隣国のセルビアではそうならなかった。セルビアではこのスポーツをfudbol(フドバル)と呼ぶ。
promašio večeru プロマシオ・ヴェチェル ご馳走を逃す
簡単なチャンスを無駄にすることを、口語でこう言う。こんな選手は、mrtva šansa (ムルトヴァ・シャンザ、「死んだチャンス」)からの派生で、mrtvac(ムルトヴァツ、「死人」)と呼ばれるだろう。
rašlje ラシュリェ ダウジングロッド
ゴール枠のポストとバーの作る角を、クロアチアでは、水脈や鉱脈を探す棒、ダウジングロッドに似ていると考える。また、ゴール上隅に突き刺さるシュートはski-nuti paučinu(スキヌティ・パウチヌ)、つまり「クモの巣を払う」と言う。
DO YOU SPEAK FOOTBALL?
『DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典』に学ぶ自由で豊かなサッカーの言葉