NHKラジオ『ラジオ英会話』講師で、最近ではNHKテレビ『大西泰斗の英会話☆定番レシピ』でも注目の英会話マスター、大西泰斗さん。著書『それわ英語ぢゃないだらふ』は、「なぜ日本人は英語が話せないのか?」という、誰もが思っているであろう疑問をていねいに解説してくれる一冊。英語がどんどん飛び出す体になるための奥義が満載の本書から、一部を抜粋してご紹介します。
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英語と日本語の「謝り方」の違い
みなさんは料理をすることがありますか。私は稀ですが、作るときにはレシピを調べその通りに作っています。レシピ通りですから格別においしいとは言えませんが、簡単で失敗もありません。
「状況別の発言パターン」もそれと似ています。状況が与えられれば、リソースには材料と調理の仕方が載っており、苦もなく完成します。もちろんネイティブの会話上手なら、適宜アレンジを繰り出しながら極上の一品に仕上げることもできますが、最初はレシピをしっかりと身につけることが大切です。
まずは謝罪のリストをご紹介しましょう。どういった要素がどの様に使われるのか、料理のレシピを見るような心持ちでお読みください。
謝罪にはさまざまな表現がありますが、個々の表現と同じくらい大切なのは、英語のクセを知ることです。英語は「言語化」を好むことば。日本語とは対照的です。日本語が「秘すれば花」の、余計なことを言わないことばだとすれば、英語は細部に至るまで言語化することばなのです*42。
謝罪の場合には、このちがいが大きく表れます。日本語なら「すみませんでした」で通用する状況であっても、英語では「理由」などを付け足さないと、ことば足らずの印象を与え、最悪相手の心証を悪くしてしまいます。
謝罪パターン1 謝罪→理由
さて、それではいくつか謝罪の具体例を眺めてみましょう。
(1) Sorry I'm so late. The traffic was really heavy this morning.
すごく遅れてしまいすみません(謝罪)。今朝は道がひどく混んでたのです(理由)。(2) I'm awfully sorry for the slow service. Unfortunately, we are short-staffed this evening.
サービスが遅れて大変申し訳ありません(謝罪)。あいにく今晩はスタッフの人数が足りないのです(理由)。
謝罪のことばに「理由」を加えるパターンです。謝罪のことばだけで終わると、相手は「理由を聞かせてもらえないくらい私は軽視されているのかもしれない」と考えてしまうこともあります。謝罪のことばで終わらないことがとても大切なのです。
(1)の Sorry I'm so late.は、何が sorry(申し訳ない)なのかを後ろに置いた節が展開する説明ルールの形です。
(2)はお客様に対する謝罪です。awfully(ひどく)が申し訳なさを強調し、礼儀正しい謝罪となっています。awfully の代わりに terribly(ひどく)を加えてもいいでしょう。
unfortunately 以下が「理由」。short-staffedは「人手不足の」。staffの人数が足りない(short)だということです。
謝罪パターン2 謝罪→約束
(1) Sorry. It's my fault. It won't happen again.
ごめん。僕のせいです(謝罪)。もう二度とこんなことはしません(約束)。(2) I'm really sorry about that. I guarantee that the problem will be solved very soon.
それにつきましては、大変申し訳ありません(謝罪)。すぐに問題が解決することを保証致します(約束)。
こちらも重要パターンです。「約束」が謝罪に加えられています。(2)は仕事上の謝罪です。問題解決を確約することにより、真摯な態度が伝わります。
謝罪には「理由」「約束」以外にもさまざまな要素が加えられます。次の食事の誘いを断る状況を眺めてみましょう。
(会社で偶然出会った顧客に食事に誘われて)
Client: Can we have lunch today?
今日昼食を一緒にできますか?(1) I'm sorry, I can't. I have a meeting now.
申し訳ありません、できかねます。これからミーティングなのです。(2) I'm sorry. l'd love to, but I have to make a presentation in 15 minutes, so I can't.
申し訳ありません。ご一緒したいのですがプレゼンが15分後に控えているため、むずかしいのです。(3) I'm sorry. I wish I could, but I have to make a presentation, so I can't. How about tomorrow?
申し訳ありません。ご一緒できればいいのですが、プレゼンテーションをしなくてはならず、むずかしいのです。明日はいかがでしょうか?
(1)では簡単ですが理由が述べられています。これが最低限の応答です。
(2)はさらに I'd love to(=I would love to), but~によって、「願望」を加え好感度を上げています。
(3)では仮定法 I wish I could.「[実際にはできないが]できたらいいのですが」で「願望」を表しているだけでなく、さらに How about~?(~はいかがでしょうか?)と「代案」を加えています。ここまでできれば、会話上手。断られたことを不快に思う人はまずいません。
謝罪パターンだけでなく、ことばを尽くす、英語の基本的な態度を身に付けてください。
謝罪パターン3 apologize を使う、深刻な状況での謝罪パターン
「I'm sorry. では謝罪が足りない」と思ったとき、使われるのが apologize(謝罪する)という動詞です。sorry は「悲しい・残念です」と心の痛み全般を表す単語。「謝罪」に特化した単語ではありません。apologize からはしっかり「謝罪」が響くのです。
(1) I apologize. I'll get you a new one. 謝罪理由
ごめんなさい。新しいのを買ってくるよ。(2) Allow me to apologize. I'll make a new one right away.
(オーダーをまちがえた店員が) 謝罪させていただきます。新しいものをすぐに作りますので。(3) Really? I do apologize. Let me check that again.
(誤って多く請求してしまった店員が) 本当ですか? 深くお詫び申し上げます。もう一度確認させてください。
(1)は、友達の持ち物―たとえばカメラを壊してしまった状況。 apologize を使って、sorry より一段上の謝罪を表しています。
(2) はオーダーをまちがえてちがうものをもってきてしまった状況。allow (許す)が用いられ、「私が謝罪することをお許しください」という大変丁寧な謝罪となっています。
(3)は誤って過剰に請求してしまった店員が謝罪している状況です。助動詞 do を用いて謝罪の強調が行われています。こちらもしっかり慣れていただきたい形です。
さまざまな謝罪のフレーズを取り上げましたが、ネイティブスピーカーたちにとってこれらはすべて、考えることなく「自動的に」口から出てくるフレーズ。すべてはリソースのリスト中にあるのです。私たちも流暢に話したければ、音読・暗唱などを通じて同じリソースをもたねばなりません。
*42 言語化を好むことばと好まないことばがあることは以前から指摘されています。低文脈言語(文脈任せにせず言語化を好むことば)と高文脈言語(言語化を好まないことば) のちがいを深く考察した本に、文化人類学者 Edward T. Hall の著作 Beyond Culture があります。
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それわ英語ぢゃないだらふ
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