英語もまるで話せないなか突如アメリカ永住権が当たった「41歳男」の“キラキラゼロ暮らし”を、絶賛連載中(→第1回から読む)の黒川祥志さん。英語が話せない、というのは実際どれくらいのレベルで、どんなご苦労が……? 現地に住んで2年は経ついま、ペラペラな日常は目前なのでしょうか? リアルな英語生活と勉強法について、ご寄稿いただきました。
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お邪魔します。アメリカ移民の黒川祥志です。グリーンカード(アメリカ永住権)のクジ引きに当選して、2020年にアメリカへ移住し、幻冬舎plusさんでその体験を連載しています。
今回はその縁で、「英語学習」をテーマに体験談を書いていきます。
失敗談や苦労話しかないので、「他人のふり見て」という感じで読んでいただければ幸いです。
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アメリカに住んで2年経つが、僕はいまだに英語ができない。
だが、学生の頃から英語が苦手だったかといえば、そうではない。自慢だが、入試の頃の偏差値は65~70くらいだった。
ただ、受験用に学んだ英語と実際に使う英語はまったく違う。
まず、スピードが全然違う。
早口というのではない。英語は日本語のように単語を1つ1つはっきり言うのではなく、リエゾン(単語と単語の音をつないで話す)を使うため、早く聞こえる。
たとえば「Get rid of(取り除く)」という熟語。日本語で発音すれば「ゲット リッド オブ」となるが、実際は「ゲゥリロゥ」みたいな感じだ。
この熟語を知っていても、正確に聞き取れず、ヤクザ映画の「ごらぁ、われぇ!」に聞こえてしまう。
毎日が空耳アワーだ。
慣用句も学校で習わなかったものが多い。
たとえば、「Snake Oil」。直訳すると「蛇油」。
知人がビーガンミートに対して「It’s a Snake Oil」と言ったので、僕は「ビーガンやのに蛇使ってんの?」と笑いそうになったが、そうではない。「まがい物」を意味する。
「ビーガン関係で動物の入った単語を使うな、ややこしい」としか言えない。
使い方で意味が変化する単語もある。
「Bomb」は「爆弾」だが、「I bombed it」と言えば「失敗した」、「This is the bomb」と言えば「最高!」になる。
僕はYouTubeなどの動画編集を仕事にしているが、編集した動画を雇用主に見せたとき、笑顔で「It’s the bomb」と言われたことがあった。
「失敗」の意味しか知らなかったので、「なんか変な地雷でも踏んだ?」と戸惑った。
ここまでは受動的な苦労だが、能動的なものもある。
言いたい言葉が出てこない、なんていうのは序の口だ。僕レベルになると、挨拶すら困る。
学校で「How are you?」は習うが、「How’s it going?」や「What’s up?」という言い回しは習っていない。
しかも、面倒なことに、それぞれに返答の仕方が違う。
「How’s it going?」の返事は「How are you?」と同じく「Good」だが、「What’s up?」に「Good」とは返答せず、「What’s up!」や「Nothing」と返す。
「How’s it going?」に「How’s it going?」と返答するのも違う。
「うぃーす」のような、そのまま返せばいい挨拶を万国共通にしてほしい。
知識だけでは対応できないこともある。
挨拶の壁を乗り越え、英語で「It’s warm today(今日は暖かいなぁ)」なんて調子こいたら地獄だ。
「warm」が正しく発音できない。
「warm(ワーム・暖かい)」と「worm(ワーム・虫)」の発音を区別なんてできるか。
こっちからしたら、文脈で分かってよ、と思うが、「ar」と「or」の音が違うと、まったく別のことを言っているように聞こえるらしい。
こういう時、日本にいる外国人に「はし」の区別で地獄を見せたくなる。
和製英語も苦労の種だ。特に、電化製品は和製英語が多い。
職場に初めて行った時、ノートパソコンを使おうとして、コンセントの場所を聞いたものの、まったく通じない。
その場でググって、Lap Top(ノートパソコン)とOutlet(コンセント)という単語がヒットしてようやく解決できた。
ちなみに、「ググる」は英語でも「Google」単体で動詞として使えるから不思議だ。
学生時代には頑張って試験用に英語を勉強したのに、その経験は何も生かされていないことをわかっていただけたか?
とはいえ、僕は「日本の英語教育は」なんてことを言う気はない。
正直言うと、学校を卒業してから、洋画を見たり、洋楽を聞いたりはしていたものの、英語の勉強は一切しなかった。
つまり、この状況は自己責任でしかない。
これを読んでいる方の中には、英語学習に興味がある、もしくはこれから留学する、海外移住する、という方もいらっしゃるだろう。
今からでも遅くないと思うので、ご自分に合った「役に立つ英語の勉強法」を始めてもらいたい。
なぜなら、僕はそれをしなかったから、困っている。これほど説得力のある言葉はない。
ただ、どういうものが「役に立つ英語の勉強法」なのか?
それは、英語のできない僕が言っても説得力に欠けるので、ここからは僕が試した「役に立たない勉強法」を紹介する。
僕は映画が好きで、しかも映画館で見たい派なので、アメリカでも英語の映画を字幕なしで鑑賞する。
これは英語学習には本当に役に立たない。
言葉がわからない映画を見ると、行きつく先は2つしかなく、「ストーリーがわからず寝てしまう」か「ストーリーがわからなくても画力とかで感動して満足してしまう」、いずれかで終わる。
昨年、トム・クルーズ主演の「トップガン・マーヴェリック」を見た。
任務の内容、敵の情報、仲間との確執の原因など、一切理解してないが、最後にトム・クルーズが死んだ親友の息子といい感じになっているのを見て泣いた、だけだった。何も学んでない。
ちなみに、この逆パターンも役に立たない。
日本に一時帰国をした時に、「鬼滅の刃 無限列車編」を映画館で見た。
アメリカでも人気があり、YouTubeの映画レンタルで、英語字幕版も出ている。英語の勉強という名目で、僕はもう一度見た。
そして、煉獄さんの戦いに心を燃やし、感動して泣いた、だけだった。
「母上、俺の方こそ、貴女に産んでもらえて光栄だった」という彼の名言を英語でなんて言うか、僕は知らない。親に申し訳なく思う。
英語と日本語の字幕が両方あれば、いい勉強になる、というのも考えたことがある。
僕は漫才やコント、落語とかが好きなので、Netflixでアメリカ人のスタンダップコメディをたまに見るのだが、なかでもDave Chapelleという黒人コメディアンにはまった。
単語の使い方や、オチへの流れが日本人好みだと思ったのだ。
彼の使う英語を勉強すれば僕の英語力も上達すると思い、英語字幕と日本語字幕をPCに書き出し、英語の聞き取り、言葉の意味、英語特有の言い回しなどを勉強しながら、大事なことに気付いた。
彼のネタは悪口や下ネタを軸に、FワードやNワードばかりで、日常では使えないことに。
ここまでくると、勉強法の問題だけでなく、僕の根本的な部分を治さないとダメな気がする。
とりあえず、僕は英語の勉強法を勉強します。
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グリーンカード当選男のNY移民ぐらし
当選確率1%以下といわれるアメリカ合衆国のグリーンカード(永住権)のくじを引き当て、NYに移住した41歳の著者。しかし英語もできないまま移民となった著者を待ち受けていたのは、キラキラとは無縁の泥臭いNY生活だった。グリーンカードにはどうやって応募するのか? 当たったあとはどんな手続きが待っているのか? アメリカに渡ってからの生活はどんな感じか? グリーンカード当選者が不器用に生きるリアルな日常を、赤裸々につづります。
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