大学在学中に英語を学び、カナダでフリーランスデザイナーになった新井リオさん。「なぜ英語が話せるようになりたいのか?」を自分なりに咀嚼し、努力へと結びつける姿が詰まった著書『英語日記BOY』は、独自の英語学習法を教えてくれるだけでなく、勉強する気持ちを盛り上げてくれる一冊です。3回にわけて、一部を抜粋してお届けします。
英語にお金は必要か?
既存の英語学習には、総じて高額な費用がかかる。
「まずはお金を貯めなければ」とバイトを増やしたり、節約に励む人がいるかもしれない。昔の僕もそうだった。
しかし、英語を話したい人が最初にやる努力は、本当に「お金を貯めること」なのだろうか?
たぶん、違うと思う。
そこで、改めてこんなことを考えてみる。
「自分はなぜ英語を話せるようになりたいのだろう?」
「自分はどんな分野における、どのくらいの英語力が必要なのだろう?」
自分と英語の関係性をこれまでにないほど深掘りした結果、こんな問いにぶつかった。
そもそも、英語が話せるってなんだろう?
何をクリアしていたら「英語が話せる人」と言えるのだろうか?
ペラペラって言うけど、どこからがペラペラなのか?
根本的な部分がまったくわかっていないまま、「とりあえずお金を貯めて留学する」ことを目指していた自分に気がついた。
わかった。
僕たちがまずやるべきことは、どんな条件を満たせば「英語が話せる」と言えるのかを考えること。
つまり、「英語が話せる」の定義を自分で決めるということだ。
来日ツアーのショック
2013年8月12日、僕の「英語が話せる」の定義が決まった。
この日に起きた出来事をまとめてみる。
Duck. Little Brother, Duck! という高校生の頃から憧れていたアメリカのバンドがいる。CDやレコードを全て持っている程好きなバンドだ。幸運にも、東京で行われた彼らの初来日ライブで、僕のバンドPENs+は共演を果たした。
終演後に彼らと話すチャンスがあった。とても緊張するが、何か伝えたい。
「実は高校生の頃からずっと聴いてたんです!」
こんなことを言おうと思った。
しかし実際は悲惨だった。“I listened to your music…”まで言ったところで、(あれ“listened”だと、ただの過去形だから「聴いた」になっちゃう)と気づく。憧れのミュージシャンを前に「ずっと聴いてきた」という、こんなに簡単な表現すらわからない自分にショックを受け、何も言えなくなってしまった。
あとで調べてみると、僕が彼に言いたかった英語の正解は、
I’ve been listening to your music since I was in high school!
高校生の頃から、あなたの音楽をずっと聴いています!
というらしい。文章自体はそこまで難しくない。ゆっくり冷静に考えれば、当時の自分でも作れなくはない英文だった。それでも、自分の口から瞬時に出すことができなかった。
逆に言うと、もし僕が「英語が話せる人」であれば、この英文が「瞬時に出てくる」はずだった、ということだ。
会話は「フレーズ」の連続
とはいえ、この英文を「丸暗記」していればよかったのかというと、そういう訳でもない。僕たちは日本語を話すが、暗記した文章をそのまま口から出している感覚はない。
それに、ただ暗記した文章はいつか忘れてしまう。学生のときあれだけ頑張って音読した教科書の例文を、いまではまったく言えなくなっているように。
では「単語」を覚えていれば文章を話せるようになるのか?
それも違う。
「I」や「listen」「high school」だけでは、文章は成り立たない。
ここで僕は次の仮説を立てた。
英語が話せる人とは、いくつかの「単語」のかたまり、つまり「フレーズ」を数多く知っていて、それを「瞬時に組み立てる能力」を持っているのではないか?
よく考えてみれば、会話とは「フレーズの連続」である。
「英語が話せる」と聞くと、10分でも20分でも、ネイティブスピーカーを相手にペラペラと英語が出てくる人のイメージが浮かぶ。しかし、誰も「文章を全て暗記している」わけではない。その瞬間に最適な「オリジナル英語フレーズ」が即座に出てきて、それを無意識レベルで組み立てることで「言葉」として成立させているのだ。
こうして、僕のなかの「英語が話せる」の定義が明確になった。
英語が話せるとは、
「いま言いたいオリジナル英語フレーズが瞬時に出てくること」だ。
これで間違いない。
「英語が話せる人になる」では曖昧すぎる。
「いま言いたいオリジナル英語フレーズが瞬時に出てくる人」になるための努力をするのだ。
「英語日記」というアイデア
2014年夏。20歳の誕生日、僕はアメリカにいた。
前年のアメリカバンドの来日ツアーから1年が経ち、次は自分がアメリカに行くことを決意したのだ。
ロサンゼルス郊外で、昔から好きだったアメリカのバンドのライブがあった。しかしその会場は、宿から電車とバスを乗り継ぎ3時間以上かかる僻地にあった。終演予定時間には終電もなく、「行ってしまったら帰れない」ことが確定していた。
それでも僕は行った。
いま考えると浅はかだったが、野宿をすればいいと思った。
初めてアメリカで観た大好きなバンドのライブは格別だった。しかし、終演後からが本番だった。
外に出て野宿できそうな草陰を探していると、その挙動が不審だったのか、同じくライブを見に来ていたひとりのアメリカ人が「どうしたの?」と話しかけてくれた。Joseph(ジョセフ)という25歳の青年だった。
拙い英語で事情を説明すると、「危ないから野宿は絶対にだめ!」と言い、車で僕を宿まで送ることを提案してくれた。
深夜、というかほとんど明け方に僕の宿に着き、彼はいまから、再び数時間かけて家に帰ると言う。
申し訳なさ、感謝、色々あるが、自分の英語力不足のせいで、“I’m sorry, Thank you.”くらいしか出てこない。
すると彼は、こう言ってくれた。
Don’t say sorry, we’re friends. I’m always here for you.
ごめんはいらないよ。僕たちは友達だから。いつでも味方だよ。
“I’m always here for you.”(いつでも味方だよ。)
あまりにかっこいいフレーズだったから「もう一度ゆっくり言って」とお願いし、毎日つけている日記帳の端にメモした。彼は恥ずかしそうだった。
「英語日記」のはじまり
宿に戻り「感謝 英語表現」とネットで検索したら次のフレーズが出てきた。
I appreciate your kindness.
あなたの優しさに感謝します。
このフレーズを、彼にメールで送った。
そして、日記にメモした「彼の言葉(I’m always here for you.)」の横に、いま送った「感謝のフレーズ(I appreciate your kindness.)」も書き留めておいた。
次にこのような素敵な出会いがあったとき、すぐに感謝を伝えられるように。僕はもう「言えなくて悲しい」と後悔したくなかった。
そのとき、あることに気づく。
そうか、僕は「いつか自分が言うであろう英語フレーズ」を、先回りして知っていなければならないんだ。
そして再び考える。
「この先どんなことを英語で話すんだろう?」
未来の生活を完全に予測することはできないが、今回のジョセフとの出会いでもわかったように、最低限「今日起きた出来事」や「今日抱いた感情」のなかで、特に「言えるようになりたいと思ったフレーズ」をいまのうちに練習しておけば、いつか再び海外に行ったとき、必ず使うチャンスがくるはずだ。
「今日起きた出来事」と「今日抱いた感情」か…
ん? それってつまり「日記」じゃないか?
日本語の日記に書いてしまうような内容が全て英語で言えるようになれば、僕にとっての「英語が話せる」をクリアできる。
また、日記に出てくる言葉には必ず「ドラマ」があった。
来日バンドに伝えられなかった「高校生の頃から聴いてきたんです」というフレーズ。ジョセフに伝えられなかった「感謝を伝える」フレーズ。
どれも、教科書例文とは比べ物にならないくらいの思い入れがある。実際に日常で出会った「ドラマのあるフレーズ」を、僕たちは忘れないのだ。
決めた。
僕は「日記」で英語を勉強する。
これが「英語日記」のはじまりだった。
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