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星降る夜に

2023.03.27 公開 ポスト

第3話 遺品には、その人の生き様がつまってるからさ大石静(脚本家)

テレビ朝日系 火曜21時ドラマ『星降る夜に』の感動を完全収録したシナリオブックがついに発売!
心ときめく大人のピュア・ラブストーリーから、一部試し読みをお届けします。

★人物紹介★

雪宮 鈴(吉高由里子)……産婦人科医。常に冷静に振る舞い、誰かに頼ることが苦手。息抜きに行ったソロキャンプで、10歳下の柊一星と運命の出会いを果たすことに。

柊 一星(北村匠海)……遺品整理士の青年。感情豊かで明るい性格。音のない世界を生きる。手話や筆談などで会話をする。偶然出会った雪宮鈴に一目惚れする。

佐藤 春(千葉雄大)……一星と同じ職場に勤める遺品整理士。親友であり、先輩でもある一星のことを心から尊敬している。

麻呂川 三平(光石 研)……「マロニエ産婦人科医院」の院長。道化した言動も多いが器が大きい男。釣りが好き。

北斗千明(水野美紀)……「遺品整理のポラリス」の社長。一星が遺品整理士になるきっかけを作った人物。

佐々木 深夜(ディーン・フジオカ)……45歳の新米医師。美しい風貌とは裏腹に、衝撃的なヘタレポンコツで、病院中のスタッフから毎日叱られている。

別の道

2話ラストより、

一 星「(ゆっくりと手話で)雪」

  「雪」

一 星「(手話で)宮」

  「宮」

一 星「(手話で)鈴」

  「鈴」

一 星「(手話で)好き」

  「……」

一 星「(もう一度手話で)雪宮鈴、好きだ」

  「……」

一 星「……」

  「……」

一 星「……」

踏切越しにあふれる想いを伝える一星。

一 星「……」

  「……」

踏切が開き、鈴に向かって走り寄る一星。

鈴・一星「(見つめ合う)」

一 星「(キスしようとする)」

  「待て」

一 星「……!?(めげずに再チャレンジ)」

  「待て待て待て(一星の両頬を、両手で挟んで押し返す)」

一 星「(タコみたいになる)……」

  「(一星の頬から手を離す)」

一 星「(手話で)何で?(もう一度)何で? 何で?」

  「(困る)ん……」

一 星「(手話で)何で?」

  「展開が、早い……」

一 星「……?」

  「年の差10だし……」

一 星「……?」

  「とりあえずステイ」

一 星「……???」

  「(スマホを打ち一星の顔の前に出す。ステイと書いてある)ステイ」

一 星「……」

タイトル

(日替わり)
マロニエ産婦人科医院・外観

同・スタッフ控室

翌朝。スクラブを着て、入って来る鈴。タコみたいになった一星をチラッと思い出し、うふっとなるが、キリリとした顔つきに戻って、出て行く。

遺品整理現場・中

桃野がリビングで段ボールを組み立て、一星と春がガンガン部屋にあるものを段ボールに仕分けている。

リユースの箱に、いろんなものをどんどん入れて行く春。

皿、ブラシ、封筒の残りやトランプ、クリアファイル、タオル、カーラー、ピン、ヘアゴム、おもちゃ、色鉛筆などなど。

一 星「……」

 

3話冒頭より、

  「(スマホを一星の顔の前に出す。ステイと書いてある)ステイ」

 

2話より、ハンバーガー屋で。

  「子どもだな」

一 星「……(むぅ)」

何だかイライラと奥の部屋に向かう一星。

  「……(何かあったな)」

桃 野「こんな封筒も、売れるんですか?」

  「海外リユースに出せばね、捨てるものの方が少ないよ」

桃 野「(箱の中を見て)ガラクタばっかに見えますけど」

  「ユーズドインジャパンは、結構人気あんだよ、東南アジアでは」

桃 野「へえ~、勉強になりました。あそうだ、春さんって、手話、どこで覚えたんですか?」

  「一星に習った」

桃 野「俺も習いたいな~社長の娘さんに習おっかな~」

  「桜? あいつは性格に難あるぞ」

一方、奥の寝室では一星が作業をしている。

部屋の中は若い男性の暮らしを思わせるが、薬の袋があったり、体温計や血圧計などがある。

一 星「(薬の袋を手に取り、病気だったのかなと思う)……」

そのまま棚を整理する一星。

と、その中から小さな包みと封筒が出て来る。

封筒には『南へ』と宛名だけ書いてあり、封はされていない。

ちょっと考えるが封筒の中身を見る一星。

一 星「……!」

更に包みを開けると、そこには指輪。

一 星「……」

一星、段ボールの中を探り、高校の卒業アルバムを取り出し何かを探し始める。

  「(リビングから覗き、肩を叩き、手話で)何やってんの?」

一 星「(春を無視してアルバムを見ている)」

一哉の名前と写真を見つける。

一 星「(あった!)」

その同じクラスに、更に南の名前と写真も見つける。

写メする。

  「(またか、という目で見ているが、自分の仕事に戻る)」

マロニエ産婦人科医院・スタッフ控室

昼休み。鈴と麻呂川がいる。

鈴、スマホを見ながらハンバーグ丼を食べている。

スマホの画面は、手話教室、初心者コース入学案内。

  「……(おもむろに手話教室の申し込みのボタンをポチ)」

深夜がコンビニから帰って来る。

がさごそ机の上に中身を出すと、サンドイッチの量が異様に多い。

  「……(買って来た量が多くて、驚く)……大食い、ですね」

深 夜「えっあっ……すみません。よかったらどうぞ(と差し出す)」

  「え? いやチャーリーに頼んじゃったから(とハンバーグ丼を見せる)」

深 夜「あっですよね……(と戻す)院長……(と差し出す)」

麻呂川「僕は愛妻弁当」

深 夜「あっですよね……(と戻す)」

  「……?」

犬山、蜂須賀、伊達も入って来る。犬山・伊達は持参の弁当を、蜂須賀は買ったパンを出す。麻呂川、弁当を開く。

伊 達「院長のお弁当は、いつもお魚ですね」

蜂須賀「たまには肉食わないと、ダメですよ」

麻呂川「これ、霞ヶ浜で釣ったアジなの。この前行ったら入れ食いで、あ、今度みんなで一緒に行かない?」

犬 山「え、冬ですよ、寒いじゃないですか」

麻呂川「でもさ、たまには病院の外で、絆を深め合うことも必要じゃない?(蜂須賀と伊達に)どう?」

蜂須賀・伊達「行きます~!」

麻呂川「雪宮先生と佐々木先生も行こうよ!」

鈴・深夜「は……(自分達もか、と思い)」

麻呂川「(前のめりに)雪宮先生ソロキャンプ趣味だったもんね!」

  「(否応なく)あ、ですね。……伺います」

蜂須賀「佐々木先生って、休みの日も無駄に病院来てますけど、趣味とかないんすか?(笑)」

深 夜「趣味……趣味……(何も出てこない)」

蜂須賀「無趣味か、寂しいな」

麻呂川「(深夜の肩を抱き)じゃあ、全員参加っていうことで! マロニエの親睦会にしよう! 院長車出すね!」

蜂須賀・伊達「(同時に)ハイッ!」

  「……(そんなに気乗りしていない)」

移動中のポラリスのトラックの中

信号で停まっている。

運転席に春。助手席には昼飯を食べている一星、桃野は真ん中で寝ている。一星の肩を叩く春。

  「(手話で)また何かしようとしてる?」

一 星「(手話で)別に」

  「(手話で)さっき現場で何か手紙みたいの持って帰ったろ」

一 星「……」

  「(手話で)届けるつもり?」

一 星「(無視)」

  「(手話で)……また社長に怒られるぞ」

一 星「(無視)」

春、一星の反応にため息。信号が変わり車が走り出す。

手話教室・表の看板

夜になっている。

同・教室内

恐る恐る入って来る鈴。

10人ほどの生徒がいるが、みな緊張している。北斗もいる。

ホワイトボードには『教室内での音声会話は禁止です』と、書かれている。

  「(何となく会釈)」

他の生徒達「(それぞれ会釈)」

鈴は北斗の隣に座る。

北 斗「(バッグの中を探すも、ペンがない)……(鈴の肩を叩く)」

  「……?」

北 斗「(ジェスチャーで)書くもの、書くもの」

  「……?」

北 斗「(ジェスチャーで)忘れた。書くもの、貸して下さい」

  「……?」

北 斗「(必死でジェスチャーする)」

  「(やっとわかって、シャープペンシルを渡す)」

北 斗「(拝んで感謝し、借りる)……(ややあって、アッと気づく、この人は、この前、事務所に来た産婦人科医だ)」

  「(気づかない)」

その時、講師の橋本が入って来て、教壇に立つ。

橋 本「(手話で)こんばんは。橋本です」

生徒一同「(ポカン)……?」

橋本、微笑んでホワイトボードに「橋本」と書く。

文字を指差し、

橋 本「(手話で)橋本」

もう一度ホワイトボードの文字を指差し、

橋 本「(手話で)橋本です。よろしくお願いします」

生徒達「(なるほど!)」

生徒の中には、わからない人もいる。

 

時間経過して―

プロジェクターのスクリーンに黒い■ が出る。

橋 本「(髪の毛を触る。手話で黒の意味だ)」

生徒達「……?」

橋 本「(スクリーンに赤い■。唇を示す)赤」

生徒達「……?」

橋 本「(スクリーンに桃色の■。桃の形を作る)ピンク」

鈴、ハッとする。色の表現だ。

橋 本「(全部を示して、手話で)色」

すぐわかる生徒もいるが、北斗はわからない。

 

時間経過して―

スクリーンに、様々な職業人のイラストが並んでおり説明の途中の様子。

橋 本「(先生の絵を示し、手話で)先生(自分を指差し)先生」

生徒達「(なるほど……と思いながら真似をして)先生」

橋 本「(医師の絵を示し、手話で)医師」

生徒達「(手話で真似をして)医師」

 

時間経過して―

鈴と北斗、ペアになって自己紹介をしている。

  「(手話で)雪宮鈴です。医者をしています。(産婦人科……と伝えたくなりお腹大きい ……みたいなジェスチャーをするが、どう伝えたら? となり、橋本の方を見る)」

橋 本「(鈴に空書きをうながす)」

北 斗「(なぜか橋本を止め、食い気味でうんうんうなずき、手話で)わたしの名前は北斗千明! わたしの仕事は(考え込む)……(ジェスチャーで人が死ぬ、荷物、整理する、を必死でやるが、鈴には通じない)」

鈴・橋本「……???」

北 斗「(今度は立って、全身で必死に遺品整理士を表現するが、伝わらない)」

  「……???」

橋 本「(手話で)空書きして下さい!」

北 斗「(たまらず、空に字を書く。遺)」

  「(漢字が難解でわからない)んん?」

北 斗「(困りながらも続けて空に字を書く。品)」

 鈴 「しな……?」

居酒屋・店内

すっかり仲良くなって飲んでいる鈴と北斗。

北 斗「頭使って疲れたけど、面白いね、手話って」

  「連想ゲームっぽかったですね」

北 斗「(手話と声で)遺品整理士。忘れないようにしなきゃ」

  「最初、お坊さんかなって思いました」

北 斗「あはは~、確かに。雪宮先生の顔見た時、すぐ、あの時、うちの事務所に来た産婦人科の先生だって気づいたんだけど、声出せないからさ」

  「遺品整理って、どんなことするんですか?」

北 斗「両親が亡くなった後の実家の整理が一番多いかな? でも最近は生前整理も増えてるの。ひとり暮らしの高齢者が、病院とかホームに入る前に、すべてを整理したいとか、子ども達に迷惑かけないようにしておきたいとか」

  「へえ……」

北 斗「ゴミ屋敷の片付けとか、たま~に殺人現場、自殺現場の後片付けもあるな。特殊清掃って言うんだけど」

  「……」

北 斗「でも面白い仕事だよ。遺品には、その人の生き様がつまってるからさ。今って時代がよく見えて来るし」

 鈴 「すごいお仕事ですね」

北 斗「雪宮先生と同じよ。生まれるも死ぬも、同じ人生のうちだから」

 鈴 「……一星さんは、いつからポラリスで働いているんですか?」

北 斗「あいつんちの遺品整理したの、わたしだったからさ」

  「え……?」

*   *   *

一星が遺品整理士を目指したきっかけとは―ー。続きは本誌にてお楽しみください。

関連書籍

大石静『星降る夜に シナリオブック』

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。 感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。 対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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星降る夜に

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。

感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。

対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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大石静 脚本家

東京生まれ。脚本家。1997年にNHK連続TV小説『ふたりっ子』で向田邦子賞と橋田賞を受賞。脚本作品に大河ドラマ『功名が辻』『セカンドバージン』『家売るオンナ』『大恋愛~僕を忘れる君と』『和田家の男たち』など多数。

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