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星降る夜に

2023.04.02 公開 ポスト

第5話 一星と手話のお陰で、誰かと話すのが楽しくなった大石静(脚本家)

テレビ朝日系 火曜21時ドラマ『星降る夜に』の感動を完全収録したシナリオブックがついに発売!
心ときめく大人のピュア・ラブストーリーから、一部試し読みをお届けします。

★人物紹介★

雪宮 鈴(吉高由里子)……産婦人科医。常に冷静に振る舞い、誰かに頼ることが苦手。息抜きに行ったソロキャンプで、10歳下の柊一星と運命の出会いを果たすことに。

柊 一星(北村匠海)……遺品整理士の青年。感情豊かで明るい性格。音のない世界を生きる。手話や筆談などで会話をする。偶然出会った雪宮鈴に一目惚れする。

佐藤 春(千葉雄大)……一星と同じ職場に勤める遺品整理士。親友であり、先輩でもある一星のことを心から尊敬している。

北斗千明(水野美紀)……「遺品整理のポラリス」の社長。一星が遺品整理士になるきっかけを作った人物。

佐々木 深夜(ディーン・フジオカ)……45歳の新米医師。美しい風貌とは裏腹に、衝撃的なヘタレポンコツで、病院中のスタッフから毎日叱られている。

4話のラストより、リフレイン。

一 星「(鈴をバックハグしており、後ろから手話で)鈴が、好き」

 鈴 「……」

一 星「(手話で)鈴が、大好き」

 鈴 「(手話と声で)わたしも、一星が好き」

一 星「(反応で)え?」

 鈴 「(首だけ振り返る)」

一星、手をほどき、鈴は一星に向かって立つ。

向かい合う2人。

一 星「…………」

 鈴 「(面と向かって、手話と声で再度伝える)わたしも、一星が好き」

一 星「………(恐る恐る鈴の頬に両手をそえる)」

 鈴 「(目を閉じる)」

一 星「………(壊れ物に触るようにそっとキスする)」

一度離れて、見つめ合い、

一 星「………」

 鈴 「………」

再び2度目のキス。

2度目は激しく。

一 星「(そのまま、鈴を欄干に押し付ける。欲望を抑えきれない感じ)」

その時、鈴のスマホが鳴る。

 鈴 「!」

一 星「(鈴の反応で電話とわかり、ガッカリ)」

 鈴 「(突然医者の顔に戻り、スマホを見る)」

画面に『佐々木深夜』とあるのを見逃さない一星。

 鈴 「(電話に出る)はい。……わかった、すぐ行く」

マロニエ産婦人科医院・外来診察室

内診台にうたが寝かされて、お腹の痛みに悶(もだ)えている。

深夜が診ている。鈴、飛び込んでくる。

深 夜「雪宮先生」

 鈴 「今からお腹の赤ちゃんと子宮の状態を調べていきますね」

と処置室の扉が開き、春が入って来ようとする。

 春 「うた! うた!!!(と言いながら過呼吸気味になり膝をつく)」

深 夜「佐藤さん、落ち着いて」

と春を抱え、処置室から出てゆく深夜。

代わりに伊達が入って来る。

 鈴 「(伊達に)超音波も用意しておいて」

伊 達「はい!」

同・廊下~待合室

動揺している春は、座り込み過呼吸気味になっている。

深夜が春の背中をさすり、ひざまずいて寄り添っている。

 春 「(深夜の胸倉をつかみ)どうなってるんですか、俺も入れて下さい!」

深 夜「(その春の手を握り)大丈夫ですから、落ち着いて下さい。大丈夫ですから、ゆっくり呼吸しましょう(と、一緒に呼吸)」

 春 「どういう根拠で大丈夫なんですか! うたが死んだりしたら、俺は!」

深 夜「(その言葉が、一瞬自分の過去と重なり言葉につまるが)……大丈夫です。雪宮先生と僕に任せて下さい」

鈴とともにやって来たらしい一星も片隅にいるが、春の目にも深夜の目にも入らない。

一 星「……」

 春 「(すがるように深夜に)お願いです中に入れて下さい」

深 夜「奥様も今頑張ってますから。待ちましょう。僕もここにいますから」

伊達が経膣超音波の準備のため、診察室から走り出る。

一 星「………」

音のない世界。

一 星「………(無音の中、ドタバタする医師や看護師を見ている)」

何も聞こえず、誰にも声をかけられず、孤立する一星。

一 星「…………」

同・表の道

ひとり医院を出て来る一星。

タイトル

(日替わり)

マロニエ産婦人科医院・外観

同・医局

目覚める鈴。

ぼんやり昨日の記憶を辿り、自分の胸にあるネックレスに触れる。

そういえば、昨日一星はいつ帰ったのだろうかと思う。

同・廊下~外来待合室

鈴が歩いて来ると、誰もいない待合室のソファーで、寝ている深夜。

 鈴 「……(起こさず通過)……」

バス停近くの海の見える道

海辺を見つめている春。

 春 「……」

遺品整理のポラリス事務所・中

出勤して来る服部。既に一星がいる。

服 部「(肩を叩き)おはよう」

一 星「(手話で)おはようございます」

一星のスマホがバイブレーションする。鈴からメッセージだ。

『昨夜、いつのまに帰ったの?』

『うたさん、大丈夫だったよ。春さんも病院に泊まった』

一 星「……(昨夜の無力な自分を思い出し)」

と肩を叩かれる。北斗がいつのまにか出勤しており、『春、今日休み、知ってる?』と書かれたボードを見せてくる。

一 星「(知っているとうなずく)」

北 斗「(一星をぽんぽんと叩き)昨日、大変だったんだってね」

一 星「(唇は読めないが気遣われたことはわかる)……」

服 部「春がいないと、一星まで静かね」

北 斗「静か過ぎて怖いわ」

服 部「いつも静かではあるんですけど」

北 斗「静かだけどうるさいのよね」

服 部「ニコイチだから、相方がいないと、心細いんだ(笑)」

と2人が会話している隙にスマホを打つ一星。

一 星「(急にスマホを見せ)春の仕事、俺、全部行きますから」

北 斗「え」

服 部「ひとりじゃ無理でしょ、あんた別の仕事あるし」

北 斗「(ボードに「ひとりじゃ無理」と書いて見せる)」

服 部「(PCを見ながら)社長、午後からの生前整理行って下さい。鑑定と見積もりはわたしひとりで行きますから」

北 斗「わかった」

一 星「(自分の主張が無視されたことはわかり、イラっとして北斗のボードを奪い)全部、俺が行く(と書き殴り、服部のデスクに叩きつける)」

服 部「ほ!?」

一 星「(手話で)俺は医者でもないし、聞こえないし、何の役にも立たないけど、仕事はするよ」

と出て行く。

服 部「何イラついてんだあいつ」

北 斗「……」

バス停近くの海の見える道

春が海を見つめている。

鈴が来る。

 鈴 「おはようございます」

 春 「あっ……昨夜は、お世話になりました」

 鈴 「……」

マロニエ産婦人科医院・病室

う た「(目覚めるが、春がいないので)……」

深夜が覗く。

深 夜「おはようございます」

う た「おはようございます、あの、わたし……」

深 夜「切迫流産かと思って心配したんですが、急性虫垂炎でした」

う た「盲腸ですか……?」

深 夜「(うなずき)手術も考えられたんですが、うたさんの状態から抗生剤で散らす治療法を選択しました。その代わり、しばらく入院して頂くことになります」

う た「ありがとうございます。あの、夫は仕事に行ったんでしょうか?」

深 夜「お仕事は休むとおっしゃってました」

う た「(つぶやくように)あの人……流産すればよかったと思ってると思います」

深 夜「……」

 

深夜の回想フラッシュ。

4話より、診察室で。

 春 「……自分は、子どもが欲しいと、思っていなくて……」

 

 春 「こんなこと言いにくいんですけど、いつまでなら、中絶できるんでしょうか?」

 

深 夜「……(顔がこわばる。というか困った時のいつもの変な顔になる)」

う た「……先生、そんな顔しないで下さい(ちょっと笑ってしまう)」

深 夜「へっ……?」

う た「すみません、先生を困らせるつもりじゃないんです」

深 夜「え、そんな顔……また僕変な顔してました? すみません」

う た「いや、だから、謝らないで下さい(と笑い出す)」

うたの笑顔を見て、深夜も微笑む。

深夜の持つ雰囲気で、その場の空気が柔らかくなる。

バス停近くの海の見える道

並んでベンチに座っている鈴と春。

 春 「うたがあんなによく眠ってるの、久しぶりに見ました」

 鈴 「……」

 春 「俺と違って、ハードな仕事してるから(笑)」

 鈴 「遺品整理の仕事だって、ハードな仕事でしょ」

 春 「……俺は一度、負けてるんで。うたは俺が辞めた会社で、今も戦い続けてる。俺なんかよりずっと立派なんです」

 鈴 「春さんは、立派じゃないの?」

 春 「俺はダメですよ」

 鈴 「……」

 春 「昨日、うたが死ぬかもって思ったら、目の前が真っ暗になって……。妊娠も、倒 れるまで我慢してたことも、傍にいたのに気づかなかった。これじゃ夫失格ですよね」

 鈴 「……」

 春 「ほんと、情けないし、恥ずかしいです」

 鈴 「……わたしもそう思ってたな」

 春 「……え?」

 鈴 「わたし、訴えられて、大学病院追われたの。それでマロニエに来たんだ。あの頃は、自分は世間でいう負け組だって思ってた」

 春 「……」

 鈴 「でも最近は、違うのかも、って思い始めてる」

 春 「……」

 鈴 「山に登ってたはずなのに、いつのまにか川に流されてて。でも流されてるうちに、周りの景色が変わってきて。あれ? ここも案外居心地いいな? ここが自分の居場所なのかも? ……って、思ったりして」

 春 「……」

 鈴 「こういう人生が正解っていうのもないし、生きてく場所なんて星の数ほどあるわけだし……もちろん、昔思い描いてた医者像とはだいぶ違うけど、今は今で、悪くないかも、って最近は思うんだ」

 春 「……」

 鈴 「あれ自分の話になっちゃった。ごめん。全部海のせいだ~ってことでいい?(笑)」

 春 「(やっと少し微笑んで)」

 鈴 「(も微笑む)」

マロニエ産婦人科医院・スタッフ控室

パソコンを見ている犬山。覗き込んでいる伊達。

蜂須賀は、スマホで同じサイトを見ている。

 

マロニエ産婦人科医院・公式SNS の、先日院長がアップした釣りの時の鈴と深夜の2ショット写真にコメントが殺到している。

『雪宮鈴は人殺し』

『マロニエに行くな』

『妊婦を殺される』

蜂須賀「……何なんこれ」

伊 達「コワ」

犬 山「キモいねえ」

伊 達「雪宮先生が、人殺しってどういうことですか?」

犬 山「……」

蜂須賀「ん? ん? もしかして、これ同じやつかな?」

伊 達「何でですか。アカウント違いますけど」

蜂須賀「わたしだって10個アカウント持ってるし」

伊 達「え~! そうなんですかぁ」

犬 山「こういうのって、消せないの?」

蜂須賀「違反報告しときますけど、でもちょっと時間かかるかも」

犬 山「何でもいいから、早く消してよ」

伊 達「その間に拡散されちゃいますよ」

電話が鳴る。

伊 達「(出る)マロニエ産婦人科医院でございます……あ、林さん、おはようございます……え、それはいたずらだと思いますけど……いえ、そんな、雪宮先生はそんな(切れる)」

犬山・蜂須賀「…………」

鈴が入って来る。

犬山・蜂須賀・伊達「…………」

 鈴 「………?」

犬 山「(意を決して)隠しててもわかっちゃうと思うんで、これ(と画面を見せる)」

『人殺し』というワードが、鈴の目に入る。

 鈴 「………!」

男の声「人殺し!!!」

*   *   *

突然の中傷コメントに、呼び起こされる鈴の過去―ー。続きは本誌にてお楽しみください。

関連書籍

大石静『星降る夜に シナリオブック』

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。 感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。 対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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星降る夜に

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。

感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。

対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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大石静 脚本家

東京生まれ。脚本家。1997年にNHK連続TV小説『ふたりっ子』で向田邦子賞と橋田賞を受賞。脚本作品に大河ドラマ『功名が辻』『セカンドバージン』『家売るオンナ』『大恋愛~僕を忘れる君と』『和田家の男たち』など多数。

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