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星降る夜に

2023.04.05 公開 ポスト

第6話 死は絶望とか終わりじゃなくて、生の続きなんじゃないかって思う大石静(脚本家)

テレビ朝日系 火曜21時ドラマ『星降る夜に』の感動を完全収録したシナリオブックがついに発売!
心ときめく大人のピュア・ラブストーリーから、一部試し読みをお届けします。

★人物紹介★

雪宮 鈴(吉高由里子)……産婦人科医。常に冷静に振る舞い、誰かに頼ることが苦手。息抜きに行ったソロキャンプで、10歳下の柊一星と運命の出会いを果たすことに。

柊 一星(北村匠海)……遺品整理士の青年。感情豊かで明るい性格。音のない世界を生きる。手話や筆談などで会話をする。偶然出会った雪宮鈴に一目惚れする。

北斗 千明(水野美紀)……「遺品整理のポラリス」の社長。一星が遺品整理士になるきっかけを作った人物。

佐々木 深夜(ディーン・フジオカ)……45歳の新米医師。美しい風貌とは裏腹に、衝撃的なヘタレポンコツで、病院中のスタッフから毎日叱られている。

駅近く(5話振り返り)

街はバレンタインモード。

歩いている鈴。

その手にさっき購入したらしい、チョコレートの小さな紙袋。

遺品整理のポラリスのトラックの中

5話ラストの手前に時間を戻して――トラックの運転席に一星。助手席に桜。

車が駅の近くに停まる。

  「鈴先生とデート?」

一 星「(聞こえていない。手話で)今日どこ行くの?」

  「(手話で)どこだっていいじゃん」

一 星「(手話で)何怒ってんだよ(と、桜の頬をぶにっとつかむ)」

  「いった」

一 星「(鼻で笑い、手話で)ガキだな」

  「…………」

一 星「(何で降りないのかな)………?(手話で)あ。そういえば昨日差し入れで桜餅もらってさ。お前子どもの頃桜餅好き過ぎて、(思い出し笑いしながら)食い過ぎて腹壊したことあった(よな)」

  「(一星に衝動的にキス)」

一 星「………!!」

駅近く

トラックを見つけた鈴、一星と桜のキスを見て立ちすくむ。

  「………!!」

ポラリスのトラックの中

一 星「(桜の気持ちに、まったく気づいていなかったので、たまげる)」

  「(手話で)もうガキじゃない」

一 星「…………」

  「(手話で)一星が好き」

一 星「…………」

  「(手話で)初めて一星が家に来て、『桜』って手話を教えてくれた日から、ずっと」

桜の回想・遺品整理のポラリス事務所・駐車場

自転車を修理している一星。

小学校中学年の桜が、走って来て一星に抱き着く。

  「一星」

一 星「(妹のように抱きしめる)」

  「(手話と声で)一星、こんばんは」

一 星「(手話で)すごい!」

  「(大きく口を開けて)さ・く・らはどうやんの?」

一 星「(手話で)桜」

  「(手話と声で)桜。一星、桜」

一 星「(うなずく)よきよき」

微笑ましく見ている北斗。

遺品整理のポラリスのトラックの中

  「(一星を見つめ、手話で)気づかなかった? 一星鈍感だもんね」

一 星「(桜を見つめ、手話で)俺は」

  「(一星の手をつかんで、手話を止め、声で)言わないで」

一 星「…………」

  「わかってるから」

一 星「…………」

  「(手話と声で)一星が鈴先生を好きなの、わかってる」

駅近く・電信柱の陰

桜の手話がわかる鈴。

  「…………」

遺品整理のポラリスのトラックの中

  「………あああ違う、こんなことするつもりなかったのにな、あ~わけわかんない。とりあえず(手話と声で)わたしは一星が好きだから! 返事はいらない! じゃ(トラックを降りて走って行く)」

一 星「…………」

ふと見ると、助手席に紙袋が残っている。

桜を呼び止めようとするが、袋の中を見るとバレンタインのチョコレートだ。

一 星「…………」

駅近く

駅に向かって走って行く桜。

鈴が身を隠している電信柱の前を通過。

桜が泣いているのが、鈴にも見える。

  「…………」

遺品整理のポラリスのトラックの中

一 星「…………(呆然)」

その時、ドンドンとドアが叩かれて、振動で我に返る一星。

鈴が乗り込んで来る。

  「(明るく)よっ!」

シートに座る鈴。

一 星「…………」

  「…………」

微妙な間の後、一星の手元にある紙袋に気づく鈴。

一 星「(鈴の視線に気づき)………!(紙袋をどこかにしまう)」

  「…………」

一 星「(手話で)行こうか」

  「うん」

北斗の家・LDK

北斗が郵便物を見ている。

北斗千明宛で、原田すみれという人から封書が来ている。

住所は須羽市木津原町だ。

北 斗「(ドキッとして、その封筒を眺める)」

桜が帰って来る。

桜の声「ただいま」

北 斗「(思わずその封筒を隠す)お帰りなさい」

桜、弁当箱をキッチンに出して、

  「後で洗うから(と自室に向かう)」

北 斗「…………」

同・トイレ

北斗が入って来て、原田すみれからの封書を開く。

『突然、こんな手紙を差し上げることをお許し下さい。

実は来月、南アフリカに移住することになりました。

もう日本には帰らないと思います。最後に一度だけ、自分が産んだ娘に会いたいのです。

身勝手過ぎることは重々承知しておりますが、何とか―』

北 斗「(途中まで読んでやめる)」

同・桜の部屋

入って来る桜。

  「あ~やっちまったよ~……ううううう~(と、奇妙な体の動きで、やりきれない思いを炸裂させる)」

桜の部屋には、いろいろな写真が飾られている。

幼い桜を真ん中に一星と北斗の3ショット、深夜と北斗と桜の3ショット。桜が撮った一星と春の2ショット。一星と桜の2ショットなど……。

  「(はたと止まり)あれ、チョコ……。(思い出し)うーわ車の中だ、あああああ~(と更に悶絶)」

同・トイレ

北 斗「ぬうううう~(とこちらも奇妙な体の動きで悶絶)」

星空の美しい場所

鈴と一星がベンチに座っている。

  「(空を見上げて)星、見えるかな」

一 星「…………」

  「………(見上げている)」

一 星「(グイッと鈴の肩を持ってこちらに向かせ、手話で)この前は、ごめん(頭を下げる)」

一星の回想フラッシュ。

5話より、鈴の自宅マンション。

一 星「(手話で)何でこいつがここにいるんだ!」

一 星「(手話で)俺はそんなに頼りないのか? 聞こえないから? 年下だから?」

一 星「(手話で)俺じゃ、鈴を、守れない………!(飛び出して行く)」

 

一 星「(頭を下げているが、チラッと上目づかいに鈴を見る)」

  「…………」

一 星「(手話で)俺は非常に器の小さい男だ。心配で駆けつけたのに、嫉妬して、八つ当たりした」

  「…………」

一 星「(手話で)あっちは医者だし、大人だし、イケメンだし、聞こえるし、背もちょっと高いし、俺より先に鈴のところに駆けつけるし。だからカッと来た。でも、完全に俺が悪かった。子どもだった」

  「(手話と声で)もういいよ」

一 星「(自分で自分の頭をポコポコ叩く)」

  「(叩く手を止めて)もういいって」

一 星「(ホッとする)」

  「……(手話と声で)それより、他に言うことない?」

一 星「………?」

  「(手話と声で)桜ちゃんに、さっき告白されたでしょ」

一 星「………!(見てたんだ)」

  「(手話と声で)見ちゃった。トラックの中で話してるの。手話だからわかっちゃって」

一 星「(手話で)俺が好きなのは鈴だから」

  「(手話と声で)わかってる」

一 星「(手話で)わかってんなら言うな!」

 鈴 「すぐすねる」

すぐカッカする一星に比べて、落ち着いている鈴。

カバンから、駅の近くで買ったチョコレートを出す。

 鈴 「(手話と声で)じゃあこれはいらないんですね」

一 星「………!(チョコだ)」

  「(手話と声で)桜ちゃんにも、もらってたみたいだし(と、自分のチョコをカバンにしまう)」

一 星「!(手話で)下さい、下さい、お願いします」

  「(吹き出して)はい(とチョコを渡す)」

一 星「………(チョコを抱きしめ、感動を嚙みしめる)」

  「(手話と声で)わたしが好きなのも、一星だよ」

一 星「(手話で)仲直り?」

  「(手話と声で)仲直り」

一 星「(うれしい)…………(そのままコテンと横になり、鈴の膝枕で寝る)」

  「………(かわいいと思う)…………」

一 星「(手話で)………星って生と死の境目にあるような………生と死をつなげてるような感じがする」

  「………(星を見上げて)」

一 星「(手話で)俺達が見ているあの星のいくつかは、今はもう存在しない。何万年も前に放った光が、やっと今、地球に届いてるから」

  「生と死の境目を今見てるんだ、わたし達」

一 星「…………」

  「わたしの仕事もそうかも」

一 星「?」

  「(手話と声で)壁1枚隔てて生と死が隣り合わせてるの。命が生まれた隣の部屋で、当たり前に死産がある。その間で医者は何もできない。遺された人のことも救えない」

一 星「(手話で)生と死はあまり変わらないのかも。死は絶望とか終わりじゃなくて、生の続きなんじゃないかって思う……遺品整理士やってると」

  「…………」

一 星「(手話で)でも人は、明日は当たり前に来ると思うから、近しい人の死に、戸惑ってしまうことも多い」

  「…………」

一 星「(手話で)だから明日死んでも悔いがないように、俺は伝え続けるよ」

  「?」

一 星「(手話で)鈴、好きだ。一緒に暮らそう」

  「………え?」

一 星「(手話で)鈴は俺が守るから」

*   *   *

一緒に暮らすことになった一星と鈴。しかし、ついに鈴の前に“あの男”が姿を現す――。続きは本誌にてお楽しみください。

関連書籍

大石静『星降る夜に シナリオブック』

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。 感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。 対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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星降る夜に

テレビ朝日火曜よる9時放送のドラマ『星降る夜に』のシナリオブック。

感情を忘れて孤独に生きる産婦人科医と、音のない世界で自由に生きる遺品整理士。

対照的な2人が織りなす大人のピュア・ラブストーリー。

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大石静 脚本家

東京生まれ。脚本家。1997年にNHK連続TV小説『ふたりっ子』で向田邦子賞と橋田賞を受賞。脚本作品に大河ドラマ『功名が辻』『セカンドバージン』『家売るオンナ』『大恋愛~僕を忘れる君と』『和田家の男たち』など多数。

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